初デート編-その4
「ま、無難に映画でいいんじゃない?」
そんな宮城の提案により、喫茶店を出た二人は映画館へと向かった。
映画好きの母親の影響もあり、宮城はよく映画を観るという。この夏ならコレがお勧め、という宮城のチョイスにより、二人はこの夏一番話題のミステリー映画を観ることにした。
「主役の俳優さんがね、すっごく演技上手なんだよ」
上映が始まるまでの間、パンフレットを手に宮城は楽しそうに話してくれた。うんちくを交えた、わりとディープな内容にうなずきつつ、斎藤は「そういえば」と思った。
宮城が趣味の話をするのは初めてだな。
二年になって同じクラスになり、結構仲良くなったのに、まだ知らないことの方が多いらしい。武道の達人で、家事が得意で、下ネタは苦手で、勉強がすごく苦手。斎藤が宮城について知っているのは、その程度。
「うちにDVDあるよ。観るなら貸そうか?」
「おお、ぜひ貸してくれ」
それを観たら、宮城のことがもう少しわかるかな。
そんな風に考えながら斎藤はうなずき、そして、そんな風に考えた自分に少し驚いた。
◇ ◇ ◇
この夏一番話題というだけあって、映画はとても面白かった。
「……ラスト、びっくりしたねー」
「おお、思わずのけぞったぞ、俺は」
ラストのどんでん返しは、映画ファンの宮城すら驚かせるものだったらしい。上映時間は二時間近くあったが、内容が濃密すぎてあっという間だった。
「私、お母さんともう一回観に来よ」
固く決意する宮城の横で、斎藤の腹が鳴った。気づいた宮城がクスクス笑い、斎藤の顔をのぞき込んだ。
「斎藤くん、お腹空いちゃった?」
「おお、映画で頭使って、最後に驚かされたからな」
「そうだね。私もお腹空いたな。どうする? フードコートでも行く?」
「いやいや、実は行こうと思っている店がある」
「そうなんだ。どこ?」
「ラーメン屋だ」
斎藤の答えに、宮城は少しだけ微妙な笑顔になった。
だが、それは斎藤にとって想定済みである。
「宮城、ちょっとがっかりしただろ?」
「えっ!? い、いや、そんなことはないけど……」
「安心しろ、普通のラーメン屋じゃない。ちゃーんと、デートにふさわしい店だぞ」
斎藤がドヤ顔で言い切ると、宮城が「へ?」と間抜けな顔をして、目をパチクリさせた。
「え……あ……そ、そうなの?」
「ま、騙されたと思ってついて来いって。ちょっと歩くけど、いいだろ?」
「あ、うん……え、ええと、その……それは、いいけど……」
「ん、どした?」
何やら宮城の様子がおかしい。顔を赤らめてうつむき、もじもじしている。はてどうかしたのだろうか、と首を傾げていると、宮城が上目遣いで斎藤を見て、目が合うと慌てて目を逸らした。
「そ、その……ち、ちょっと、歩くなら……トイレ、行ってくるね」
「おう、わかった」
ああなるほど、トイレか、それは言い出しにくかったろうな。
急ぎ足でトイレへ向かう宮城を見送りながら、斎藤は「まだまだ俺も気が利かないなあ」なんて反省をするのであった。
◇ ◇ ◇
トイレの個室に駆け込んだ宮城は、ほてった顔を両手で押さえながら深呼吸をした。
「び、びっくりしたぁ……」
ちゃーんと、デートにふさわしい店だぞ。
いきなり飛び出してきた斎藤の言葉に、宮城の心臓は飛び跳ねまくり、今にも口から飛び出してきそうだった。
デート。
斎藤ははっきりとそう言ってくれた。もちろん宮城はそのつもりで来ていたが、昨夜誘われた時に「デート」と言われたわけではない。きっと斎藤は「ただ二人で遊びに行く」ぐらいにしか考えていないのだろうと思っていた。
まあいいか、誘ってくれただけで十分、自分にとってデートならそれでいい、とあきらめ交じりに考えていた。
しかしつい今しがた、斎藤は、はっきりと言ってくれたのである。
デート、と。
「ホントに? ホントに斎藤くんもそのつもり? うそ、どうしよう……すっごい嬉しい……」
嬉しいやら恥ずかしいやら、その場でピョンピョン飛び跳ねてしまいたい。それをぐっとこらえて、宮城は何度も深呼吸をした。
「だめ、だめだよ、期待し過ぎは禁物……斎藤くんだからね」
なんとか気持ちが落ち着いたところで個室を出た。手洗い場に行き、鏡に映った顔が真っ赤なのを見てまた動揺したが、落ち着け、落ち着け、と自分に何度も言い聞かせた。
「とにかく……お昼。どんなお店か見るまでは、平常心だよ、私」
もしも本当にデートだと考えてくれているなら、それなりのお店のはず。「どうかそうであってくれますように」と祈りながら、宮城は斎藤のところへ戻って行った。




