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女の子編-その4

 「宮城のおねーちゃん、またねー!」


 三十分ほどの「特別講義」の後、蘭は「塾があるから」と家に帰った。宮城は手を振って見送り、蘭が見えなくなると大きくため息をついた。


 「……小学生に恋愛相談って」


 好きだの告白だのといった話だけならまだしも、女の色香の使い方までレクチャーされてしまい、さすがに少々情けなくなった。これではだめだ。これからは女らしい振る舞いについても真面目に勉強するとしよう、と宮城は固く決心した。


 「……にしても」


 宮城は痛むお腹をさすり、ため息をついた。蘭と話しているときは気が紛れていたが、やはりお腹はまだ痛い。だがもう五時過ぎだ。いつまでもベンチで座っているわけにもいかない。

 なんとかがんばって帰るか、と立ち上がったものの、すぐにクラッときた。


 「あー、だめだこれ」


 再びベンチに座り込んだ宮城は、スマホを取り出し家に電話をかけた。だが、まだ帰っていないのか誰も出ない。母親のスマホにかけてみたが、即座に切られた。きっと会議中なのだろう。


 まいった。


 宮城は空を見上げてため息をついた。

 ケチらずにタクシーで帰れば良かった。変な意地張らず高田と一緒に帰れば良かった。なんだか最近調子が狂ってばかりだなあ、と思いながら、もう一度ため息をついて目を閉じた。

 そうして、眠気に負けてまた眠ってしまいそうになったとき。


 「おい、大丈夫か?」


 聞き慣れた男の子の声が降ってきた。


 「え?」


 驚いて目を開けると、ガイコツみたいな顔をした男が宮城の顔をのぞき込んでいた。


 「さ、斎藤くん!? なんでいるの!?」

 「いやあ、蘭ちゃんママから、お前が公園でヘタれてる、て連絡があってよ」


 家に帰った蘭が母親に宮城のことを伝えたらしく、蘭の母親から斎藤へ連絡があったらしい。


 「斎藤くん、ママ友がいるわけ?」

 「おー、亮二がよく家に友達連れてくるからよ。自然とな」


 聞けば小学校の学校行事にもよく顔を出しており、貴重な男手として活躍しているらしい。


 「……斎藤くんの弟への愛は、どれだけ深いの?」

 「日本海溝とタメ張れるぜ!」


 ドヤ顔で言い切る斎藤。高校生男子のドヤ顔の理由がそれっていいのか、と宮城は思ったが、もう何も言わないことにした。


 「お前、昼休みからいなくなってたから、どうしたのかとは思ってたんだけどよ」

 「心配してくれてたんだ」

 「あったりめーだろ。大切なクラスメイトなんだしな」


 大切なクラスメイト。微妙なところだが、気にしてくれていたと言うのは少し……いや、かなりうれしかった。

 そして、こうして駆けつけてくれたことも。

 蘭が帰ってからまだ十分ぐらいだ。きっと、連絡を受けてすぐ駆けつけてくれたのだろう。好きな男の子が自分のために駆けつけてくれた。そんなの、うれしくないわけがない。


 「……ありがと」

 「おう、気にするな。俺とお前の仲じゃねえか!」


 斎藤はそう言うと、宮城の前にしゃがみ込んだ。


 「……え? なに?」

 「歩けないんだろ? おんぶしてやるって」

 「は……はぁっ!?」


 いやいや歩けるって。無理だろ。いや大丈夫だから。という押し問答を繰り広げること一分少々。

 大丈夫だからと歩き出した宮城だが、数歩歩いただけでフラついてしまい、観念して斎藤におんぶされることになった。


 「まったく、無理しやがって」

 「……ごめん」

 「意地をはるのは、元気な時だけにしろよ」

 「うん……そうする」


 初めて触れた斎藤の体は、ひょろっとしているくせに結構がっしりしていた。そんな斎藤の背中にきゅっとつかまりながら目を閉じると、宮城はホッとして泣きそうな気分になった。


 「高田にも連絡しとけよ。心配してたぞ」

 「うん、ごめん……ほんとごめん」

 「いや俺はいいけどよ」

 「……私、重くない?」

 「軽いもんだ。落ちないようにしっかり捕まってろよ」

 「……うん」


 お許しが出たので、宮城はさらに強く斎藤にしがみついた。


 トクントクン、と心臓が脈打っている。


 恥ずかしくて嬉しくて、いつもより強く早く打っている。そんな鼓動に気づいてくれればいいのに、と宮城は思う。

 だけどこいつは気づいてくれない。

 言葉にして、面と向かって言わないと、こいつは絶対気づいてくれない。なんでこんなめんどくさい奴、好きになってしまったのだろう。


 「斎藤くん……好きだよ」


 斎藤の背中の上で、宮城は小さな小さな声でつぶやいてみた。


 今は聞こえなくていい。

 だけど絶対、ちゃんと言おう。


 宮城はそう決意して、斎藤の背中にしっかりとしがみついた。


 「お、おい、苦しい、首締まる!」

 「ん……ごめん」

 「だぁーもう、かんべんしてくれよな」


 斎藤がケラケラと笑う。その笑い声を聞くとお腹の痛みがどこかに飛んで行ってしまった。


 だから、ちょっとだけ勇気が出た。

 告白はまだしないけど。

 とりあえず、蘭が教えてくれた「すごい武器」を、斎藤の体に押し付けてみることにした。


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