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●atone-31:鍔音×ヘイズル

 充分形、と確信し、いざ、と思った瞬間だった。


<何やら随分と……『仕込み』してはるようやけど……なんや『そこ』が最適の間合い……そんな風に言うてるようやな>


 まさに。必殺の一撃を撃ち放とうとしたその瞬間、ゆらりと上半身を動かしながら「そいつ」が、にやついたような声で(顔は無表情だけど)、そう言葉を放ってきたのであって。


「……!!」


 すんでで、動きを止める私。こいつ……読んでる。間合いを……こっちが今この瞬間計っているということも。操縦席の中、ジンに後ろから抱き着かれるような格好のまま、左右でそれぞれ組み合わせた両掌からは、「黄金色」と「青白色」の湯気のようなものが絡まり合いながら立ち昇っていて、それは準備OKの合図ではあったけれど、ひとまず挙動を止める。


 ごくごく目立たず静かに「交雑させた光力(ハイブリッダー)」を練り上げていったって言うのに……


 こいつは、こと「光力」に対しては恐ろしいほどの「嗅覚」を備えてるってわけ……あの「黒団子」の中に潜んでいた時から、執拗に(アーヌ)を狙ってたもんね……て言うかアンちゃんもう安全なとこまで逃げおおせること出来たかな……にしても「マ」の者たちを誘引する伝達物質(フェロモン)発散体質だったとは……ますますこいつらは今ここで殲滅する必要があるっ。


「……!!」


 ざんざぶ押し寄せる思考の潮流の中で、私は気持ちを切り替えることに専念する。


 作戦変更、「奇襲の中距離からのいきなり射撃」はわやになった、から、開き直っての正面突進、そこから勝機を掴む。ええ? アルゼ? と困惑気味のジンの声をうなじあたりで感じながらも、私はそうと決めたら躊躇なんてしないわけで。ゆっくりと足先を伸ばしてから思い切りペダルを踏み込んで急発進させる。


 砂利で滑らないように爪先を突いてから一旦捻じ入れる動作を挟みつつ、右足から踏み込んで奴との距離を一息に詰めていく。「棒」は右手に(フェイク)として持ったままだったけど、そいつをやっぱり使うっ。


<おっとぉ~図星やったかいな……いかにも取り繕いましたよ感ありありの挙動~ま、とは言え尋常じゃあない『挙動』ではあるよなぁ……ほんまに手足使て操縦してんのかぁ、姐ちゃん……神経直結してんとちゃうくらいの滑らかさ、自然さやでぇ~?>


 こいつの口調にはやっぱり慣れないっ、それに軽そうな感じなのに、こちらの状況/事情を密に正確に洞察してくる掴めなさも嫌いッ!! でもそのいけすかない喋りをかましながらも、棒の切っ先、さらには突進してきた巨体(ジェネシス)を軽くいなすかのように、「そいつ」はふんわり羽毛のように宙に「舞った」のである。最低限の水しぶきを残して。


それは浮いたとか跳んだとかではなく、風を孕んで確かに「舞った」ように見えた。


「……!!」


 慌てて奴が躱した左手方向へ上体を捻り込む。その勢いのまま、右腕を後方へ大きくしならせていた私は、そのまま手にした棒を横薙ぎに振るう。が、


「……!!」


 キィン、というような、真芯に入ったと思しき、とてもいい音がした。膝か……中空で右脚をすでに振り上げ終えていたそいつは、結構な体重(ウェイト)を乗せたはずの棒の一点を狙って弾く蹴撃を完璧に打ち放っていたわけで。


 「静」からの鋭い「動」の体さばき。衝撃で暴れる棒を手放すまいと後方に身体を泳がせられる機体(わたし)だけど、負けちゃあいられない。


<……らぁッ!!>


 思わず出た気合いの雄叫びと共に、私はその「泳がせられた」勢いに逆らわず、さらに上半身を捻らせていく。いや、捻るを越しての「回す」へ。


「!!」


 時計回りに勢いよく一回転した上半身。奴の攻撃終わりのところを狙って、棒を握ったままの拳を、裏拳気味に撃ち込んでいく。


 この「ジェネシス:弐式」はね、人間の様態をしているけど、その稼働は一部人間離れしてるとこもあんだよねぇ……上半身はやろうと思えば360(デグ)大回転出来るってゆー寸法よぉ。


 これが奥の手。私が普段、あえての「人間的な動き」に徹しているのは、こういう、先を読む奴の、裏をかくための「先入観いだかせ」の意図もあるのよぉ……ッ、と、ほんとはそこまで緻密に考えているわけじゃなくて、単に私の趣味的なものに因るところが大きいのだけれど、気分を乗せるためにそう頭の中で勝ち誇ってみせてやる。


 埒外の衝撃を受けたそいつの身体から、はじめて「手ごたえ」のような感触が得られたことに満足もしながら、私は次の一手をどうするか、頭の中で組み立て始める。


 ……やっぱり、「アレ」しかない。


 急な横回転を受けてまたおろろろ言い始めた背後のジンをシートに押し付けるように固定すると、呼吸合わせてっ、と手短に頼む。震える手から何とか、という感じながらも、量は膨大に過ぎるほどの「青白色」の氣の流れがあふれ出て来た。すごい……いっぱいでたね……


<いくぞぁぁぁぁッ!!>


 ここぞの時に雄叫びが出てしまうのは、私の如何ともしがたい癖ではあるものの。腹からの大声が、これまで窮地を切り開いてきたってことも何度もあったから。


<ああああああああああッ!!>


 砂利面にはたき落とされて一回軽く弾んだ体の「そいつ」向けて、大上段から棒を振るっていく。今度は、肩関節が外れたかのような、高速の「右腕ぐるぐる回し」だ。棒を握った右腕自体が、残像と相まって「円」と見えるような、そのような尋常じゃない速度(スピード)で。


<……やるねえ格闘……しかも『機械』としての『非人間的』な稼働もあえて隠していたとは……いやはや神業神業ぁ……>


 そこまで的を射て理解してくれるのは有難いけれど、いやそれはそれで不気味だけど……いやいや、これで決めるッ!!


 が。


<……言うて、タネが割れたらそこまでやなぁ。さっきの『裏拳』も、狙いはそこまで定めてなかったようやって、たいして効いてへんし。単なる速度の問題だけなら……>


 べらべらとよく喋くるそいつの言葉が一瞬止まったと思ったやいなや、


<!!>


 そいつの肩口に、棒の先端が確かに撃ち込まれていたのが見えたのだけれど。でも、


<……一発、身体張って、そんでもって喰らうだけや>


 そいつの言う通り、肩には長く細い「牙」たちが不揃いにびっしりと生えそろった「口」が既に現出しており、


<……!!>


 棒の衝撃でその何本かを折り飛ばされながらも、しっかりとそれを咥え込んでいたのであった……瞬間、凄まじい勢いで「咀嚼」が始まる。


 その小さい身体のどこに、齧り喰ったものが入っているのは分からなかったけれど、この硬くて粘りもある棒でもそんな風に簡単に食っちゃうんだ……!! それに何か、こいつ自身の力じゃあなく、別の、得体の知れない力でぐいぐいと奥へ奥へと引きずり込まれていくような感覚が、棒を通しての右腕、を通して操縦している私にまで伝わってくる。


 ぐぅ、と思わず喉奥で鳴ってしまった呻きをかみ殺すと、私は腰を落として踏ん張りつつ、次の算段を巡らせ始める。負けるかぁッ!!


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