モンスターの正体ー急な触れ合いは驚きますので控えてくださいー
あまりにも淡々と正体を明かされ、ぽかんと口を開けているとそばにいたイーグルがリオの肩に触れようと手を伸ばした。しかしハッと一旦停止すると制服の袖を少し引き伸ばしながら直接触れないようにして、ぽす、と置いた。
いきなり撫でられるかと思ったリオは疑問符を頭に浮かべながら、首を傾げてイーグルに視線を合わせてみようとしたがなかなか合わない。伏せた目からは長い睫毛が伸びていて瞬きのたびに揺れた。
「急に触れようとして、ごめん、血が少ないから手が冷たくて、驚くと思ったんだ、けど、ごめん」
ぼそぼそと話す声はよく聞こうとしないと捉えられないほどにか細くて、儚かった。
ガラガラとしたしわがれた声を出しそうな見た目なのに、と偏見を持ってしまっていたリオは首を横に振りながらそんなこと、と否定していいのかわからないまま言葉が詰まる。
「リオくん、ボクたちと一緒にいる気はない?もちろんあと一年で中等部(Jクラス)から君は卒業してしまうから、それまで…ダメかな?」
リオは、編入する前から流れていた噂の真偽がどうなのか、正直”モンスター”たちのイメージと、今目の前にいる者たちがそこまで悪いようには思えなかった。雰囲気や言葉の端々でこちらを気遣っている気さえする。取って食うなんてそんなすぐには行われないのだろうかという不安だけはどうしても拭えなかった。ただ一緒にいるということがどういう危険をはらんでいるのかだけ知りたい。なぜなら彼らは”モンスター”なのだ。
バルマからの問いかけとイーグルの見えない視線を感じつつ、少しの間を置いてリオは決断した。
「時間を、ください…少し考えたいんです」
もらえる猶予が果たしてどれくらいになるのか。顔を見合わせたバルマとシオンは軽く頷くと、バルマがリオの手を取って自身の胸元へ引き寄せた。
「今夜はもう遅いからここへ泊っていくといい。長らく使っていないけれど来客用の部屋が空いているんだ。掃除はしているから安心してね」
「いや、あの…鍵ってついて…?」
「ぷはっ!心配しなくても襲ったりなんかしねえよ。普段は人間と距離を置くのが学園規則なんだ。今回はイレギュラー、理事長も怒らねえだろうよ」
「イーグル、リオを部屋へ案内してもらってもいいかな」
「うん、…こっちだよ。」
「は、はい…」
イーグルがバルマの体からリオの体が離れることを確認した後、無理強いにならないようにそっと手をホールから左手へ延びる廊下へ指し示す。少しもたつきながらイーグルの伸ばす手の方向を確認して、リオはおずおずと進み始める。
「リオくん、明日の夕方また話をさせて。その時に返事をもらえると嬉しい」
「は、はい…」
リオの背中が遠くなると、シオンはバルマへ案じた顔で問いかける。
「伯爵になんて言うつもりなんだ。あと、中等部(Jクラス)の奴らも…」
「シオン、君は時々自分のキャラを忘れている気がする。…ボクが平気だと言ったことが不安ということかな。まぁ、中等部(Jクラス)の子たちならまた何かしら仕掛けてくるはずだから…きっとね」
幼いころから行動を共にしてずっと見てきたその妖しい笑みから、絶対的な不安が巡り感じざるを得ない。
「大丈夫か?本当に…」
逞しい体からふうと抜けた静かなため息は広いホールへ消えていった。
―――……
リオが泊まる部屋までをイーグルが案内してくれているのだが、無言なまま進んでいく道のりは果てしなく長いように思える。
無口なのだろうイーグルに底知れぬ窮屈感を感じながら、ある部屋の前でようやく立ち止まった。
「次の角を曲がった先が君の部屋だよ」
まだ着いてはいなかった。イーグルは角を曲がろうとせず、いったんその場で立ち止まった。
「あの、…?」
「君はここを出ていくの?」
「え?」
唐突なイーグルからの問いにハッとして立ち止まっていた体がビクリとした。
「明日の夕方、バルマさんに返事、するんだよね」
目元だけ覗ける包帯の隙間から、零れそうに揺れる睫毛の向こうに暗く浮かんだそれは、いつか見たバルマの瞳のように美しい。月夜にわずかに照らされている廊下がぼんやりと明るみを増していく。
いつの間にか空へのぼった月が雲の間から顔をのぞかせて明かりがわずかに強まった。
「正直”モンスター”の皆さんがそんなに、怖いとは思わなかったです…ただどうしたらいいのか分からないので…」
「うん、バルマは言葉が足りないうえにいつも急な思い付きとかで、行動するから…誤解を、受けやすくて」
「確かに急でしたね…」
「でもこれだけは言える。自分を単なるエサなんて思わないで、君を連れてきたことにはちゃんと意味があるはずだから、それだけは分かってほしい」
「わかりました、えと、イーグルさん…?」
「…!」
「あの僕何か…」
「ミアンが夕食の用意を、しているから、出来たらまた、呼びに来る」
角を曲がった部屋の扉を開けると、イーグルがそう言い残して廊下を戻っていった。




