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挙動不審編-その3

 「どわあっ!」


 斎藤は、絶叫とともに飛び起きた。


 「な……なんだ、なんだ今のナマナマしい夢は……」


 フルカラー8Kの高解像度映像にして5.1チャンネルを超えるリアルなサウンドだった。残念ながら宮城の裸は見損ねたが、抱きつかれた温もりや感触は、先週木曜日の夕方に背負った感触を見事に再現していた。

 まさにフルダイブ型VRの世界。ようこそ新世界、最新技術万歳、と叫びたい。


 「いや、そうじゃねえ! がぁーっ、俺はなんちゅー夢を見てんだ!」


 とにかく顔を洗ってさっぱりしよう。斎藤はベッドから降りると、着替えを手に洗面所へと向かった。


   ◇   ◇   ◇


 衝撃的な夢の内容にショックを受けていたのだろう、斎藤は弟に「兄ちゃん大丈夫?」と何回も聞かれながら朝食を済ませた。弟を送り出すと自身も学校へと向かったが、その足取りもふわふわとしたものである。


 どうしたものか。


 斎藤は上の空で歩き続けた。起きて一時間もすれば大抵の内容は忘れてしまう、それが夢なのに、今朝の夢はいまだにはっきりと思い返すことができた。

 このままではまずい。

 なぜなら、まもなく、ご本人様と合流するからだ。


 「ど……どんな顔すればいいんだ?」


 と悩んでいる間に、宮城の姿を発見した。


 「あ……お、おはよ、斎藤くん」

 「お……おう……オハヨ」


 なんだかぎこちない様子の宮城に、斎藤もまたぎこちない挨拶を返した。

 斎藤の心臓がドキンと跳ねた。

 宮城の顔が直視できない。夢の中の、あの妖しい感じの宮城が重なり、斎藤の頬が火照っていく。


 「え……えーと……どうかした?」


 そんな斎藤の雰囲気に宮城も困惑し、首をかしげる。


 「い、いや……その、なんだ。体、もういいのか?」


 首を傾げた宮城を見下ろしながら、斎藤はごくりと息を飲む。

 視線は自然と、宮城の顔の下、男にはない柔らかな膨らみへと落ちていく。


 「うん、もう平気。この前はホントありがとね」

 「い、いや、大したことしてないからな。うん、気にするな」

 「またちゃんと、お礼させてね」


 お礼、と言われて、斎藤の頭の中で夢の内容が高速リプレイされた。


 「あ……い、いや、いい、いいから! お礼なんていいから!」

 「そういうわけにはいかないって。その……何か、してほしいこととか、ある?」

 「し、してほしいこと!?」


 素っ頓狂な声をあげ、思わず視線で宮城の胸をロックオンした斎藤。だが、大慌てで首を振ってよこしまな考えを追い払った。


 「い、いや、ない! 断じてない! お前が元気に学校へ通っている、それが俺にとって最高のお礼だ!」

 「は、はあ……」


 さすがに宮城も、斎藤がおかしいことに気づいた。何かやってしまっただろうか、と思ったものの、まるで心当たりがない。


 「えーと……なにかあった、斎藤くん?」

 「ない、ないぞぉ! 俺には何もないぞぉ!」

 「いやいや、めっちゃ怪しいんですけど」

 「妖しい!?」


 またもや声を上げ、謎の反応を示す斎藤。こんな奇妙な斎藤を見たのは初めてで、宮城はさっぱりわけがわからない。


 「ほんっとに、大丈夫?」

 「大丈夫だ、俺は大丈夫だ!」

 「とてもそうは見えないけど?」

 「気のせいだ!」

 「うそ! なんかおかしい!」

 「おかしくない! そしておかしいとしても、お前には関係ない!」


 斎藤の言葉に、宮城はカチンときた。


 「お、お前には関係ないって……心配してるのに!」

 「いや、それはだな、俺の個人的な問題であって、宮城に言ってどうこうできる話ではないという意味で……」

 「やっぱ何か隠してる! 何なの! 言ってみてよ、手伝えるかもしれないでしょ!」

 「隠してない、隠してないぞぉ! そして隠していたとしても、言えないから隠しているのだ!」

 「あーもー、わけわかんない!」


 学校へと急ぐ多くの生徒が「何やってるんだろ」という目で二人を見ながら通り過ぎていく。中には同じクラスの生徒もいるが、足を止める者はいない。なにせ始業まであと十分、こんなところで立ち止まってケンカなんかしていたら、間違いなく遅刻だ。

 だが一人だけ、そんな二人に声をかけた生徒がいた。


 「何してんのあんたら。さっさと行かないと遅刻するよ?」


 黒髪ロングのザ・美少女、高田沙奈江だった。


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