お料理編-その2
「あのさ、斎藤くん」
レジで精算を終え、買った物を買い物袋に入れていると、宮城が怪訝そうな顔をして斎藤に問いかけた。
「今日、ご両親いないんだよね?」
「ああ。土曜まで帰ってこねえ」
ちなみに本日は火曜日。つまり四日は帰ってこないということだ。
「今日買った材料って、買い置き分もあるの?」
「いや、全部肉じゃがの材料だ」
「お肉も?」
「そうだ」
「……細切れ1キロ、全部?」
ちなみに一般的なレシピでは、だいたい一人前100グラムである。
「肉がたっぷりのほうが、うまいだろ?」
「いやいや、程度ってものがあるでしょ。斎藤くん、ホントに料理できるの?」
「あったりまえよ」
ふふん、と斎藤は胸を張る。
「これでもあらゆる料理動画を見ている俺だぜ。肉じゃがなんて簡単だっての!」
「は? 見てるだけ?」
「動画で細かく説明してるんだぜ。小学生じゃないんだから、見りゃ誰だってできるって!」
「……あんたねえ。できるわけないでしょうが」
そこで口論になること五分少々。「あらあら、カップルが微笑ましいわねえ」「痴話喧嘩? 迷惑な」「可愛い彼女さんねえ」なんて声が周囲に満ち、それを耳にして赤面する宮城に対し、「よおしそれなら!」と斎藤はドンと胸を叩いた。
「今からうちに来いよ。うまい肉じゃが、ご馳走してやろうじゃないか!」
そんなわけで、宮城は斎藤の家に連れて行かれることになった。
なお、宮城は一般常識はわきまえている子であり、「熱出して寝込んでる弟さんがいるのに、行くわけにはいかない」とちゃんと断っている。しかし「うるせえ、いいから来い!」と問答無用で斎藤に手をつながれ、「はわわわわわわっ!? て、手を!?」となっている間に、斎藤の家まで連れて行かれてしまった。
「え? ここが、斎藤くんの家?」
そして連れて行かれたのが、純和風の「お屋敷」としか呼びようのないバカでかい家だった。
「おう、そうだぜ」
「ええっ!? 斎藤くん、ひょっとしておぼっちゃまなの!?」
「なんだそりゃ? いいから入れよ」
住み込みの家政婦でもいそうな家だが、そういう人はいないという。
「よし、そこで見てろよ!」
台所へ直行し、宮城を座らせてお茶を出した斎藤は、まずはキッチンのテーブルに置いてあったタブレットのスイッチを入れてスタンドに立てかけ、肉じゃがの作り方動画を見て確認する。
ちなみにその間、宮城はずっと斎藤に握られていた手をニギニギとさせつつ、妙にニヤケていた。
「はっはっは、簡単じゃねえか。よおし、まずはニンジンとジャガイモを乱切りだ!」
動画を見終えた斎藤は、早速エプロンをつけて料理に取り掛かった。まずは買ってきたニンジンを手に取り、まな板に置いて切ろうとする。
そのとき。
「またんか、ボケ!」
言うや否や「縮地法」で間合いを詰めてきた宮城に、斎藤は思い切り後頭部をハタかれた。
「痛えっ! なにすんだ!」
「切る前にちゃんと洗わんか! あと、ニンジンの皮をむけ!」
「え、そんなことレシピに書いてないぞ?」
「レシピ以前の問題でしょうが!」
その後、同じやり取りをジャガイモでもやった。
玉ねぎでは、皮を剥くときに中身の三分の一までを(力任せに)はいで捨ててしまい、「もったいないでしょうが!」と怒られた。
肉を炒める時には油を入れすぎ、「揚げ物でもする気?」とあきれられた。
「お、おおう……なんか、自信なくなるなあ」
「むしろなぜ自信があったか、言ってみ?」
まったくもう、と宮城はあきれ、仕方ない、と斎藤の隣に立ち、かけてあったエプロンを身につけた。
「教えてあげるから。ほら、最初からやるよ」
「い、いやいや、悪いって。なんとか一人で……」
「いいから!」
遠慮する斎藤にずいっと詰め寄り、頬を膨らませながら見上げる宮城。
そんな宮城を見て、斎藤はなぜか頬が熱くなった。はて、風邪でも引いたのだろうか? と首をかしげるが、何せ風邪をひいたことがないのでよくわからない。
「弟くんに、おいしい肉じゃが食べさせてあげたいんでしょ?」
「お、おう……」
「ほら、やるよ! まずは食材の用意!」
「らじゃっ!」