挙動不審編-その5
「さ、斎藤くん。放課後、ちょっと残っててくれない?」
HRが始まる直前、少々緊張した様子の宮城にそう言われ、斎藤は心臓が飛び出るほど驚いた。
用件を聞いたが「後で」と言われ教えてもらえなかった。HRが終わると、宮城は「ちょっと保健室に呼ばれてるから、待ってて」と出て行ってしまい、戻ってくるのを待つことになった。
そしてなぜか、今日に限ってクラスメイトは早々に引き上げ、教室には斎藤一人だけになった。
マジか、おいマジか!?
夢とほぼ同じ状況に、斎藤はアタフタした。「正夢なのか、あれ正夢なのか、いやまさか」と頭を抱え、悶々とすること十分ほど。
カラリ、と教室の扉が開き、宮城が戻ってきた。
「ご、ごめんね、待たせちゃって」
「い、いや、大丈夫だ。今日は特に用はないからな」
扉を閉めた宮城は、大きく深呼吸してから斎藤に近づいた。それを見て斎藤は慌てる。
「ま、待て宮城。近づくな! そこでストップだ!」
「……え?」
思わず席を立ちあがり叫んだ斎藤。宮城は眉をひそめ、首をかしげる。
「……なんでそばに行っちゃいけないの? 話しにくいんだけど」
「そ、その、最悪の事態を防ぐためだ!」
「最悪の事態?」
何を言っているのか、さっぱりわからない。
「最悪の事態って……なに?」
「い、いやそれはだな……その、なんだ……なんというか……」
斎藤の目が泳ぐ。そして時々視線が止まっては、またすぐに泳ぎ出す。
「斎藤くん……?」
なんとなく悪寒を感じ、スコン、と宮城の武道家スイッチが入った。
五感が研ぎ澄まされ、斎藤のあらゆる動きを捉え始める。そして、斎藤の視線がどこで止まっているのかに感づき、視線をそっと下に向けた。
小学生の女の子に「すごい武器」と言われた、胸。斎藤の視線がそこで止まっていると悟った時、宮城の全身がカァッと熱くなった。
「ど……どーも朝から、おかしいと思ってたんだけど……」
「み、宮城?」
「あ、あんた、私の胸ばっか見てたのかぁっ!」
いや確かにおんぶされたときに押し付けたけど。「すごい武器」とか言われて、ちょっとアピールしてやろうかな、て考えたりはしたけれど。
そんなにあからさまに見られたら、さすがにちょっと考えるものがあるじゃないか!
「す、スケベッ! あ、朝からずっと、エッチな目で見てたなっ! そういうことかぁっ!」
「い、いや、待て、待ってくれ! これにはやむを得ない事情があってだな!」
「はぁっ!? 女の胸をじろじろ見るやむを得ない事情ってなにっ!」
「そ、それは……言えねえ!」
「ふっざけんなーっ!」
ゴォッ、と宮城の闘気が爆発した。
「ひ、人が心配してたってのに、実は胸ばかり見てましたって……ああもう、あったまきた! ぜーったい理由聞かせてもらうからね!」
「う、うぉぉぉっ、待て、お前が本気出したらガチで死ぬっ!」
「やかましいっ! 死にたくなければ、素直に吐けぇっ!」
「す、素直に吐いたら、絶対殺されるんだよぉぉぉっ!」
「なんだとテメー! そりゃどういうことだぁぁぁぁっ! 吐けぇぇぇぇっ!」
斎藤の言葉に、宮城はついに阿修羅と化し。
思春期男子の煩悩をせん滅すべく、その力をふるうのであった。




