午前10時 神社
レイコの骨を持って山を降りていき、いつもの神社の前に来た。
「八尺様。これがレイコだよ。」
「レ…コ…」
「八尺様が執拗に追いかけたせいで、山の奥で死んでしまっていたんだって。」
「レ…コ…」
「八尺様、もう人間を追いかけるのはやめてあげて。レイコみたいに人が死んだらまた良くないことの連鎖になっちゃう。連れて行った人たちも帰して。」
これでやめてくれるかはわからない。でも言わないよりは言ったほうがいい。
「八尺様、やめられる?」
「……」
「八尺様?」
「……」
そういえば八尺様って喋れないんだと、今になって気がついた。
八尺様は苦しく悲しそうな顔をしてレイコの骨を入れた容器を見ていた。
「八尺様、なんで私を追いかけたんだろう。」
レイコはポツリとつぶやいた。
確かになんでレイコを追いかけたのかわからない。
八尺様にレイコのことは見えていないし声も聞こえていないから僕が聞くしかない。
「ねぇ八尺様。なんでレイコを追いかけたの?」
「…レイコ…ノロイ…レイコ…アブナイ…」
「レイコが誰かに呪われそうになっていたから、レイコを助けようとしたの?」
八尺様は静かに頷いた。
レイコは驚いた顔をして、俯いてしまった。
「私八尺様が怖くて逃げたけど、本当は助けようとしてくれたんだ…」
「レイコ、八尺様に伝えたいことはある?」
「私は…」
八尺様は僕の方を見ながら首を傾げていた。
「あ……八尺様には見えていないかもだけど、僕の隣にレイコがいるんだ。これからレイコが伝えたいことをそのまま伝えるからこれで人間を追うのはやめてね。」
八尺様は静かに次の言葉を待っている。
「レイコ、大丈夫そう?」
「大丈夫。じゃあ八尺様に伝えて。」
八尺様、私のことを助けてくれようとしてくれてありがとう。
でも私は八尺様が追いかけて来た時、恐怖心しかなかった。
八尺様って人間の中では捕まったら死ぬって言われてるんだよ。
だから私は逃げたし、逃げた結果死んだ。
人間じゃないものに追いかけられる恐怖心ってすごく強いから、
もう他の人間を追いかけたり連れ去ったりしないでほしい。
人間は人間同士でどうにかできるから、
八尺様が何かしなくても大丈夫だよ。
「八尺様、これがレイコの伝えたいこと。わかってもらえたかな?」
「レイコ…ゴメンネ…モウ…シナイ…」
「レイコ、八尺様もうしないって。」
「許してあげる。もう人間の前に現れたらダメだからね。」
「八尺様、レイコ許してくれるって。もう人間の前に現れたらだめだからねって。」
八尺様は大きく頷いて、山のほうに去っていった。
「レイコももうここにいなくてもいいんだよ。」
「私は好きでこの世界にいるの。君に言われなくても私は好きに生きるよ。」
レイコは少しキツめに、でも愛のこもった言葉を言った。
「よし。家にこの骨を持っていくかな。」
僕はレイコの骨を持って家の方向に帰っていった。