6話 ふたたび召喚されるまで
軍の生活の話は想像で書いてます。
誠はまるで伸びたゴムが戻るような、
逆らえない強大な力が猛スピードで体を引っ張るのを感じる。
そして真っ暗なトンネルを抜けた時のように、視界に急に光が入り、眠りから目を覚ます。
(夢・・いや、途中からは夢ではないな)
いつもの部屋だが、パジャマは泥だらけだ。
(優理は別世界で生きているんだ!)
誠は歓喜し布団の上でガッツポーズを取る。
(でも、どうしよう・・)
誠は優理のことを両親に伝えるかどうか頭を抱える。
結局、両親にありのままを伝えても 何言ってんだコイツ、
と思われるだけと判断した誠は、両親に優理の話はせず日記として残すだけにした。
しばらくの間、誠は次の召喚に持ち込む物を探すのが趣味になった。
学生だが公務員でもあり、給料をもらう身だ。自分の金で問題なく買い物はできる。
(とりあえずカレーやカップ麺は確保。あのプリン好きだったはず・・だけど日持ちしないな。
スナック菓子がいいか? しかしあまり嵩張るのもな)
優理の好きだったものを思い出しながらスーパーを回り、
(向こうで役立つもの・・懐中電灯? 缶詰とか?)
異世界の生活レベルを思い出しながらホームセンターを回る。
そして買い物から戻るたび、異世界に持っていく防災リュックの中身の選択と、
どれだけ詰め込められるのかで悪戦苦闘するのであった。
帰還の際にリリアが召喚の再使用に一か月後くらい、と話していたが
一か月経っても誠は召喚されない。
(やはり時間の流れが違うのか・・優理が亡くなって10年経つのに、
向こうでは優理が転生して1年と言っていた・・10か月かかると考えた方がよさそうだ。
ひとまず目前の入隊に集中しよう)
誠は自防大学を卒業し、予定通りに自国防御隊に入隊。航空防御隊に配属となる。
航空防御隊の新人訓練は過酷を極め、寮の部屋に戻ってはすぐ泥のように眠る。
朝は必死に起き上がり食堂へ向かう。寝坊して朝食抜きだと訓練中に気絶し落第の恐れがある。
ちょうど隣の部屋からも同期が出てきたところだった。
「よっ」
「おはよう、目に隈があるぞ」
「お前もな・・」
二人とも急いで腹に必要分を入れる、という楽しくない朝食を取りつつ
ヒソヒソと上官の愚痴や自分のチームの訓練の情報を交換する。
そして別々の訓練場へ向かう。
(パイロットを目指すべきか、空挺部隊を目指すべきか。まぁ自分の適性もあるだろうけど)
休日でなければ部屋ですることは寝るだけ、という状態が続く。
しかしどんなに疲れているときも、寝るときは必ず防災リュックの紐を腕に絡ませるようにしていた。
入隊から半年。どの訓練にもそれなりに慣れ、新人全員の適正が判断され終わったころ、
誠は二度目の異世界召喚を受ける。
今度は眠っている時でなく、休日の朝に目が覚めた後。
机の上に置いている形見分けでもらった優理の旧式の携帯が、もう電源も入らないはずなのに鳴り始めたのだ。
すぐに召喚だと判断した誠は防災リュックをかつぎ、携帯に出る。
すると以前のように体や脳が延ばされるような、洗濯槽に投げ込まれたような感覚になり、
トンネルを抜けると、そこは異世界なのであった。