ハロウィン
夏も終わり、冷え込みつつある秋になった。今日は10月30日。明日はハロウィン。
「悠真くん、明日あたしの家でハロウィンやろうよ!」
「ハロウィンですか?」
「うん、もちろんお互いに軽いコスプレで」
「……俺もコスプレするんですか」
「いいじゃん。一緒に楽しもうよ!」
「俺は陽菜さんの可愛いコスプレの姿が見られればそれで満足なんですけどね……」
その言葉に顔がぼっと熱くなる。悠真くんは落ち着いた感じなのに、愛情はストレートに投げ込んでくる。負けじとこちらも応戦する。
「あたしも悠真くんのかっこいい姿が見たいな~」
「はぁ、わかりました」
そしてハロウィン当日。あたしは自宅で魔女の恰好をして待つ。
黒いワンピースにマント、そしてとんがり帽子。玄関のチャイムが鳴るとあたしはドアスコープ越しに来訪者を見る。悠真くんであるが私服だ。
あたしは勢いよく扉を開けた。
「何で私服なの?」
「これ」
手に持っていた大きめの紙袋をあたしに見せつけて来た。どうやらその紙袋に衣装が入っているらしい。まあ、それもそうか。いくらハロウィンとはいえ、自宅からあたしの家まで仮装してくるのは恥ずかしいかもしれない。
悠真くんを部屋の中に招き入れる。部屋は告白されて付き合うようになってからは、綺麗にしておくようになった。
そして荷物を置くと突然脱ぎ始めた。あたしは慌てて背中を向けて目を逸らす。衣擦れの音がする。なんかドキドキしてきた。
しばらくすると後ろから抱きしめられた。そして一言。
「トリックオアトリート」
その言葉を聞いて、コスプレのことばかり頭にあったので、お菓子のことを忘れていたことに気づいた。
「あ! お菓子用意し忘れた」
「じゃあ、いたずらだね」
楽し気に聞こえたその声の主は、両腕で私の腕を掴みくるりと回転させる。
目の前にはイケメンのドラキュラがいる。赤く塗られた唇が艶かしい。
そして突然首筋に噛みつき、血を吸われる。いや、正しく言うと首筋にキスをされた。少し長いキスから解放されたとき、イケメンドラキュラの背後にあった姿見の鏡に映るあたしの首にはキスマークがくっきりと付けられていた。




