41.私─旅をする。
「大丈夫かい?」
「は、はい」
ふむ。ステラは危なかっしい。
いや、違うな。成長期なのに栄養が足りなく、身体の成長が伴っていないのだ。
要はバランスが悪いのだ。
私はご飯を食べる際にはつぶさに彼女の栄養状態を観察しては食べやすい物を選んでは食べさせた。
ここら辺は知識が役立った。
パッと見ても可愛く育つだろう。
それに私にも食事が必要になった。
空腹というのを知った。
お腹が減るというのは素晴らしい。
生きる為に食べると言う事が改めて、私自身が感情を震えさせた。
涙を零してしまったら、ステラから不思議な顔で見られたが仕方ないだろう。
今の私は何に対しても鋭敏になっている。
それ程までに五感というのは素晴らしいものだったのだ。
ステラと旅を始めて何日目だろうか。
私という存在が放つ気配が大きかったのもあるのだろうか?
私は気配を抑える術を模索しては歩いていたが、ステラに私の存在の放つ気配に悪影響は無かっただろうか?
そう言えば、この子は最初から私を怖がっては居なかった。
いや、もしかしたら感情が死んでいた影響で鈍かったのだろうか?
でも、私の存在は感の良い人間に出会ったら不信感しか与えないだろう。
既に私の気配が強かったから、野生の動物やら魔物だろうか?
離れていっているのが手に取るように分かっていた。
なので、気配を抑えるのを模索しては数日目。
私は気配を抑えるのに成功していたのだろう。
ヒントは既に気配遮断のスキルを保持していたのがある。
基本的には覚えてスキルが生えるのが普通だが、私の場合は生えてるのを利用出来るようになっての運用だから、便利なのか不便なのか、良く分からない所だ。
確か、卵が先か、鶏が先か? と、いうのを見た気がする。
スキルがあるのは確かなのだ。
後は使えるように実戦していくのはあの崩壊した世界と変わらないのだろう。
崩壊した世界は今も私が食べては亜空間にある気配がする。
管理をする者を神というと、言っていた者があの世界に存在していたが、そうなると私は大罪を背負った神なのだろうか?
ふふ、おかしなものだ。
立ち止まっては笑っていたからか、ステラからは何とも言えない顔で見られていたが、許せ。
実に愉快だったのだから仕方ないのだ。
そして、気配が遮断したお陰か。私やステラの匂いや人間としての一般的な気配へと落とした私の事も認識したのだろう。
懐かしい。
ウルフが現れた。
あぁ、そう言えば私が最初に殺したのはウルフだったか。
然し、どこか痩せ細っている気配がある。
「あっ──」と、ステラの指差す方を見ると、そのウルフに寄り添い合うように子ウルフが見えた。
ふむ。
どうするか。
「大丈夫かな」とステラが心配そうに見ている。
ウルフは一応は魔獣の類で、分類は魔物だ。
危険だと思うが、敵対的な反応はない気がする。
ドサッと母ウルフだろう存在はそのまま倒れては動かなくなってはそれを子ウルフがユサユサと揺すっている。
生命の灯火が消えるのを私は感じ取った。
「死んでしまってか。おい、子ウルフ。お前の母は死んだのだ」
こちらの言葉が理解しているのかは分からないがクゥンと鳴いては未だに母ウルフへと甘えて、いや、あれは泣いているのか。
「アメリア……」
ステラがどうしようもない目で私を見てくる。
いや、なんだ。
どうしろと? 助けろと? 無意味だろう。
旅の邪魔になるとしか思えない。
無価値で利用価値の無いことだ。
そう、思っていたが私は私でも理解の出来ない部分で動いては子ウルフを落ち着かせるように近付いては撫でていた。
ああ、体温が温かい。
そうだ、生きているのだ。
母ウルフは既に体温が下がり始めている。
チロチロと子ウルフは私の手を舐めている。
なんだ、可愛いじゃないか。
可愛い?
なんだ、この感情は。
私は私の感情に再び大きく揺れ動いては子ウルフの体温を心地良く感じる。
「アメリア、助けたい」
「そう、だな」
そうなのか? 本当に? 利用価値も無いんだぞ?
むしろ、道中の危険が増えるだけだ。
いや、それなら、何故、私はそもそもステラを同行させている?
あぁ、そうか。
これが人間なのか。
そうだ、私は人間なのだ。
そう、思うと瞳から涙が1つ流れた気がした。
最初の1滴、ログを見た時にバグから溢れた1滴の記録があった。
アレはきっと私だったのだろう。
そして、今流れた1滴は過去の私なのだろう。
私はきっと人間として改めて、生まれたのだ。
それをステラと、この子ウルフが教えてくれたのだろう。
「子ウルフよ。私と一緒に来るか?」
「ワン」と、子ウルフは確かに鳴いては私の手を舐めるのを再開しては、その私へと身体を預けてくる。
私の手のひらに当てている、子ウルフの額に紋様が現れては、私の手の甲にも紋様が浮かぶ。
「これは?」
「奴隷紋に似ています。母と父は持っていました」
「ん? ステラは?」
「私はまだ、でした」
「そうか。それは良かった。でも、そうなるとコレは?」
鑑定をかけてみると従魔契約(仮)と出てくる。
子ウルフのステータスも表示されては名前の欄が空白になっている。
なるほど、無付けろということか。
普段だったらアナウンスでもあったものだから、それに慣れていた私には手探りで探す感覚は新鮮だった。
逆に言うと、こういうシステムは何者かが。いや、それこそ神様みたいなものだろうが組み込んでは、アナウンスみたいなものが無いということは、私は自由にやらせて貰えてるのだと思いたい。
いや、その前にこの子ウルフの名前か。
そう言えば名付けるのはこれで2度目だ。
「お前の名前はウルだ。なに、成長の意味と、並び立つの意味がある。育て、そして、共にあれるようになれ。それが私の、願いだ」
そう言えば、魔物を育てるのは2度目になるのか。
ゴブリンの村を育てた記憶が思い出してきた。
そうか、私は食べたのか。
いや、今更罪悪感を感じるなど。それこそ傲慢だ。
「分かっ、た」
ん?
「ステラ、何か言ったか?」
「え、何も」
「ウル、お前か?」
「うん」
なるほど、念話か。
「ステラの言っている意味は分かるか?」
「わから、ない」
そうか、私とだけか。
「どうしたのですか?」
「ああ、ステラ。私とウルは従魔契約が結べたようだ。話せるようになった」
「え!」と、驚いた反応と羨ましそうな反応が混じった目でステラは私を見てきては「良かったね」と、ウルの事を撫でていた。
「私の言葉は理解しているのですか?」と聞かれたので素直に「分からないらしい」と、伝えると残念な顔になっていた。
こればかりは仕様なのだろう。
致し方ない。
守る為だ。
そう思って、気配の遮断を少し紐解くとブワッとウルの毛並みが逆立ったので驚いたら。
「怖くて、びっくりした」と、返ってきたので。私は気配を抑える事に努めた。
なに、そこいらの魔物など、小指で蹴散らしてみせるさ。
だが、まずはやらないといけない事がある。
ウルのステータスを見ては名前が名付けされたのと、ステータスにアメリアの従魔と表示されてるのを見て頷いては鑑定を外す。
私は立ち上がっては土を掘ってはウルの母を弔った。
そして、その場でウルを洗ってはステラと同様。栄養が足りていない身体へと栄養を与える事に努めたのだった。




