第六話
雄太達が帰ってガランとした居間。
一人でソファに座っていると、どうしても思い出してしまう水上さんの囁き。
冷静に考えれば、『さやか』なんて珍しい名前なんかじゃない。
きっと同じ名前の誰かと間違えてるんだよ――
「背格好も似てるのかな~。」
同じ名前の彼女を想像した独り言に、なぜか気持ちが重くなってくる。
モヤモヤした感情を持て余していると、携帯が震えた。
『やっほー!
今日、翔と飲むんだけど、一緒にどう?
なんか珍しい人も来るんだってー!』
高校の時からの親友である美歩からだ。元気で明るく、面倒見の良い彼女とは初めて会った時から意気投合し、今では数少ない地元の友達だ。ちなみに翔も高校の同級生で、美歩の彼氏。
高校生のときはみんなと馬鹿騒ぎしてた二人が、同じ大学に進学して付き合いだしたと聞いた時には、かなりビックリした。
でもなんだかんだと五年以上付き合っている二人は、もぅ私にとって理想のカップルだったりする。
『いくいく!翔に会うの久しぶりだわ~☆
てか、珍しい人って??』
『それが、もったいぶって教えてくれないんだよねー』
『そーなんだぁ! 誰だろうね~?!』
そんな感じで待ち合わせを決めた後、支度にとりかかった。
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「えー‥
ちょっとソレ、人違いっていうには厳しくない?!」
飲み会の時間より前に待ち合わせして、お茶していた時に昨日の出来事をあらかた話した後の美歩の一言目だった。
‥さすがにキスされたことは言えなかったけど。。。
「‥そーかなぁ?
でも『サヤカ』なんて、どこにでもいる名前じゃない??」
「まぁ、それはそうだけど。。
でも紗香とその人を間違えてるってことは、顔も容姿も似てるってことでしょ??
名前だけとか見掛けだけ、ならともかく‥両方っていうのは偶然すぎない?」
「‥うっ。。
‥そーかなぁ‥」
美歩の言葉に戸惑ってしまう。
「いらっしゃいませー」
美歩と向かったのは、ちょっと落ち着きのある個室の居酒屋だった。
翔達は先についていたらしく、入口で名前を言うと奥の個室に通された。
扉をあけた途端、
「遅れてごめー‥‥んって、、
あーー!
‥もしかして‥先生?!」
美歩が叫んだ。
先生?
‥元担任とか?!
叫び声に一瞬、怯んだが、興味津々に後ろからのぞき込んでみて‥
荷物を落とすかと思った。。。
「‥み‥‥‥みなかみ‥さん‥?」
「‥‥っ、望月。。」
動揺を隠せないお互いの視線が絡まる。
なんでココに‥?
疑問符がぐるぐる頭の中を回る。
視線を外したいのに、金縛りにあったように動かせない。。。
‥しかも先生って‥
そのとき‥
フワッと風が吹いた気がした。
微かに懐かしい香りが漂ったのは一瞬のこと。
‥残ったのは締め付けられるような切なさ。
「‥あ、れ‥‥?」
‥この香り、、この感じ何処かで―――
ゆっくり考える間もなく襲ってきた、記憶の底から湧き上がって来る映像。
久々な感覚に眩暈がする。
「‥さやか?」
心配そうに覗き込む美歩に言った「‥大丈夫」がちゃんと声になったのか‥
支えられながら席について、溢れ出しそうな記憶と感情が落ち着くまでの時間はすごく長く感じた。
気持ちを落ち着かせて、一息ついてから、
正面に座る彼を見据えた。
「‥すいません。今思い出しました。。水上先生‥ですよね?」