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期末テスト編-その5

 そんなこんなで、あっという間に期末テストの日を迎えた。

 試験問題を目にしてたじろぎはしたものの、斎藤が「お前ならできる!」とサムズアップをかまして応援してくれる。そんな斎藤の応援に力を得て、宮城は怒涛の四日間を戦い抜いた。


 そして、試験が終わり一週間。


 その日、全教科の採点結果が返却された。母に「ホームルーム終わったらすぐ帰って報告しなさい」と厳命されたこともあり、宮城は母が待つ自宅へ全速力で帰宅した。


 「はい確かに。赤点はなし、ね」


 宮城が恐る恐る差し出した期末テストの結果を見て、宮城・母はため息交じりにうなずき、宮城もほーっと安堵の息をついた。

 宮城早苗、十七歳、高校二年生一学期の期末テストにて、全教科赤点回避を見事達成。

 ただし。


 「ほんっと、スレスレね。次はもう少しがんばってもらえるかしら?」

 「ぜ……善処シマス」


 数学はあと二点少なかったら赤点。他の教科も似たり寄ったりで、平均点を上回っているのは家庭科と保健体育のみ。「快挙達成!」と喜ぶにはあまりにもアレな結果であり、母も「よくやった」とほめる気にはなれないようだ。


 「斎藤くんにも、ちゃんとお礼言うのよ」

 「うん、わかってる」


 母に念を押されるまでもない。斎藤の助けなくしてこの結果はありえなかった。五体投地で感謝の意を表したっていいくらいだ。さすがにそれは斎藤もドン引きそうなのでやらないが。


 ケーキでも作ってあげるか。


 あの顔で、と言っては失礼だが、斎藤はけっこうな甘党である。「そゆとこカワイイよね」なんてニヤけてしまう。色々お世話になったし、ここは奮発してフルーツケーキにするか、と宮城は材料を買いにスーパーへと出かけることにした。


   ◇   ◇   ◇


 スーパーで買い物を済ませた帰り道で、宮城はふと思い出した。


 「結局、斎藤くんの好きな子って……誰だろ?」


 期末テストのバタバタですっかり忘れていたが、宮城にとって期末テスト以上の難問は、まだ解けていない。

 好きな子がいるから、と高田は斎藤にフラれた。高田を傷つけないためのウソ、と考えられなくもないが、斎藤はこういう時に嘘はつかない男である。

 好きな子がいると明言する以上、ちゃんといるのだろう。

 そして、その好きな子というのは。

 なんとなく……そう、なんとなくだけど、自分ではないかと宮城は思う。


 「ただの願望……かなあ?」


 期末テスト対策のためにあれだけのことをしてくれた。好きでもない女の子のために、あんなに一生懸命になるだろうか、と考えて。


 「……やるな、あいつなら」


 そういう男だ。だから、好きになったのだ。ただ、もうちょっとわかりやすくてもいいのではないか、と文句を言いたくなる。

 ああもう、と宮城は石ころを蹴飛ばした。


 「結局、斎藤くんに聞くしかないんだよね」

 「何をだ?」

 「うひっ!?」


 いきなり声をかけられ、宮城の心臓が飛び跳ねた。


 「さ、斎藤くん!?」

 「いよっ、買い物帰りか?」

 「お、驚かさないでよ!」

 「いや、声をかけようとしたら俺の名前言ってたからよ」


 ドッドッドッ、と心臓が激しく脈打った。まさか全部聞かれてたんじゃ、と思うとダッシュで逃げ出したくなったが、どうやら聞かれていたのは最後だけらしい。


 「で、なんだ、俺に聞きたいことって」


 ニカッと笑いながら斎藤が隣に立つ。宮城は気恥ずかしくて思わず目をそらした。


 「い、いや……それは、その……ケーキ。そう、勉強教えてくれたお礼のケーキ、いつ持って行こうかなあ、て……」

 「おいおい、気にしなくていいって。俺とお前の仲じゃないか!」

 「……そうかもしれないけどさ」


 またこの男は、と宮城はため息をついた。

 お前のことは好きだぜ、と言ったり。

 お前けっこうカワイイんだぞ、と言ったり。

 公園でヘタレてたら、すぐに駆けつけてくれたり。

 この男は当然のようにそういうことをする。そしてお礼を言うと「気にするな!」とケラケラ笑う。


 気にする、ての。


 気になって気になって仕方ないというのに、「気にするな!」なんて言われたら、まるで女の子として興味はないと言われているんじゃないか、て勘ぐってしまいたくなった。


 「あーもう……」


 二年生になり同じクラスになって、結構がんばってアピールしてきた。だが、斎藤を除くクラスメイト全員が気づいているのに、当の本人は全く気づいてくれない、というのが虚しくなる。


 「お、おい、どうした宮城。大丈夫か?」


 いきなりしゃがみこんだ宮城に驚いたのか、斎藤が慌てて声をかけてきた。


 「……ちょっと、疲れた」

 「大丈夫か? 歩けるか?」


 へたり込んだ宮城を心底心配そうにのぞきこみ、斎藤がアタフタしていた。そんな斎藤を上目遣いに「じとっ」と見ていた宮城だが、ふと「なんだかつい最近もこんな風にして斎藤くんを見てたなあ」と思い。


 ああそうだ、と思い出した。


 「私……絶対告白する、て決めたんだった……」

 「ん? どうした? よく聞こえねーぞ?」

 「うん、ごめん、大丈夫だから」


 斎藤が宮城の前にしゃがみこんだ。すぐ目の前に斎藤の顔が見えて、宮城の胸が「トゥンク」と跳ねた。


 「……ねえ斎藤くん」

 「おう、なんだ?」

 「私さ、どうしてもわかんなかった問題あるんだよね」

 「おいおい、期末終わったぜ。なんでもっと早く聞かなかったんだよ」

 「うん、自分で解かないと意味ないかなあ、て思ったから……」

 「さすが宮城。いい心がけしてるな!」


 斎藤がほめてくれた。たいしたことではないけど、すごくうれしい。


 「で、どんな問題だ?」

 「うん……その、ね」


 宮城は顔を上げ、大きく息を吸った。

 大丈夫、きっと大丈夫だから。がんばれ私、と何度も何度も自分を鼓舞する。


 ──斎藤くんの好きな女の子って、私かな?


 その一言を発すれば終わりだ。斎藤は必ず答えてくれる。そしてたぶん、きっと、自分の名前を言ってくれる。

 だというのに。

 そこまでわかっているというのに。


 「あの……その……」


 怖くて、どうしても言えなかった。

 どうしてもあの……中学の時の告白を思い出す。斎藤はあんな返事はしないとわかっているのに、どうしても勇気がわいてこない。

 ああもう情けない、と宮城はまた顔を伏せた。


 「どうした、宮城?」

 「ごめん……やっぱもうちょっと自分で考える」

 「なんだよ、いいから言ってみろよ」

 「ううん、いいの……ごめん、ほんと……ヘタレで」


 ついさっきまで斎藤へのお礼のケーキを作ろうと、ウキウキした気分だったのに。

 今は立ち上がるのも面倒に思うくらい、すっかり気持ちが落ち込んでしまった。


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