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●atone-11:転変×ミスルトー

…………

……


 何時間くらい、歩いたんだろう。


 暗闇と、湿り気を帯びた空気に満たされた地下の「坑道」めいた所を、まるで立ち泳ぎをするかのように黙々延々と進むこと、かれこれ……いや、時計も何もないから身体感覚で推し測るしかないんだけれど、結構な時間は経っただろうし、結構な距離は踏破したと思う。


「……」


 それでもまだ、前方は相変わらずの暗闇であり。


 暗闇を泳ぎ進む途中、脇へ逸れていくような道の存在を確認したのは実は一回あったんだけれど、恐る恐るそちら側に足を差し入れて探ってみたら、どんなに伸ばしても爪先は空を切るばかりだった。「そっち」に道が続いている可能性はあったけれど、先が予測できないところに進む勇気は流石になかったわけで。例えば崖状になっていて、遥か下まで真っ逆さまってことも無いとは言えないし。それにどの道、「上」の方へと向かっている気配も無かったから、出口を目指すのなら、今の道をそのまま行った方がいいと判断した。


 しかし。暗闇の中を孤独に大の字に近い格好でにじり進んでいると、自分が誰でいま何をしているのか、本当に見失いそうになるよ。ほんとあのツアーめ……無事に帰ったら多額の賠償金を請求してやるぅぅぅ……


 何とかそんな憤りを、ともすれば、うん……無事に帰れるのだろうかねほんとに……みたいに萎えてしまいそうな体に燃料として投下しつつ、僕はなかば投げやり気味に手足を動かしていくのだけれど。と、


「……!!」


 見えた、光が……ッ!! 相変わらず岩肌には蛍光を発する緑色の苔がまばらに生息していて、視界をいい具合に邪魔してくれてたのだけれど、それとは明らかに違う「光」……ずーっと、この単調な「景色」を見続けていた僕には、そんな小さな変化でさえも劇的な変化(モノ)として受け取ることが出来たわけで。


 右前方から、微かな光が。まだかなり先の方だけれど確かに。差し込んでいるよYEARッ!!


 ぬおおおお、との僕にしては気合いの入った声が自然にお腹の下からせり上がって放たれていた。ゴールが見えた途端に元気になる……いささか現金だなぁと自分でも思ってしまうけれど、それはもうしょうがないよね……足元への注意もそこそこに、僕は次第になだらかな上り坂へと変化してきた「道」を足裏から膝、脚の付け根全部で知覚しながら、力強く進み続ける。


 光が射していたところで大きく右に道は曲がっていた。そしてその先には待ち望んでいた出口が、割とそっけない佇まいで(当たり前かもだけど)、その口を開いて確かに存在していたわけで……ッ!!


 開いていたのは、今までの道の大きさからすると、二回りほど小さくなって、さらにその形は上から押しつぶしたかのようにひしゃげていたけれど。多分くぐり抜けることは可能そうな大きさ、のはず。そして確かにその先には、陽光に満ちた眩い世界が見えている。その光景が、切り取られている。


 思わず駆け出してしまいそうになる身体を精神で抑え込みつつ、それでも多少は不格好な早歩きになってしまいながら、僕はどんどん大きく見えるようになってきたその「外界」へ直結していると思しき「出口」向けラストスパートをかける……ッ!!


 そして。


「……」


 出た。……瞬間に生暖かさを孕んだ風が、僕の全身を巻き付くようにして包んでいく。その場所は、草木に覆われた、ひとことで表現すると「林」? みたいなところだった。遠くには少し見下ろすかたちで建物の連なり……つまりは人の営みが見て取れた。丘の中腹あたり……でも街とかはほど近い場所にある、そんなに辺鄙なところでは無いってことだ。良かった。絶海の孤島とか、不毛の砂漠とかじゃあなくて。


 でも。


 それ以上に強烈に、僕に違和感を覚えさせるものがまさに林立している、そして生い茂っているよ……何だろうこの違和感……「色」だ。何とも言えない混乱に大脳が必死でその原因を探り当てた、その答えは「色」。色が、僕が想起していたものと違うんだ。それが違和感を揺さぶるようにして戸惑いを運んで来ている……


