40.表─アメリア。
「ほら、行くよ。足下は──大丈夫かな」
「は、はい!」
お母さんと言ってしまったけれども、アメリアで良いと言われてしまった。
お母さんは気恥ずかしいし、そんな崇高な存在にもなれないと言っていた。
今、ふと思うとどうして、こんな不思議な場所で倒れていたのかも不思議な人だ。
話しの途中で聞いてみたけれども、何とも言えない顔で笑っては誤魔化されてしまった。
「アメリア、どこに行くの?」
「ステラ、目的の場所はないんだよ。ただ、歩いては進んでみるだけさ。君の来た位置は分かるかい?」
「たぶん、こっち──」
地面を見てみると、まだ私の通ってきた形跡が見て取れた。
「なるほど。賢いね、ステラは」
「う、うん」
そう言っては頭を撫でて来られてはドギマギしてしまった。
アメリアは不思議な人だ。
色んな物を何処からか取り出しては私に与えてくれた。
靴も服もだ。
初めて、こんなに良いのを着た。
「なら、逆方向に行こう。私たちは戻るのではない、これから進んでいくのだからね。人は時には戻る事の大切さも必要だけれども、基本的には前を向くように設計されているんだ。それに倣おうじゃないか」
「えーと、はい?」
「前を向いて歩こうって意味だよ」
「う、うん」
「ほら、行くよ」そう言って、アメリアは前を向いては歩いていく。
私ははぐれないように慌てて追い掛けるが、アメリアは優しいのだ。
ちゃんと私が着いて来ているか確認しながら歩いてくれる。
私たちの旅が始まったのは、その時からだと。いつかの私は思うのだろう。
アメリアはまるで1枚の絵の中の登場人物のように輝いていて、私の道標を照らす人のようだった。
アメリアの名前の由来も聞いてみたが、私には合わない。むしろ、奪った者と言っていたが。アメリアの意味は愛されるもの、神の御業、または仲間との絆らしい。
私はそんな事は無いと思うと言うと、何とも言えない顔で頭を誤魔化さるように撫でられたのだった。
そして、森の中を何日も歩いたけれども、私は怖くも寂しくも無かった。
アメリアが常に一緒に居てくれたからだ。
一瞬でも私はこの時間が長く続きますようにと願ってしまっていた。
それ程までにアメリアとの時間は私の中でかけがえの無いものに育っていたのだ。




