期末テスト編-その6
夕食の片づけを終えてもケーキ作りをする気になれず、宮城は部屋に戻ってベッドに突っ伏した。
「やっぱ聞けばよかった……」
家に帰ってから何度後悔したことか。しかしもう後の祭りである。
「斎藤くん、きっと変な子だと思っただろうなぁ」
今から電話して聞いてみるか、とスマホを手に取るも、電話で聞くようなことじゃない気がしてすぐにスマホを置く。ならば明日会いに行って聞こうかと思うが、今日はもう、その口実となるケーキ作りをする気になれない。
「明日、早起きして作るか……」
そういえば、と宮城は眉をひそめた。明日斎藤が家にいるかどうかを聞きそびれていた。メッセージを送って明日の予定を確認しようかと思ったが、昼間の件もあってなんだか送りにくい。
「……どうせ気にしてないんだろうけど」
そうつぶやいて、じわっと目頭が熱くなった。もういいや、明日考えよう、とスマホを放り投げ、お風呂に入ろうと立ち上がった時。
電話が鳴った。
「え……斎藤くん……?」
画面に表示された名前を見て驚いた。アタフタしつつスマホを手に取り、一度深呼吸してから画面をスライドした。
「もしもし……」
『おー、宮城。遅い時間にすまんな』
「大丈夫だよ。まだ九時だし」
あんなに落ち込んでいたのに、斎藤の声を聞いたら心が弾んだ。我ながらわかりやすいなあ、と宮城は自分に呆れてしまう。
「えと、どうかした?」
『いや、その……なんていうかだな……』
斎藤には珍しく、言葉の歯切れが悪い。宮城が不思議に思っていると、斎藤が「コホン」と咳ばらいをし、尋ねてきた。
『宮城、明日ヒマか?』
「明日?」
本当はケーキを作って斎藤の家に行こうと思っていたけれど、まだ何の約束もしていない。なので、ヒマである。
「んと、特に用はないけど……」
そう答えて、ドキドキしてきた。明日は土曜日。お休みの予定をわざわざ聞くなんて、何か用でもあるのだろうか。
『おー、それはよかった。それじゃよ……明日、遊びに行かねえか?』
「え?」
『いや、なんだ。お前、試験勉強すげえがんばってたしよ。一学期も無事終わるし、打ち上げ、てことで、二人でパーッと遊ぼうかと思ってよ』
「え、え……遊びに……ふ、二人で?」
二人、てことは……弟の亮二もいない、ということか?
あの「弟がすべて」の斎藤が、弟を置いて、宮城と二人で遊びに行こう、と誘ってくれているのか?
「そ、それって……あの、なんか、まるで……」
デートのお誘いみたいなんだけど、と言いかけて顔がカアッと熱くなった。
斎藤の意図がわからない。いったい何でそういうことになったのかさっぱりわからない。だが、こんなうれしいお誘いを断る理由なんて、あるわけがない。
『あー……嫌か?』
「ち、違う、全然! あの、嫌じゃないから! い、行きます、喜んで行かせていただきます!」
『おう。よかったぜ』
待ち合わせは朝九時、駅前で。そこからN駅まで移動して、喫茶店にでも入ってどこへ行くか決めよう。
そう決めて電話を切ると、宮城は「ふわあ……」と夢見心地でベッドに倒れこんだ。
「嘘みたい……」
ほんの十分ほど前まで落ち込んでいたのに、今はふわふわと浮いているような気がした。
デートに誘われた。
はっきりとそう言われたわけじゃないけれど、二人で行くのだからデートだ。誰が何と言おうとデートだ。そう思うと喜びがこみ上げてきて、宮城は「うわ、うわ、うわぁぁぁぁ、マジで、うれしいぃぃぃ!」とベッドを転げまわった。
「待てよ?」
だが喜びに浸るのもつかの間、宮城はハタと気づいて慌てて起き上がる。
「……明日、何着ていこう?」
宮城早苗、十七歳。突然決まった初デート。
さて何を着ていくのが正解か。
それが、期末テストなんか目じゃないほどの難問となって、宮城の前に立ちふさがったのであった。




