55.私─王都セントリアへ。
「ギルドマスター、行ってきます!」
「あぁ、沢山学んで来い! 後は向こうの冒険者ギルドでも頑張れよ!」
「はい!!」
うんうん、素敵かな。
ガシッとギルドマスターとリコが抱きしめ合ってるのを見ていて、何だか心という部分が暖かくなるのを感じる。
あぁ、なんて心地良いのだろう。
そんな事を思いながらも私の左手はステラの頭を、右手はウルの毛並みをワサワサと撫でている、そんな私も中々、人になったと言えると思う。
「リコちゃんは私の財産になるの?」
「財産と前は言ったけれども、それじゃあ寂しいかも知れないね。もっと、単純に大切な人と言い換えた方が適切だったかも知れないね」
先日、一緒に湯船に浸かっている時に聞かれたので私はそう言い換えたのが懐かしい。
そうだ。きっと、人というのは色々こねくり回して考えてしまうが、その実は至ってシンプルなのかも知れない。
なかなか、こう…素晴らしいものだ。
うんうんと、改めて頷いていると向こうも抱擁が終わったのかギルドマスターがこちらに歩いてくるのが見えて、私の撫で撫でタイムも終わる。
「アメリア殿、この度は改めてお礼を伝えたい。ありがとう。どうか、リコの事を頼む」
「ああ。しっかりと保護者としても承ったよ」
ギルドマスターが手を差し出して来たので、私も快くその手を握る。
隣を見たらステラとリコもお互いに照れるように握手をしてはその手の上にウルもその手を重ねている。
「ふふっ。ああ、そろそろ時間だな。さぁ、行こうか」
チラッと時計を見たら馬車もギルド前に来る指定の時間だ。
冒険者達も朝のクエスト受注ラッシュから落ち着いた頃だ。
受付嬢達もコチラに少しずつ来ては、それぞれリコに挨拶を交わして行っている。
私もあの世界の時は──そうだ。
きっと、周りは暖かく私を送り出してくれていたのだろう。
そう思うと、心という部分に暖かさとズキッとした痛みのどちらも来るのを感じる。
けれども、それはもう私が歩んでしまった人生であって、そして私として居る為には必要な事なのだったと思う。
「アメリア?」
「クゥン?」
「ん? ああ、大丈夫。ふふっ、少しだけ。少しだけ、色々とこれからを楽しみに感じていただけだよ」
そう言って、私は上手く笑えたと思う。
確かに、これは本心の心だ。
財産と言った。
人との繋がりは財産だと。
そして、大切な人になるとも言い換えた。
記憶や想いは今も私の中に、そして繋がりは亜空間に。
きっと、本来。人としてはもっと違った繋がりが正解だったのだろう。
けれども、私は背負うと決めたのだ。
大罪スキルは鳴りを潜めている。
けれども、常にそれらは私を見つめている気がする。
うん。大丈夫だ。
新しく迎え入れるリコの頭も私は優しく撫でる。
暖かい。
そして、綻ぶ顔が可愛い。
「さぁ、行こうか。王都セントリアへ」
私はステラとリコの手を繋いでは馬車へと向かう。
ウルも尻尾を沢山振っては嬉しそうだ。
暖かい風を感じた気がした。
けれども、それは身体を温めたのではなくて、心を暖めたのだと私は思う。
そして、御者の方が優しく馬へと指示を出しては私達を乗せた馬車は王都セントリアへと新たに旅へと出るのだった。




