女の子編-その5
その夜、斎藤が部屋で宿題をしていると弟がやってきた。
「お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「えーとね、お兄ちゃんに、男として聞きたいことがあるんだけど」
「え、俺に? 男として?」
男として。
なんという美しい響き。弟と男同士の話ができる日が早くもきたのか、と斎藤は感涙にむせびそうになった。しかし、正座して真剣な表情の弟を見て気を引き締め直し、背筋を伸ばして弟の前に正座した。
「おう、なんでも答えてやるぞ!」
「ありがとう」
「で、何が聞きたいんだ?」
「ええと……その、お兄ちゃんは、今日、宮城さんをおんぶして帰ったんだよね?」
「ああ、そうだけど?」
弟の友達、蘭という女の子の母親から連絡があり、驚いて駆けつけると宮城がベンチにへたり込んでいた。あんな弱々しい宮城を見たのは初めてだった。事前に蘭の母親から「生理痛がひどいらしい」と聞いていなかったら、重病だと勘違いして救急車を呼んでしまったかもしれない。
しかし、それがどうしたのだろうか?
「それで、えーと……」
なにやら聞きにくそうにしている弟。一体何を聞こうと言うのだろうか?
「うーん……よし、単刀直入に聞くね」
「おう、いいぞ」
「その……背中の感触は、どうだった?」
「は?」
背中の感触? 弟が何を聞こうとしているか理解できず、斎藤は首を傾げた。
「その……だからね」
「おう?」
「宮城さんって……胸、大きいよね?」
「……おおう?」
斎藤は衝撃のあまり、頭が真っ白になった。
胸? 宮城の? 大きい? おんぶ? 背中の感触? それってつまり?
斎藤が呆然とした顔で弟を見ると、弟は「えへへー」と顔を真っ赤にして、照れ臭そうに笑った。
「その宮城さんをおんぶしてたってことは、ずっと背中に当たってた、てことだよね? ほら、僕だって男だから……その、どんな感じだったのかなー、て、ちょっと気になって……」
「り、り、亮二ーっ!」
「うわっ!」
思わず上げた声に、弟は顔をしかめて耳を塞いだ。
「お、お前なあ、そういうことは!」
「え、お兄ちゃんは興味ないの?」
兄としてビシッと言わねば、と斎藤が口を開きかけたところで、弟が食い気味に聞き返してきた。その真剣な表情にまたもや驚かされ、斎藤は言葉を飲み込んだ。
「お兄ちゃん高校生だよね? 男だよね? 女の子に興味ないの? あ、お兄ちゃんは男の人の方がいいの? ま、それはそれでアリだとは思うけど」
「い、いや……女の子には興味あるぞ?」
「だよね。よかったー。それで確認だけど、宮城さん、女の子だよね?」
「お、おう……そうだな」
「けっこうかわいいよね、宮城さん」
「ま、まあ……そうだな」
「そんな女の子おんぶして、なーんにも思わなかったの? それって宮城さんに失礼じゃない?」
「お……おう?」
え、失礼なのか? そうなのか? と目をパチクリさせる斎藤。そんな斎藤に弟がトドメと言わんばかりに言葉を続ける。
「ぼ、僕なら、その、ちょっとはエッチなこと……考えちゃうな。それが普通だと思う」
「あ、いや、その……」
「それでお兄ちゃん。改めて男として聞きます」
弟が、こほん、と咳払いをして背筋を伸ばす。
「宮城さんをおんぶしてた時の、背中の感触、どうだった?」




