たまご切り器
最近は専らカップ麺なのですけど……
たまに袋麵を作って食べたくなります(*^。^*)
私をかまける事など無かった実母は……自分が出掛ける前、しばしばチキンラーメンを作って幼い私に与えた。
どんぶりに麵を入れて中央のくぼみに卵を割り落す。
熱湯を注いで蓋をし、キッチンタイマーを私の前に置く。
「ピピピ!と鳴ったら蓋を取って食べなさい!ひっくり返さないよう気を付けて!」
実母から立ち昇るモワッ!とする化粧のにおいが嫌で私はいつも俯いていたから……
実母は尚更、私の事を疎ましく思ったのだろう。その父親と合わせて……
いつだったか実母がキッチンタイマーのスタートボタンを押し忘れた事があって、
私は『3:00』から一向に数字が動かない液晶画面をずっと見続けたまま、どんぶりの前にひとり座っていた。
最初は実母か……父の帰りを待つつもりだったけど、余りにもひもじくて我慢が出来なくなり、とうとうどんぶりの蓋を取った。
両手で持ち上げたどんぶりの蓋から水滴がポタポタ落ちたけれど、私の頬を涙が伝う事は無く、私は延びてふやけて冷たくなったチキンラーメンと卵をグシャグシャかき混ぜて“犬食い”をした。
実母が居なくなって父との二人暮らしが始まった頃……日曜日は決まって昼食の後に近くのショッピングモールへ買い出しに出かけた。
そんなある日曜日。昼食はチキンラーメンだったのだけど、私も父も卵を上手く割り落せなくて……卵は麺の上でグシャリ!と零れ落ちた。
それでもチキンラーメンは温かくて、私は美味しく食べる事ができた。
でも父はそんな私を不憫に思ったのだろう。
100円ショップでレンジフードを買うついでに私に“たまご切り器”を買ってくれた。
そして翌週。
私が作った“塩ラーメン”にはパッケージの写真みたいにスライスしたゆで卵と冷凍ホウレンソウがトッピングされていた。
あの時は父と二人きりだけだったけど……
今は四人!
義母と義兄にお出しするのはちょっと恥ずかしいけど……
日曜日のお昼……家族四人で食べる“塩ラーメン”はこの上なく美味しくて……
私達はみんな笑顔だ!
おしまい
このお話は拙作『義兄のいる風景』 https://ncode.syosetu.com/n4287jp/ のスピンオフです(^_-)-☆
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