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第31話 叙勲

 晴れ渡る空の下、胸に抱く赤ん坊をあやしていると、エミールは屋根から降り、ルネの元に駆け付けた。


「ルネ! その子が、精霊王だね?」

「やっぱり……、そうなのですね」


 いまだに半信半疑ではあったが、魔物を消すほどの光を放ったのだ。きっとそうなのだろうと思っていたが、エミールの言葉でやっと納得がいった。

 見た限り普通の人間の赤ん坊と何も変わらない。ただ大きな瞳だけが、不思議に七色に輝いている。


「すごい力だった。魔物が全部、一瞬で掻き消されたよ」

「これで精霊王が目覚めたといっていいのでしょうか」

「ああ。あの強い魔法の光は、そのままこの国を守る力になった。魔力が満ちているし、間違いはないよ」

「良かった……」


 ルネはホッと安堵の息を吐くと、精霊王に笑みを向ける。精霊王はふにゃっと笑うと、エミールの方へ小さな手を差し出した。その手をそっと掴みエミールも笑う。


「目覚めの呪文はどんなものだったんだ?」

「それが……、『ル・ニーナ』です」

「ル・ニーナ? 『私が母になる』か……。なるほど、そういうことか……」

「私、精霊王はてっきり大人の姿だと思っていました」

「俺もだ。この姿を見る限り、目覚めというより、誕生と言った方がいいのかもしれないな」

「誕生……」


 エミールは精霊王からルネに視線を移した。


「やったな、ルネ」

「はい、エミール様」


 肩の荷が下りたルネは、これまでの何ヶ月かを思い出して、本当に安堵した。


「エフラー夫人!」

「王太子殿下」


 たくさんの騎士や兵士を引き連れてヴィクトルが走り寄ってくる。ヴィクトルはルネの抱く赤ん坊を驚いた顔で見下ろした。


「まさか……、この赤ん坊が精霊王なのか?」

「はい、兄上。間違いありません。俺はもちろん、魔法使いたちは皆、強い魔力を感じました。この子が精霊王です」

「では、これで強い魔法も復活するということか?」

「間違いありません」


 エミールが力強く返事をすると、ヴィクトルは満足した顔でルネを見た。


「よくやった! エフラー夫人!」

「ありがとうございます、殿下」

「すぐに陛下に伝えなければ! 城の復旧は私に任せよ。エミールはエフラー夫人と精霊王のそばにいろ」

「分かりました、兄上」


 ヴィクトルは興奮した顔でそう告げると、また騎士を引き連れて去って行った。



◇◇◇



 それから魔物によって破壊された城は修復が始まり、怯えていた貴族や城下町の人々も、もう魔物の脅威がないと分かると、いつもの日常へと戻っていった。

 そうして今日、謁見の大広間に貴族たちが集められた。


「ルネ・エフラー伯爵夫人、前へ」

「はい」


 大勢の貴族たちが見守る中、名前を呼ばれると、ルネは赤い絨毯の上に出て玉座の前に進み出る。


「この度、エフラー夫人は我が国の悲願であった、精霊王の復活を見事やり遂げた。150年という長きにわたり、この国が失っていた魔法の守りをついに復活させた」


 国王の言葉に、貴族たちからざわめきが起こる。


「十日前、城に魔物が現れるという、国として最大の危機が訪れる中、エフラー夫人は精霊王を復活させ、すべての魔物を一瞬で消し去った。エフラー夫人は、余を含め、貴族、そして市民すべてを救った英雄である」


 ルネは膝を突いたまま国王の顔を見上げ微笑む。


「これよりこの国は魔法の復活と共に、国の復興を進める。魔物の発生により封鎖したままの鉱業を再開し、各町の安全も魔法によって守られるだろう。これらすべてはエフラー夫人の功績として、勲章を与えるものとする」


 そう国王が宣言した途端、割れんばかりの拍手が沸き上がった。


「女性で勲章を与えられるのは、エフラー夫人が初めてである。これより先、エフラー夫人のように、能力のある女性が身分にかかわらず力を発揮し、この国に貢献してくれることを願う」


