51.私─乗合馬車の旅。
「わぁ! ワンちゃんだ!」
「クゥン……」と、乗合馬車に乗った所で、家族連れで冒険者の街レイストまで移動する冒険者夫婦に出会っては、その子供にウルは揉みくちゃにされていた。
(僕はワンちゃんじゃないよ……)と、念話で伝わって来るが、私もウルの頭を撫でつつ(分かってるよ)と伝えると、心無しか諦めたのか、そのまま揉みくちゃにされていた。
「ダンジョンって、沢山あるんですね!」
「ええ、そうよ。初心者から上級者向けまで、お誂え向きにあるから、冒険者なら憧れの街ね」
「色んなサービスも充実しているから、家族でも住みやすいんだ。それに素材もダンジョン産のアイテムも充実しているから、商業系ギルドや錬金術ギルド、その他、色んなギルドも活気があって本当に素敵な街なんだよ」
「へぇ〜!」と、ステラはニコニコしながら夫婦の話を楽しそうに聞いている。
元から、そんなに他人との距離を作るタイプでは無かったようだけれども、だいぶ人と打ち解け合うのが熟れて来てると思う。
一体全体、誰に似たのだか。
そんな長旅のスケジュールであったのだが、道中は馬を休めつつ行くため、食事を共に食べたりなどしていく過程で、この家族以外の乗合の方とも親睦を深めながら進んでいたのだが「ゴ、ゴブリンだ!」と、御者の声で、その平和が乱されるのはすぐの事だった。
「ゴブリン……!」
「ウォン!」っと、ステラに続いてウルも鳴いては馬車の外に出ていた。
「あっ、皆さんは中でどうぞ」
「私達も行きますよ!」と、家族の冒険者夫婦が言っていたが、「お子さんを守ってあげて下さい」と丁重にお断りする。
そして、手早く外に躍り出ては周囲を見やると、それなりにはゴブリンが出没していた。
「うーん、行けそうかな?」と、呟いているとステラとウルは聞こえていたのだろう。
「行けるよ!」
「ウォン!」と応えてはゴブリンに斬り掛かって行っていた。
若いって凄いね。
そんな安直な感想しか出てこなかったが、私も何もしない訳では無い。
馬車を狙ってこようと遠くから弓を引いているゴブリンを見掛けては、小さな石礫を魔法で作っては風魔法で飛ばしてはゴブリンを潰していく。
コツがあるとすれば、なるべくグロテスクにならないようにと、討伐証明にもなる箇所をなるべく残すようにする事だ。
以前のように、そう──あの頃のゴブリンの集落の時みたいには虐殺はしないのだ。
弁えているとも言える。
ステラとウルはそんな中でも、ゴブリンの攻撃を棍棒を跳ね除けては斬りつけ、時にはウルが撹乱しては斬りつけ、時には噛み付き、流石のコンビネーションといった所か、ゴブリンの数は減っていき、私も逃げ出すゴブリンを同じ要領で狩り取っては数分後には周囲のゴブリンの掃討が済んでいたのだった。
「お強いのですね」
「えへへ」
「ワンちゃんも凄い!」
「ウォン!」と、ワンちゃん呼びは横に置いたのだろう。ステラとウルは嬉しそうにしては、あの後は討伐部位を回収しては死体はコソコソと私の亜空間に収納しつつ、片付けが終え次第のご飯時に2人は褒められては喜んでいた。
「冒険者様が居るから、私共も安心して、このお仕事が出来るのですよ」と、御者が安堵したように言っていたのが印象的だった。
そのまま、何も無ければ冒険者の街レイストに辿り着くだろうと目算が付いていては「何事も無ければ、良いのですが」と御者が零した言葉から数日後の昼過ぎ──今度はオークに襲われていた私達が居た。
特に運が無かったのは、小休憩を挟むタイミングで近くに水場があるとかで、私達もその水場を観に行っていたタイミングだった。
「パパー! ママー!」と、冒険者夫婦の娘がオークに捕らえられては、冒険者夫婦も無駄に抵抗が出来ずに拘束されては馬はいたぶり殺された後なのだろう。
御者の方もグッタリと抱えられては連れ去られている所だった。
「ど、どうしよう」と、ステラが私を見て言ってくるが。正直、見捨てるとしたら即座にオークを殺せばいい。
だけれども、その選択は冒険者夫婦、その娘、御者も含めて殺される可能性が格段に跳ね上がる。
