とある発明家と悪魔
ある身寄りのない発明家があるとき、ふとしたことから悪魔を呼び出す方法を知った。
老境にさしかかっているとは言わないが、もう若くもない上に家族も貯金もなく、お世辞にも幸せだとは言えない生活をしていた発明家は、しばらく悩んだ末に悪魔を呼び出すことに決めた。
「どのような御用でしょう? 対価として魂をいただきますが、誠心誠意に務めさせていただきますよ」
呼び出された悪魔は、男女どちらともつかない美しい顔に笑みを浮かべてそう言いかけた。しかし発明家はその言葉を遮る。
「その対価、というやつは魂じゃなきゃダメなのか?」
「と、言いますと?」
博士は大きく手を振ると部屋中に散らばる、一目見ただけでは用途も分からない様々な機械を示した。
「ここにある機械を魂の対価に出来ないか? 役に立つものも多いと思うのだが」
少し考えるような素振りを見せた悪魔に勢いを得た発明家は、機械の性能を一つ一つ説明を始める。
自動で手袋をつけてくれる機械、片方だけなくなった靴下を教えてくれる機械、絡まったコードの解き方を教えてくれる機械……。
どれもこれも人の役に立つ発明だと自慢気に説明する発明家を、悪魔は冷ややかに見ていた。
そうして大体の機械の説明を終えた発明家は悪魔の方を見る。悪魔の顔にはなんの表情も浮かんでいなかった。
「……ところで、願いはなんなのでしょう?」
機械をいるともいらないとも言わず、悪魔はそう尋ねた。発明家は機械が魂の代わりになると思ったのか、明るい笑顔を浮かべると「どうすれば幸せになれるかを知りたい」と答える。
すると悪魔は呆れたような表情を浮かべると、こう言ってから姿を消した。
「たぶんこんなガラクタの発明やめればすぐに人並みに幸せになれますよ」
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