挙動不審編-その4
斎藤の奇行は、お昼になっても続いていた。
「わけわかんない」
それも、宮城が話しかけるとおかしなことになる。高田も含めた他のクラスメイトには今まで通り、しかし宮城が話しかけるととたんにギクシャクして、まるでロボットのようになるのだ。
「まあ、落ち込みなさんな」
昼休み、ショックを受けて落ち込む宮城を、高田は屋上へと誘い一緒にお昼を食べることにした。
「私、何かしたぁ?」
「さあねえ」
からかってやろうと思っていた高田だが、宮城がわりと本気で落ち込んでいるのでやめることにした。
「あるとすれば、木曜日のことで誰かにからかわれたとか?」
「いやいや、斎藤くんをからかえる人なんて、いないでしょ」
「だよねえ。そんな猛者、三組ならともかく一組にはいないね」
斎藤は「この地域一帯のボス」と噂されているヤンキーである。正面切ってからかえる生徒はほんの一部の猛者だけだ。
「じゃあ、なんで? なんでああなの? わかんないよー」
「えー……横から失礼」
涙ぐんで頭を抱えた宮城を見かねたのか、近くでお弁当を食べていたクラスメイトが声をかけてきた。
酒井智美、メガネがよく似合う知的美少女だ。
「斎藤くんのことでお悩みのようですが。ぶっちゃけ、あれだけわかりやすいの、悩む必要はないかと」
「酒井さん、理由わかるの?」
「まあ。本当は、宮城さんが自分で気づくのが一番ですが、どうやら気づきそうにないので」
酒井が「ふう」とため息をついた。なんだろう、哀れまれた気がする、と宮城は感じた。
「えーと……なんでなの?」
「簡単ですよ。斎藤くん、宮城さんを意識しているだけです。女の子としてね」
「……へ?」
宮城がキョトンとして見つめると、酒井と、酒井と一緒にお弁当を食べていた下田結衣、瀬戸美南が、うんうんとうなずいた。
「まあ、なんていうか……これまでの斎藤くんと宮城さんの、ほほえましーい関係は、見ていて大変心温まる光景でしたが、ぶっちゃけ『おまえら小学生か』と突っ込みまくっていた次第で」
「そうそう。ぶっちゃけ、『まだお友達なの? おねーちゃんもどかしい!』て感じだったよね」
「ぶっちゃけ、『せめて小学校は卒業してよ』て何回思ったことか」
ぶっちゃけるのが好きな三人である。
「あー、なるほど。斎藤くんの反応は、小学生男子の反応かあ」
酒井たちの言葉に、高田は大いに納得したようだ。
「そしてまあ……失礼ながら宮城さんも、小学生女子並の反応で悩んでるようで」
はうっ、と宮城はうめいた。恋愛事は小学生並……自覚はある。
「なので、宮城さん。ここは一気に決めるチャンスですよ」
「チ、チャンス?」
「そうです。おっとその前に一つ確認です」
酒井がクイッとメガネを直した。
「宮城さん、斎藤くんに恋してる、てことで間違いないですよね?」
「え……?」
高田を含む四人に、キラキラとした目で見つめられ、宮城は全身がカァッと熱くなった。
「い、いや、その、私は……」
「……もういい加減認めなさいよ。気づいてないの斎藤くんぐらいよ?」
「そうですよ。よし、では合図しますから、思い切って言っちゃってください」
「いくよー、宮城さんは、斎藤くんのことが好きですか?」
「さあ、イエス or はい、どっち!?」
それどっちも同じでしょー、と思いつつも、宮城はとうとう観念した。
「……イエス、です」
「「「おおーっ、やっぱりー!」」」
「ふぇっ、うぇぇぇぇっ!?」
気が付けば、宮城の周りにはクラスメイトのほぼ全員がいた。
「よしよし、そういうことなら一肌脱ごうかね」「ついに一組に公認カップルができそうですな」「いやー、バカップルになりそうな二人だなあ」「宮城さん、斎藤にはちょっともったいない」「いやいや、お似合いだって」「しかし戦闘力高いカップルだな」「少なくとも校内は無敵だな」
「な、なに、なにごと、なんでっ!?」
「はいはい、落ち着いて。ここまで来たら腹くくって」
パニックになりかけた宮城を高田がなだめ、そのままクラスメイトの輪の中に押し出した。
「一組が全面的にバックアップするからね。思い切ってアタックしよう!」
「そして平和にバカップルしてくれ!」
「よぉし、作戦会議開くぞー!」
「「「おおーっ!」」」
こうして外堀を埋められた宮城は、放課後に斎藤を呼び出すことになった。




