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蛍狩り編-その3

 蛍狩りと聞いて、斎藤の弟、斎藤亮二さいとうりょうじ、男、ザ・絶世の美少年、はたいそう喜び、ぜひ行きたいと即答だったそうである。

 弟が行きたいと言う以上、斎藤の参加は決定である。そして斎藤が行く以上、宮城もまた参加が決定した。


 そんなわけで、週末の午後。


 「本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 斎藤に連れられてやってきた亮二を見て、高田の両親、その友人一家が二組、総勢十四名が、そのあまりの美少年っぷりに圧倒され、声を失っていた。特に、友人一家の二人の娘、上が中一、下が小五の姉妹は色めき立ち、目をハートの形にして亮二にまとわりつきっぱなしだった。


 「はいよー、肉焼けたよー!」


 そして兄の方はと言えば、招かれた側のはずなのに、なぜかバーベキューを取り仕切っていた。


 「すまないね、斎藤くん」

 「いいっすよ、俺、こういうの得意なんで!」


 例年ならバーベキューを取り仕切る友人一家の主が、急な仕事で遅れて参加となった。そのせいでバーべーキューの段取りがわからず苦労していたらしい。高田一家が到着したときには火起こしに必死になっていて、見かねた斎藤が手伝いを申し出て、そのままバーベキューを取り仕切ることになったのである。


 「しっかし斎藤くん、料理上手ねー」


 斎藤の手つきを見て、高田は肉をかじりながら感心した。確か数か月前までは、ニンジンの皮も向かずに調理しようとしていたド初心者だったと聞いているが、とてもそうは思えない。普段料理をしない高田より、はるかに手際がよさそうだ。


 「こんなん、材料切って串に刺すだけだろ。簡単簡単♪」

 「家政婦さんに習ったの?」

 「おう。ま、宮城にも教えてもらったけどな。あいつ、料理めっちゃうまいんだよなー」


 ほほう、と高田は宮城に視線を向けた。告白はできないくせに、その辺のアピールはバッチリらしい。しかもここ最近は「期末ヤバいんで勉強教えて」と、毎日のように家を訪れているとか。宮城なりにがんばって、着々と仲は深めているということか。


 「……そこまで行ってて、なぜ告白しない」

 「ん? なんか言ったか?」

 「いえいえ、ひとりごと」


 ちなみに宮城は、姉妹とは別の一家の中学三年生の息子と話し込んでいる。空手をやっている子で、高田が「この子古武道の達人」と紹介したから、そっち方面で話が弾んでいるのだろう。むろん、高田がそう仕向けたのだが。


 「うむうむ、皆に行き渡ったな。追加の食材オーケー、飲み物もオーケー、炭火もバッチリ。うむ、完璧だ!」

 「ホント完璧だね」


 もてなされるはずがもてなしていて、それでも満足そうな斎藤。案外、コックとか向いているのかもしれない。


 「しっかし斎藤くんって、スペック高いよねー」

 「ん? なんのだ?」

 「んー……旦那スペック? 結婚したら、めっちゃいい旦那になりそう」

 「なんだなんだ、褒めても何も出ねえぞ?」

 「いやいや、おいしいバーベキューが出てくるでしょ?」


 高田はにっこりと笑って空になった皿を差し出した。それを見た斎藤が「なるほどな」と笑いながら、焼けた串を皿に置く。


 「斎藤シェフ、渾身の一串だ。心して味わうといい!」

 「了解♪」

 「あまりのうまさで、俺に惚れるなよ?」

 「……はいはい」


 やばいなあ、と心臓が飛び跳ねるのを感じながら、高田は串にかぶりついた。

 絶妙な焼き加減と、塩コショウのあんばいがたまらない。

 こんなにおいしいものを食べさせておいて、惚れるなよ、なんて。


 ちょっとひどいじゃないか、と本気で文句が言いたくなった。


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