「開(ひら)け!紙扉」
小学五年生の乙木花の毎日の楽しみは、物語を読んだり書いたりする事。将来の夢は読んだ人誰もが楽しくなれて、ハッピーになる物語を書ける作家になる事だ。日々色んな物語を書いて出版社に投稿しているが、まだ未熟な花が書く物語は賞には選ばれない。(今度の話は主人公が本の中を冒険する話……本に入る合い言葉は……)本の中に入れる合い言葉を考える花は、今までよりずっと真剣。次こそ賞を獲りたい、そう本気で願うからだ。「あ!」合い言葉が閃いた花は、作中の中にその言葉を入れて完成させた。物語のタイトルは『童話の国にいるトリスくん』『トリスくん』という物語の案内人から招待されて、少年が本の中を冒険するファンタジーストーリーだ。
この作品を受け取った編集部の人たちは驚いた。作品自体は普通の仕上がりなのだが、騒がれている理由は作中に出てくる合い言葉だ。「何故その合い言葉を一般の方がご存知なんでしょうか?」「これは極秘、の筈では?」「偶然……にしては出来すぎている。もしかしたら、この作者には未熟ながらも作家の質があるのかもしれません」そう云ったのは、あらゆる賞を受章してきたかなりの腕を持つベテランの作家だ。「同感だな。未熟……つまり伸び代があり、同時に何年かは先すごい作品を出すかもしれない」花の物語は編集部で一目置かれる存在となり、この先も注目されるようになる。「いつかこの作者が一皮むけた作品を書く日が来れば、物語の真実を告げよう」
物語の真実とは、作家としての才能が芽生えた者は皆、本の中へ入れる事が出来るという事。いつか花も色んな作家が書いた物語に入る事が出来るだろう。
夢を叶えた花は、いつか来るその日に唱える。「開け!紙扉」