あぁ、これが人間の感情か。と、私は不意に思ってしまった。
人間とは弱いものだと思っていた、あの頃があったがどうやら私も弱い存在になってしまったようだ。
「今は拘束されよう。でも、隙を見ては皆を助けよう」
「う、うん!」
「ウルはそのまま遠くから私達を追ってきておくれ」
「ウォン!」と、分かった! と、ウルの声を聞いてはウルは私達から離れていき、私達も姿を見せては囚われて、彼らオークの巣穴へと持ち帰られるのだった。
「オトコ、タベル。オンナ、オカス」
「リーダー、モッテイク」
うんうん、知性はそこそこあるようだ。
暫く、抱えられては進んでいくと森の中に無骨にある洞窟──いや、巣穴があった。
そして、私達以外にも囚われていたのだろう。
パッと見は女性の冒険者達の姿もそこにはあった。
「ボス、リーダー、ソロソロ、モドッテクル」
なるほど、そろそろ戻ってくると。
そしたら、タイムリミットなのだろう。
知性があるようで、無いのがオークという印象だ。
冒険者も縛っているから安心だとでもいうのか、私達を女性冒険者達と一緒にまとめては見張っているのが運の尽きだろう。
「あの、大丈夫ですか……?」
「は、はい。でも、こんなにオーガが街の近くに居たなんて。私達はそんな情報知らなくて。あなた達は?」
「乗合馬車で街に向かう所で──」と、会話し始めたのが気に食わなかったのだろう。
コチラをオークは睨め付けては「ウルサイ」と言ってくる。迫力満点で、冒険者夫婦の娘さんは「ヒィ」と言っては震えてしまっていた。
まぁ、通常縛られていると魔法とは扱いづらいものだ。
威力や安定性を増幅させる為に人は杖などの触媒を通して、魔法を発現させているのが通説だ。
だけれども、私に限っては別だ。
有ろうと無かろうと、スキルと経験が私のそれを可能にしては発現させてる。
「よし、ステラ。準備を。皆様も、これから縄を解くので、自身の事は自身でお守り下さい」
「分かったよ、アメリア」
「え、なんと?」と、反応は後で説明でもしよう。
ステラの返事を聞いては、捕縛されてる皆の縄をシュルリと解いては石礫を発現させては周囲のオークに目掛けて飛ばしていく。
石礫は尖端を尖らせては捻りを加えて飛ばすことで更に威力を増している。
オークの厚い皮膚も簡単に抉り、貫通してはオークの悲鳴が周囲に轟く。
(アメリア! アメリア! そっちに冒険者が行ってるよ!)
(救助隊かな?)
(多分!)と、ウルの念話も届いてくる。
今のオークの悲鳴で場所の判別が着いたのかな?
ウルには間違われて襲われるのも怖いので、一旦状況が落ち着くまでは来ないように指示を出しては、私も亜空間から、まぁ、アイテム袋から取り出すような素振りで剣を取り出す。
「私も久し振りに振るおうかな」
「アメリア、そっちに!」
「はいはい」
「オンナ! オンナ! オンナー!」
「少し、黙ろうね」スパッと、オークの攻撃を掻い潜っては首元を一閃。綺麗に斬れた首元からは血はすぐには流れては来ず、バタンとオークが倒れてから、ドロリとオークの首から血が流れてきていた。
私の一閃はなかなか、見応えがあったのか。
「す、凄い」と女性冒険者の声と、ジリジリとその身を後退させたオーク達で中々の受け取り方の対比が出来ていた。
「隙あり!」と、そんな隙を逃すステラではない。
ステラも首元へ何とか追い縋っては一閃させてはオークを討ち取っていた。
オーク達が瓦解するのは早かったが「ウオオオオ! ニゲルナ! タタカエ!」と、現れたオークキングと。
「救助に来たぞ!」と、これまた冒険者ギルドからの緊急依頼なのか、冒険者達がかち合うのも運命だったのだろうか。
それを機に、ここは戦場となっては混戦へと入っていくのだった。
「オンナ! オンナー!」
「させない!」
「おー、いい一閃だね」
「クゥン……」と、救助に来た冒険者達とオークキングとその一行が戦ってる間に、私達は下がっては女性冒険者達と乗合馬車で一緒だった方たちと合流してははぐれて来たオークを適度に討伐しながら、周囲を警戒していたが、流石にウルも大丈夫だと判断したのかノソリと現れては私に頬ずりをしては「ワンちゃん!」と言っては駆け寄ってきた娘達や、疲れた表情の皆へとアニマルセラピーをご提供していた。