 何というか、青かった。


 緑のものが、青かった。


 改めて目を擦って二度見してみる。でもその「色彩」は変わることはなくて。


 変わらず僕の視界には、「真っ青」な葉を宿した針葉樹っぽい木々が生えていて。そして足元にはこれまた目に鮮やかな「青色」をした草が茂みを構成しているのだけれど。「真っ青な植物」って、無いよね……少なくとも僕の経験上は無かったな……じっと眺めてみるけど、出来のよいCGを3Dで見せられている感じがして、そしてそれが確かな現実であるということに僕の大脳がうまく咀嚼してくれないようで、やっぱり違和感はぬぐえないのだけれど。


 僕の眼が、あるいは脳が、どうにかなってしまったんだろうか。


 一瞬、面食らって顔も身体も硬直してしまった僕だけど、視力1.5を誇る僕の目は、色以外は正確に周囲の様子を捉えているわけで。であれば、ひとまず多少の色彩感覚の違和感なんて気にするな。とりあえずは人のいる所まで行って、助けを求めよう。IDも端末も持って無い僕だけど、生体認証で何とかなるはず。


 何となくの風景から、ここは日本ではないんだろうな、とは感じている。「不時着」した場所は身体に感じる気候からすると、南半球……? でもぴんとは全然こない。まあいいか。とにかく人の営みはありそうだし、そこに翻訳機(セベロ)くらいはあるはずだ。病院に連れて行ってもらって、この眼の異常を診てもらおう。


 穏やかな陽光の中、ひとまずの目標を定めた僕は、それでも全身タイツという、いささか体面的には厳しいスタイルで歩き出す。しかもこのタイツの色、明るいところで見たら光沢のある灰色……というか光反射したらそれはもうギラギラする銀色だよ、何でこんな目立つ色なの? 救難信号的なものなの?


 まあ僕の視神経がイカれてそんな派手な光沢色に見せているだけなのかも知れないという果敢ない望みに乗りながら、なだらかな坂道を、何でかよく分からないけど、身体全体に感じるふわふわとした感覚を持て余しつつ、一歩一歩気を付けながら下っていくのであった……


 そして。


 きちんと硬質樹脂(ケラニオ)で舗装された二車線の道路脇を、やっぱり「鮮やかな青」で彩られた街路樹をぼんやり眺めながら、とぼとぼ歩くこと体感20分。やっぱり身体が何かふわふわした感触を訴えているけれど。ずっと暗く狭いところにいた反動かな……としか思えない。そんなまあどうでもいいか的な頭も身体も疲労を色濃く感じ始めた、その時だった。


「……!!」


 視界にようやく、民家と思しき建物の連なりが……っ。よーしよし、これで助かったぁ……と思うや、急激に空腹感が僕の胃袋の裏あたりをずきゅんと貫かんばかりに襲ってくるわけで。現金。いやいや、そういや目覚めてからこっち何も食べていない。体感半日は経っていると思われるよね……喉の渇きだけはどうともならなかったので、先ほど抜け出ることの出来た「地下坑道」内では、何度かその水の滴り流れる岩肌に、最初は手を付けてそれを掬い取ろうとしてたけど思うように量を採ることが出来なかったから、最後の方は直に口を付けて飲んでた。その後おなかに来るということもないので、無害だったのだろう。何よりほどよく冷えていたので、緊張しながらの慣れない感じの歩行で身体が火照っていた僕には、この上なき甘露であったのだけれど。


 でもそれだけじゃ腹は膨れない……


 もぉう外聞なんか気にするな……不審者と訝しがられても、何としてもひと切れのパンくらいは手に入れてやる……みたいな、ちょっと頭をもたげてきた自分の中に眠る野性の獰猛感に驚きと怖れを感じてしまうのだけれど。その刹那だった。


 その野性に……ッ!! 引き寄せられたとしか思えないタイミングで……ッ!!


「……」


 本物の「野性」が、左手側に見えていた「真っ青な」茂みから、突如現れ出てきたのであった……


 狼かな……でもこれほどの巨体、見た事も無いし、知識としても持ち合わせていない……


 銀白色の体毛を揺らし逆立てながら、その狼然、とした「獣」は、頑強そうな太長い爪を有した強靭そうな四肢を突っ張ると、明らかに僕を「獲物」と識別したかのような視線でロックオンしているのだけれど。


 あかぁん、と真顔で固まるほか、僕に出来ることは既に無さそうなのであった……


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