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期末テスト編-その4

 朝十時から始まった勉強会は、夕方五時にお開きとなった。

 しかし、授業の内容が「すっからかん」の宮城が、一日ですべてを復習できるはずもなく。


 「ええい、宮城、明日も一日勉強会だ! うちにこい!」

 「え、ええっ! マジでっ!?」

 「あ、私は自分でやるから。お二人だけでどうぞ」


 謎の責任感を発揮した斎藤の提案により、翌日は斎藤家に場所を移して、再度勉強会となった。

 斎藤は容赦しなかった。

 途中、一時間の昼休憩は取ったものの、朝九時から夜六時まで、八時間みっちりと勉強をした。「こんなに勉強したのは生まれて初めてだよお」とぼやく宮城を叱咤激励し、どうにか試験範囲一通りのおさらいは済ませた。

 しかし、とても完全とは言えず。

 斎藤は試験当日までの毎日、放課後に斎藤宅で勉強会の開催を宣言した。


 「む……無理です。もう降参です。あとは一人でやるから、斎藤くんは自分の勉強して……」


 知恵熱を下げるべく頭に冷却シートを張った状態で、宮城は泣きべそをかいた。斎藤と二人で勉強会、なんて浮かれた気分はとっくに吹き飛び、さっさと逃げた高田がうらやましくて仕方ない。


 「だまらっしゃい。この惨状を放置などできません! このままでは大量赤点ゲットです!」


 もちろん斎藤は逃がしてくれなかった。謎の教育ママ的口調でメガネを「くいっ」と上げ、泣きべそをかく宮城にピシリと言う。


 「お願いを受けた以上、宮城に赤点を取らせるわけにはまいりません!」

 「なんなの、その謎キャラはー! もう無理だってばー!」

 「兄ちゃん、兄ちゃん」


 泣きべそをかく宮城を見て、亮二が兄を手招きし、ごそごそと耳打ちした。斎藤は何やら驚いていたものの、再度亮二に言い含められると、こほん、と咳払いをしてやや語気を緩めた。


 「あー……宮城」

 「な、なぁにぃ? もう無理だからねぇ」

 「全教科赤点回避したら……デー……じゃなくて、その、なんでも好きなものおごってやるぞ」

 「ふえ?」


 斎藤の言葉に、すん、と宮城は鼻をすすった。


 「え……なんでも?」

 「ああ。飯でも、映画でも、遊園地でも、プールでも、海でも。なんでもだ」


 再び咳ばらいをし、何やら頬を赤らめている斎藤をぼんやりと見上げる宮城。どうやらご褒美作戦のようである。しかし、なんというか、そのラインナップはご褒美という名のデートのお誘いのように思え、一瞬気持ちが高揚した宮城だが。


 「はっ……ダメダメダメ! だまされるもんか。もうその手は食わないもん!」


 これまでさんざん上げて落とされてきた宮城の精神は、素直に解釈することを拒んだ。


 「その……ど、どうだ、やる気になったか?」

 「なんか、見え見えのご褒美作戦なんですけど?」

 「いや、まあ、その……なんだ……」


 斎藤がちらりと部屋の入口を見る。そこには亮二がいて、心配そうに様子をうかがっていた。なるほど、どうやらあのできた弟からの入れ知恵らしい。


 「ふーん。じゃあさ、一流ホテルの高級ディナーおごって、て言ってもOKなの?」

 「くっ……お、おう、なんとかしてやらあ! 俺に二言はねえ!」

 「あ、いや、冗談だってば」


 宮城は慌てて首を振った。さすがに高校生二人で一流ホテルのディナーというのは場違いな気がする。それに男女でホテルのディナーなんて、恋愛小学生の宮城にはレベルが高すぎだ。


 「……ご褒美なんかなくても、がんばるってば」


 宮城はしばし迷った末、そう言った。

 勉強を教えてくれとお願いしたのは宮城だ。

 そんな宮城に応え、一生懸命教えてくれた斎藤。弟の入れ知恵とはいえ、あきらめかけた宮城を励まそうとご褒美まで用意してくれた。さすがに赤点回避ぐらいはしないと申し訳ないだろう。


 「おお、さすが宮城だな! お前ならそう言ってくれると思っていたぜ!」


 ニカッと笑って斎藤が拳を突き出した。その拳を見て、コイツは私が女の子だとわかっているのだろうか、と思いつつも、宮城も拳を突き出してコツンと当てる。


 「俺が助ける! ついてこい、相棒!」

 「うん、よろしくね、相棒!」


 ご褒美という名のデートのお誘い。それにときめかないというわけじゃないけれど。

 やっぱこういう感じが私と斎藤くんだよね、と思いつつ、宮城は「明日からも頑張るぞ!」と気合いを入れた。


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