第四話
大沢と水上が本社から来て二週間が経つ頃には、社内の女子間では「大沢派」と「水上派」ができあがっていた。
大沢直人――180cm近い身長に長い手足。次の人事では課長とも目されており、同性にも嫌味がないほど女心を掴んだ優しさとおだやかな笑顔で、癒しを求める同世代、年下女子を中心に大人気。
対して、
水上圭吾――同じ180cm近い身長に切れ長の目。入社四年目にして、異例の経営企画部に配属された将来有望株。クールだけども、ちょっとした優しさも忘れない彼に、「息子にしたい!」「彼にしたい!」と年上を中心に人気だ。
「で、そんな大人気の二人と一緒に働いてる羨望の的の紗香ちゃんはどっち派なの?!」
「へっ?」
カナの一言に一緒にランチメンバーの視線が一気に紗香に集まる。
「だーかーら、大沢さん派なの?水上さん派なの?」
「えーー‥別にどっちなわけでも‥」
「どっちがいいかくらいあるでしょ~」
「そーだよ、どっちなの?」
「‥もしかして、紗香ってB専?!」
ゴニョゴニョ逃げようとしたのに、みんなから詰め寄られてしまう。
「B専って‥失礼な~!
どっちって言われても、、大沢さんは優しいお兄さんって感じだし、、」
「水上さんは?」
「水上さんは‥よくわかんない。。」
「よくわからないって?」
「うーーん、、説明が難しい。。」
と、紗香には言葉を濁すしかなかった。
実際のところ、あの飲み会の日以来、毎日顔を合わせてはいるのに、水上さんと会話をした記憶がない。
なにか話しかけても、『あぁ』とか『‥どうも』とか素っ気ない一言で終わってしまうのだ。
なのに聞くところによると、他の人とは普通に世間話くらいはしているらしい。
知らない間になにか怒らせるようなことでもしてしまったのだろうか??
しかし、いくら考えても思い当たる原因はない。。。
思い切って、直接聞いてみようかな‥
うん!そうしよう!
*****
聞いてみる決意を新たにしたものの、なかなか実行する機会がなく、すでに数日がたっていた。。。
しかも月末の忙しさとプロジェクトのレポート提出が重なって、花の金曜日というのに残業になってしまった。
「じゃあ、私そろそろ帰るから。もっちゃんも程々にね!」
「はーい、お疲れ様です~。
資料室にこれ置いて来たらわたしも帰ります」
机に山積みされた資料を指して、赤坂先輩を見送った。
「さて、運ぶかぁ」
うんざりするほどの量の資料を台車に乗せて、三階下の資料室まで運ぶと部屋に明かりがついていた。
ノックしてから開けると
「あれ、まだいらっしゃったんですね!」
いたのは水上さんだった。
「あ、あぁ。‥お疲れ」
「プロジェクトの資料さがしですか?」
「‥あぁ」
水上はまたすぐ本に目をむけると、黙り込んだ。
紗香も資料を片付けていくが‥お互い無言。
そんな空間に堪えきれなかったのは紗香。
「水上さん、前から聞こうと思ってたんですけど‥
私なにか怒らせるようなことしました?」
いっそのこと、今聞いてしまえ!と切り出した。
「‥‥は?
なに突然。」
「だって‥、なんか態度がよそよそしくないですか?
これからも一緒にメンバーとしてやっていくのに‥‥」
言葉が続かなかった。。
いや、正確には言葉を発することができなかったのだ。。。
いつの間にか恐ろしい眼をした水上に壁際まで追いやられていた。
「‥おまえ、なんなの?
俺にはお前の方がわかんねーよ‥」
気付いた時には背中に壁があたった。。
「え‥」
次の瞬間、目の前が暗くなったと思ったら、唇に温かいものが触れていた。