 国王の言葉が終わると、ヴィクトルがルネの首に大きな勲章を掛けてくれる。


「おめでとう、エフラー夫人」

「ありがとうございます、殿下」


 笑顔で返事をしたルネは、壇上にいるエミールをちらりと見た。エミールは視線が合うと、笑顔で小さく頷いた。


(エミール様……)


「エフラー伯爵、夫人には引き続き仕事をしてもらう。それで構わんか?」

「もちろんです!」


 ラウルは笑顔で返事をする。今回の件で、自動的にラウルの株が上がった。ルネにとっては多少不本意ではあったが、こればかりは仕方ない。

 これで勲章の授与式は終わりだったのだが、突然シャーリーが走り出てきた。


「納得がいきません!!」

「シャーリー、よさないか」

「ヴィクトル様は黙っていて下さい! 陛下! この者はわたくしに二度も不敬を働いたのですよ!?」


 シャーリーが声高に訴えると、貴族たちは突然のことに怪訝な顔を見合わせている。


「一度目はわたくしを突き飛ばし、二度目はわたくしに池の水を掛けたのです!! わたくしはずぶぬれになったのですよ!? そんな者に勲章なんておかしいわ!!」

「シャーリー」

「王太子妃になるわたくしにこんな仕打ちをするなんて許されません! 不敬罪で捕えて下さいませ!!」


 ヴィクトルは止めようとするが、シャーリーは怒りが治まらないのか、顔を真っ赤にして言い募る。

 その様子を静かに見つめていた国王は、溜め息を吐いてから口を開いた。


「シャーリー、王太子妃になろうという者が、何も分かっておらぬようだな。この国にとって精霊王の復活は、何をおいても成し遂げなければならないことだった。それをやり遂げたエフラー夫人は、十分に勲章に値する」

「ですが!!」

「これから国を導いていく立場になる者が、エフラー夫人のような素晴らしい能力を持つ者が、どれほど国にとって大切か分からなくてどうする!」


 国王が一喝すると、ビクリとシャーリーの肩が揺れる。それでも納得ができないのか、視線をヴィクトルへ移すと、その体に縋り付いた。


「ヴィクトル様! 何度も危害を加えられているのに、泣き寝入りしろっていうんですの!? そんなの酷過ぎますわ!!」


 涙を浮かべて訴えるシャーリーの肩を掴んだヴィクトルは、その体をぐいっと引き剥がした。


「……シャーリー、もし本当にエフラー夫人がお前に不敬を働いたとして、その罰はもう与えられたのではないか?」

「え……?」

「エフラー夫人の髪を切ったのはそなただろう?」


 ヴィクトルの言葉に、シャーリーの顔が真っ青になる。


「女性の髪をあれだけ短く切ったのだ。それでもう罪を償ったと言ってもいいんじゃないか?」

「あ、あれは……、自分で勝手に切ったのです!! わたくしはやっておりません!!」


 シャーリーの言葉に、ヴィクトルは大きな溜め息を吐くと首を振った。


「シャーリー、どうやらそなたはまだまだ王太子妃として勉強が必要なようだ」

「え……? ヴィ……ヴィクトル様……!?」

「そなたとの婚約は一度解消する。もう少し淑女として勉強し、王太子妃となるに相応しい女性と認められたなら、また王太子妃候補として城に迎え入れよう」

「そ、そんな……!!」


 シャーリーは声を上げると、ガクリと膝を突いた。呆然とした顔で天を仰ぎ、そのまま動かなくなる。ヴィクトルが「連れていけ」と指示すると、シャーリーは両腕を抱えられて、謁見の大広間から連れ出されてしまった。


「せっかくの式典を騒がせてしまいすまない。お詫びにエフラー夫人の叙勲を祝うため、数日後に私がパーティーを開こう。ぜひ皆参加してほしい」


 ヴィクトルがそう言うと、ぎくしゃくした空気だった謁見の間に拍手と喝采が満ちた。

 ルネは少しだけ気の毒だとは思いつつも胸がスッとして、美しく輝く勲章をもう一度見ると晴れやかな笑みを作った。

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