あの夏おこったこと
世間的にはもう夏休みも半分過ぎたらしい。そう思うと蝉も騒がしい気がしてきた。正一は部屋で一人ぼーっとそんなことを考えていた。早いな。あんなことになってしまったのは8月が始まってすぐだっただろうか。少し思い出すだけでも明日が見えなくなる。自分がもっとちゃんと彼女を見ておけばこんなことにはならなかったのかもしれない。8月上旬、僕が人生で初めて好きになってもっと知りたいと思った人「佐藤」はアパートの自室で首をつって自ら命を絶ったらしい。このことを知った僕は一つのことを心に決めた。佐藤を自殺に追い込んだ人間を絶対に許さないと
はじめてそのことを知ったのはエックスというアプリだった。恐らくこのことを発見した誰かが警察が来る前に写真を撮ってこのエックスに上げたのだろう。写真は部屋だけを切り抜かれていた。外の景色は一切わからないようになっていた。僕は一瞬にしてこの写真に写っている女の子が分かった。
この僕がわからないはずがない。何年彼女をどのくらいの熱量で見てきたのかはこの僕が一番知っている。女の子がしっかり写っていなくてもわかっただろう。彼女が愛用していた可愛い小さなバック、机に置いてあるピアスやネックレス。どれも僕がほぼ毎日見てきたものだ。それにしてもなんとも悪趣味な。 たくさんの反応のためにこんなことをする人がいて、思惑どおりしっかりと反応してしまう人がいる。佐藤の部屋はアパートの一階にあった。確かに写真は撮りやすいだろう。だがそんなことをするのは言語道断だ。
そんなことを考えながらふと思う、涙が流れない。なぜだろう。僕にとって最愛の人であっただろう。それがこの世から消えた。脳が現実を受け入れないようにしているのか。おそらくそうだろう。そうでなかったら僕がおかしい人ではないか。
佐藤の死を知ってから何も考えられなくなった。もう今日の朝何を食べたか思い出せない。なんなら何も食べていない可能性だってある。僕も佐藤の後を追ってしまおうか。そんなことを考えていると携帯電話が震えだした。とても驚いた。僕なんかに電話をよこす人がいるなんて。天国から佐藤が電話をけていたりして、そんな展開はないことはわかりっきているのに期待してしまう自分がいた。電話に出ると若い女の子の震えた声がした。
「もしもし 咲良の親友の舞といいます」
僕は咲良も舞も知らない。間違い電話なのだろうと思った
「すいませんが電話番号を間違えていませんか?」
「いいえ、あっているはずです。あなたにお話があります。
あなたですよね、咲良を何年もストーカーしていたの」
僕は何を言われているのか分からなかった
「私夏休みのずっと前から咲良に相談されてたんです。もしかしたら誰かに後をつかれてるのかもって。
咲良の両親は海外へ仕事に行っちゃってるし、もしかしたらの話でしょって警察にも相手にされなかった。だから私は大学からの帰り道を一緒に帰ったり休日もできるだけ一緒にいた。でも夏休みが始まるとそうも行かない。私には私の予定があったし、ずっと一緒に帰っててもう大丈夫でしょって心のどこかで思ってたんだと思う。でも咲良は違った。サークルに入っていないから大学にはいかないし、親の仕送りで生活しているからバイトもしてない。咲良にとって逃げ場がなくなったんだ。」
そこまで語ると舞と名乗る子の声は泣き声に変わった。
僕はここまで言われて気づいた。僕が「咲良」のストーカーだということを。確かに僕は咲良と話したことはない。でもそれがどうした。これも一つの恋愛の方法ではないのか。少なくとも僕はそう思っていた。僕は時間をかけて一生懸命調べた。彼女の大学、アパート、部屋の場所、よく持ってるバッグやアクセサリーまで。ここまで一人の人間に時間をかけて、執着して。
これを純愛と呼んでもおかしくないと思っていた。いつか友達というものが出来たらこのことを事細かに語ってやりたい。僕みたいな中年でも女子大学生と付き合えるんだぞって。
そんなことを考えていたら急に舞が叫んだ
「ねぇ!どうしてくれるの!咲良を追い込んで!どう責任を取るつもり!」
僕は携帯を地面に置いた。自分が咲良を殺したのか。責任なんて取れない。でも僕は自分が決意したことくらいやろうと思った。そう思って台所に行きほとんど新品の包丁を取り出す。これが僕なりの責任の取り方だったりするんだろうか。
「佐藤咲良さん」
初めて本名を言った。ま、今さっき知ったことなので無理もないか
「これからも好きです」
そう言って首を思いっ切り切った
あーあ。天国でも会えないかな。
あまり文章を書きなれていないので大目に見てもらえると助かります。次書くときはもっと練ったの書いてみたいな