あのフワフワが落ち着くのは私も知っている。
いや、今までは知らなかったが、人間に生まれ変わって理解したというべきだろうか。
それに、あの時は。
昔、似たような状況になった時は私は何も感じていなこったのが、不思議な位に、この人達を助けられて、良かったと安堵していた。
近寄ってくるオークはステラに任せて、私は何もしていなかったと言う訳ではない。
オークキングは強い。強いが1対を多数で相手取るなら充分な相手だ。
だから、私はオークキングの周辺のオークに隙を見ては石礫を飛ばしては弱らせては冒険者達に討ち取らせていく。
彼らも報酬は功績は必要だろう。それに女性冒険者が混じっていない時点でオークの存在は知っていたのだろう。
なら、緊急クエストだろう事も私の推測に信憑性が上がるのだった。
そして、数十分もしない内に決着は討伐隊のリーダーの致命的な一撃がオークキングに入った事でついた。
「おお!」と、女性冒険者達も乗合馬車達も先程の絶望はどこ吹く風か。
娘っ子達も「凄い! 凄い!」とウルを揉みくちゃにしながら、喜んでいた。
これなら、トラウマにはならないだろう。
妙に安心してる私にも驚き、その感情を認めつつも、討伐隊のリーダーがこちらに近寄って来たことで私は居住まいを正す。
「いや、そんな緊張しなくても大丈夫だ」
「ふぅ、そうか。なら、そうさせて貰おうかな」
私に釣られて、ステラも居住まいを正すものだから。討伐隊のリーダーはそう言いながら苦笑していた。
「助かったよ。場所がハッキリしていなくて、オークの悲鳴で場所が分かったんだ。まぁ、オークキングもそれで吊られてしまったようだけれども。私も道中気付いたのだが、そちらの立派なウルフはアナタの従魔かな?」
「ああ。そうなるね。私の立派な獣魔だよ。ウルと言うんだ。仲良くして貰えたら、助かるかな」
「そうか、ウル。ありがとう。然りげ無く、私達を誘導してくれただろう?」
「ウォン!」とウルが答えると、びっくりしたように「この子は人の言葉が分かるのかな?」と、討伐隊のリーダーが聞いて来たので、私は曖昧に笑って答えておく。
「そっか。冒険者は時には自分の隠し技は隠すものだものね」と、討伐隊リーダーも苦笑しては頷いてくれたので、察しが良いのは助かった。
馬車が壊されてしまった事や、馬が殺されてしまった事を御者は討伐隊リーダーに話しては、討伐隊も救助に来ている手前、少し先に馬車と馬を待たせている旨と、御者の方には補償があるように対応する事を討伐隊のリーダーは話していて、御者の方は大変安堵した様子だった。
まぁ、すぐには出発とは行かず。
現場の死体処理や、討伐部位の回収。
アイテムボックス持ちが討伐隊に居たので、死体処理は回収と言うことで手早く済んだ。
そして、巣穴に限っては、実際はそこに居た彼らや彼女らを助けに来たのだろう。
裸にされてはイタズラをされ、頭から喰われている者や、既に判別が分からない者。酷い有様だった。
ステラやウル。それに娘っ子達には見せないように私は立ち回っては冒険者夫婦や、乗合馬車の方々、それにまだ冒険者としては浅いのだろう。女性冒険者達にも見せないようにして、私は討伐隊の方々の手伝いを何故か、自ら率先して手伝ってしまっていた。
彼らは私へととても感謝していたが、私は違うのだと思った。
これは贖罪にも近いのだろう。
少しでも、私が私を知る為にしてきた事を軽くしたいのかも知れない。
決して、私は自身でそれを許す事はないのだろうが。
今は少しでも、犠牲になった彼ら、彼女らが報われるように私は遺体の回収等を手伝った。
そして、日が降りる前には討伐隊の方々が用意していた馬車へと辿り着いては、そこで一泊だけ野宿をして、早朝日の出が出る頃には手早く出発の用意をしては私達は討伐隊の方々に守られながらも、冒険者の街レイストへと辿り着いたのだった。




