迷い犬編-その3
「私さあ、ランチで食パン一斤買う人、初めて見たよ」
もっと言えば、友達にランチに行こうと誘われて迷わずスーパーへ行く人が初めてだった。
「え、だめか?」
「ダメじゃないけど。マックにでも行くのかと思ってた」
「高い。足りない」
端的に述べられた理由に、宮城は「なるほど」と唸る。そんな宮城を気にするそぶりもなく、斎藤は礼儀正しく「いただきます」と言ってから昼飯にかぶりついた。
プライベートブランドの四枚切り食パンに、特売のコロッケを挟み、コロッケサンド完成。飲み物は1リットルサイズのブラックコーヒー。しめて税込358円。確かに高コスパである。
「では私もいただきます……あ、おいし」
「だろ? 最近のスーパーは、お惣菜に力入れてるんだぜ」
「学校の近くにもあるといいのにね」
ちなみに宮城はお惣菜コーナーで買った海苔弁当に500mlのお茶。しめて税込432円である。こちらもなかなかお安く上がっていた。
「でも、野菜足りないんじゃない?」
「俺は草を食べるために生きてるんじゃない」
「なるほど、嫌いなのね」
お肌荒れるよ、と笑いつつ、宮城もまた野菜がほとんど入っていないお弁当を口に運んだ。
爽やかな空気が流れる初夏の土手で、二人は並んで座り、ランチを楽しんだ。二人の他にも家族連れでお弁当を食べている人や、バーベキューをしている人もいる。今日はいい天気だから、外でのランチは最高においしかった。
「外で食べるの、気持ちいいねー」
「そうだな」
「食べたらどうする?」
「このまま行ったら神社あるだろ? あの辺、アヤしいと思うぞ」
「あー、あるね。なら行きますか」
そう答えながら、宮城は重いため息をつく。
「なんだよ?」
「んー、なんでもない。ちょっと思い出しため息」
「ふーん。悩みがあるなら聞くぜ?」
「……今はいい」
そうか、と斎藤はそれ以上の追及をやめた。年頃の女子の悩みである、男子がズケズケと聞いていいものではないだろう。
がふがふと食パン一斤をあっという間に食べ終えると、斎藤はゴロンと横になった。
「やべえ、眠い」
「気持ちいいもんね。なんならお昼寝する?」
「ここでか? 俺はともかく、お前はヤバイだろ」
「なんで?」
「お前、女だろうが。自覚ないのか?」
「ふーん、そこはちゃんと女の子扱いしてくれるんだ。それはどうも」
なんだか不機嫌そうである。女の子扱いされるのが不満なのだろうか?
しかし、である。
「あったり前だろう。お前めちゃくちゃ強いけど、けっこうカワイイんだぞ。自覚持てよ」
斎藤が再び素直な気持ちを述べ、長いあくびをしてから目を開けると、宮城が目を見開いて口をパクパクさせていた。
「ん、どうした?」
「あ、あんたはまたそういうことを平然と……ああもう、いい、気にしない。忘れて」
「気になるじゃねえか。言いたいことあるなら言えよ」
「もう黙れ……はあっ、ちょっとトイレ行ってくるから。ついでにゴミ捨ててくる」
「おう、悪いな」
気にしないで、と言い残して、宮城は駆けて行った。全速力である。そんなに慌てていたのかと驚き、斎藤は「ああ」とうなずいた。
「そっか、ずっと我慢してたのか。そっか、俺男だしな、言い出しにくかったか」
俺が腹を鳴らした時、きっとトイレに行きたいと思い切って言おうとしていたのだろう。そう思い至ると斎藤はスッキリした。そして同時に、己の配慮のなさを反省した。
午後は少し気をつけよう。
これで機嫌も治るだろう。そう考えて安心すると再び眠気がこみ上げてきた。
斎藤は「ふわあっ」と大あくびをし、宮城が帰ってくるまでちょっとだけ眠ることにした。