2話 戦士ミゲルは見た
異世界視点ということで、名前がユーリの表記になっています。
「脛当て付きのサイクロプスだと・・マズい!」
ベテランの戦士ミゲルはユーリに向かってくるサイクロプスを一瞥するや
即座に走り出し、優理の前で盾を構える。
ミゲルやユーリのもっている武器では身長5メートルもあるサイクロプスの腿までしか届かない。
しかし、ただでさえ皮膚が木の皮のように頑健なサイクロプスの足に、鉄製と思われるレガースが装備されているのだ。
ひとまず守りを固め、弓や魔法で遠距離から一斉に攻撃しなければ倒せない。
サイクロプスの持つ樹木がうなりを上げ、ミゲルの盾に叩きつけられる。
「ごはっ!」
ミゲルは盾ごと軽々と吹き飛ばされ、半壊した民家の外壁を突き破り、落ちてきた屋根の残骸に埋もれる。
「ミゲル!」
優理が悲鳴を上げる。それを聞きつけた周囲の兵士が優理を守ろうと、ある者はサイクロプスの脚部に切りかかり、ある者は盾をかざすも、剣戟はレガースにはじかれ、蹴り飛ばされ、ミゲルと同じように樹木で殴り飛ばされる。
「ユーリ・・逃げろ・・」
民家の残骸から這い出たミゲルが声を出すも、肺が傷つき囁くようなしゃがれ声しか出せない。
次の獲物を優理と定めたサイクロプスの前で、優理は武器を落とし、両手を組み、目を閉じる。
「兄さん・・助けて、兄さん!」
その瞬間、戦場にパキンとガラスが割れるような硬質な音が響き、
サイクロプスの背後に発生した黒い繭のような空間から、全身青い服の一人の青年がまろび出る。
(召喚? ユーリが人を召喚したのか?)
ミゲルは遠くなりかける意識を必死につなぎ止め、目の前の出来事を目をこらす。
その青年はサイクロプスに向かって走り出し
「どけぇ!」
ありえない程の速さ、高さ、まるで一本のバリスタのような飛び蹴りで、サイクロプスを突き抜ける。
「え?」
ミゲルは何が起きたのかを目で理解はしたが、頭では理解できなかった。
(蹴りで貫通? 嘘だろ? そんなことが人間に可能なのか)
「無事だったか、優理」
「兄さん・・兄さん!」
(いつも聞かされているユーリの兄か? ユーリが兄を召喚した?)
(しかし異世界人の召喚は莫大な人員と準備がいるはず・・一人で可能なのか?)
混乱するミゲルの前で、青年とユーリは周囲を掃討する。
青年は見事な拳術でオーガも素手で倒してしまった。
残敵はほぼ掃討され、ミゲルにもようやく治癒魔法がかけられ、ユーリの無事を確認しに行く。
「すまん・・ユーリ無事だったか」
「ミゲルこそ大丈夫?」
「ああ・・もうなんともない。ところでそちらは・・」
「ボクの兄さん!」
「はじめまして、優理の兄の誠です。妹を守っていただきありがとうございます」
「ミゲルという。ユーリのパーティの副リーダーだ。しかし凄まじい強さだな・・」
「立ち話もなんだし、とりあえずあっちで話そ!」
ユーリはパーティの荷物置き場になっている簡易テントへ誠を案内するのだった。