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蛍狩り編-その2

 「ねえ、週末、蛍狩りに行かない?」


 登校するなり、待ち構えていた高田にそんなことを言われて、斎藤と宮城は自然と顔を見合わせた。


 「蛍って、食べられるの?」

 「……おい宮城、それをマジで言っているのなら、俺はあきれるぞ」


 斎藤の突っ込みに高田もうなずく。ちなみに蛍の発光部分には毒があるので食べるのはお勧めしない、とはネットで得た知識だ。


 「宮城さん、もうちょっと一般教養を身に着けた方がいいんじゃない?」

 「じ、冗談だって、冗談に決まってるでしょ!」


 高田の突っ込みに、宮城は乾いた笑いで答えた。武に秀でた、というか突出した才能のある宮城は、半面、学業はかなりきわどい。冗談だなんて言っているが、きっとマジだったのだろう。


 「いいか宮城。蛍狩りってのは、蛍が光って飛ぶ光景を鑑賞しに行くことだぞ」

 「わ、わかってたよ!? わかってたからね、斎藤くん!」

 「うそをつけ」


 斎藤がつん、と宮城のおでこを指先でつつき、宮城が「あう」と情けない声を上げる。

 なんというか、恋人同士のいちゃつきのようで、高田は少々ムカつく。なぜこれでこの二人は付き合っていないのだろうか。さっぱりわからない。


 「ま、わかってもらえたところで」


 こほん、と咳払いをして、高田は気持ちを切り替えた。


 「私の母が、蛍の保護活動に協力していてね。毎年、見に行ってるんだ」

 「へー、お前の母親って、そんなことしてるんだ」

 「まあね。で、今年も行くつもりなんだけど、せっかくだからお二人を招待しようかな、て。ほら、助けてくれたお礼がまだだったでしょ?」


 およそ一ヶ月前、アイドル活動時代のファンが学校に押しかけてきて、危うく殺されかけた高田。それを救ってくれたのが斎藤と宮城という、二年一組の最強カップル(未満)だ。


 「バタバタしててすっかりお礼をしそびれちゃってたし。うちの両親も、ぜひ、てことだから」

 「いやー、俺は大したことしてねえし。わざわざいいぞ?」

 「いやいや、頼むから何かお礼させて。下手すりゃホントに死ぬとこだったんだから」


 あ、そうそう、と高田は両手を叩く。


 「よかったら弟くんも連れておいでよ。小学生の男の子なら、きっと喜ぶと思うよ」

 「お、いいのか? よし、今夜にでも確認して返事するよ」


 うむうむ、と高田はうなずいた。斎藤を誘うなら、溺愛する弟をダシにするに限る。それがここ一ヶ月で学んだコツだ。


 「宮城さんも、OKだよね」


 そして、斎藤が乗り気なら宮城もついてくる。それもまた、ここ一ヶ月で学んだ真理だ。


 「まあ、斎藤くんが行くなら、行こうかな」


 うむ、いっちょあがり、と高田はほくそ笑む。

 なんというか、ちょろい二人である。戦闘力が高いから、たいていのことは乗り切れるのだろうが、策士が相手だとハメられてしまうのではないかと心配になる。

 まあ、今回はそこに付け込むので、偉そうなことは言えないのだが。


 「それじゃ今夜連絡してね。あ、蛍狩りの前にはバーベキューもやるから、そっちも楽しみにしててね」


 よしよし、仕込みは成功、と高田は上機嫌で席に戻った。

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