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●atone-37:悶絶×カーマイン

▼▼▼

 瞬間、ふいと、機体(からだ)にかかっていた強力な負荷がほどけ落ちるように抜ける。鋼鉄兵機(ジェネシス)の背後から、全身を絡め取るようにしていたうっとうしい「骨鱗(コツリン)」の「下半身部分」が、巧みかつ嫌らしいほどの粘着さでもって()の動きを封じていたのだけれど、それが、あっけなく外れた。


 私はと言えば、こいつらに効果のある「ハイブリッド光力」の射出口である右腕を極められたことによって何も出来ずにただもがいていただけなので、なんで? というようなタイミングではあったんだけれど、遠くの方で、微かな音。それに、皮膚の表面に感じる、ざわとした異質な感覚。


 拘束の解けた私は、その「気配」の方向けて機体を向き直らせる。奇しくも、私の機体(からだ)から離れた「下半身」も、そちらの方へ勢いよく駆け出していくところだった。


 何かが起こっている。


 何か、いやな予感……アンちゃん……無事、よね……


 何となくの胸騒ぎを感じた私は、背後で気を失っているだろう(ジン)の体を背中を使って操縦席に押し付けると、ふん、と鼻から気合いの息吹を押し出し、その「下半身」の跡を追いかけることにする。


 おそらくは。


 「骨鱗」が……何らかの「危機」を感じ下半身を自分の許まで「引き戻し」た……? それってどういうことだろう。悔しいけれど、アイツと張り合えるのなんて、万全状態のこの機体(ジェネシス)くらいしか無いんじゃ……あるいはエディロアさんとか? でもあの「超絶脚」と言えど、野郎には相性悪い気もする。謎だ。


 謎だけど……とにかく向かう。奴との決着は、まだ着いていないのだから。


▽▽▽

 完全に、この、いま()が搭乗しているところの、機体と、私は、神経直結レベルで、「一体化」しておる……


 自分が巨大な兵機に変貌したかのような、この摩訶不思議な感覚……「夢」でもここまでのことは無かったよ何なのよもぉう……体を覆っていた「汚泥」は今やそのほとんどが流れ落ちていて、しなやかなフォルムの「機体」の全貌が露わになっている。自分からは首から下、の前面を見るのが限界なのだけれど、まごうことなき「人型」だ……それもすらっとしながらも出るとこ出てます風な、なんというかグラマラスな肢体であったのだけれど。


 うぅぅぅん、艶めかしいぃぃ……図らずも、私が理想してやまない完璧(パーフェクト)なるシルエットと思われるよぅ。やっぱりこれって私の願望が無秩序に組み合わさったような「夢」の世界なんじゃあないのぉぉ……


 往生際の悪すぎる私の、そんな思考を鉈で断ち切るかのように。


――ん直結は完了ねへぇぇぇぇぇぇぇん……んであれば、もぁう、やることって言ったら決まってるじゃなはぁぁぁぁぁぁい?


 先ほどから私の内部(なか)でのたまい続ける声の主が、やっぱりの独特に過ぎる口調で告げて来るのだけれど。でもって、その「やること」っていうのが、何となくわかっちゃってる自分もいるのだけれど。


 うん……もうそうだよね……やることって言ったらそれしかないし、それを為しうる「力」を有しているってことも何となく分かってんだよね私は……


 眼下には、固まったままの白い鱗の奴。もしかして私にびびってる? おうおう、さっきはよくも……ジカルさんまで……急速に野卑がかる自分の感情をセーブしつつ。


 じゃあまあやるけど。その前に……


「あなたの名前は? 私はアーヌ。やっぱり名前認識しとかないと今後不都合なこともあるかと思って……」


 肚をくくって、自分の中の何者かに問いかける。でもそんな遠慮がちな問いになってしまうのだけれど。


――アタイは『ヴァーチュー』。永遠の揺るがなき真なるモノ、それこそが『美徳(ヴァーチュー)』なのよほぉぉぉぉぉん……よろしくぅぅアーヌぅぅぅ……


 会話が、諦め気味だったけれど意外に成立した。「美徳」……何が何でそうなのかは皆目分からないけれど、なぜか、私の心を震わせる言葉だ。了解した。


<おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!>


 瞬間、私の中で吹きあがる解放感が、それに押されるようにして沸き上がる使命感が。


<ああああああああああああああああッ!!>


 横隔膜をぶるんぶるん震えさせる雄叫びとなって、私の巨大な体を上下に貫いていくかのようであり。


<……アーヌ=ロア・ⅩⅠ(エグズアイ)・ストラードぉッ!! 搭乗機『ヴァーチュー』……ッ!!>


 私はママのように殊更に外連味たっぷりに。


<……推して参る>


 右拳を腰の横、左手を伸ばして前方へと。キメのポーズを放ってから、細身の機体(からだ)を跳躍させていく。


 ……までは良かったのだけれど。おそらくは操縦席の中で生身(はだか)の私は先ほど湧いてきていた鮮桃色(どピンク)のゼリーに首から下を隈なく覆われているのだろうけど。そして体を動かすことによって、非常にスムースに、この機体(ヴァーチュー)をも軽やかに「操縦」出来ているのであろうけど。


 ……全身に、これでもかの、えーと、何て言うのかな、むずがゆさというか、切なさというか、気持ちよさというか……うぅぅん、一言でいうとこれ「快感」だぁー……!!


 操縦するたびに、私の全身の肌という肌に柔らかで、それでいて(すべ)らかな優しい摩擦が与えられるんだけど。もちろん敏感なとこにも隈なく。


 思わずはしたない声が出そうになるのを、ふむぅぅぅぅぅん、というそれでも鼻にかかった甘い吐息のような声で押し殺すしかない私がいる……


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