女の子編-その3
弱々しい笑顔を浮かべる宮城を見て蘭はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「ねえねえ宮城のおねーちゃん、聞いてもいい?」
「……なに?」
「宮城のおねーちゃん……ガイコツにーちゃんのこと、好きなんだよね?」
一瞬だけ迷った宮城だが、蘭の言葉に素直にうなずいた。
「やっぱりー。いつから好きなの?」
「……去年の夏休み」
「わ、もうじき一年だ。コクハクしないの?」
「それは……」
「ガイコツにーちゃんは亮二くん命だから、ちゃんと言わないとわかってくれないよ?」
斎藤の弟への重い愛は小学生にまで浸透しているらしい。ある意味たいした奴である。
「うん、そうだね。斎藤くんは……鈍いしね。でも、どうしようかな、て」
「なんで?」
「……怖いの」
「え?」
「女の子扱いしてもらえない気がして、怖いの」
思わず正直に答えて、宮城は笑いたくなった。小学生相手に何マジレスしてんだか、である。
だがそんな宮城に、蘭は真剣な表情で答えてくれた。
「宮城のおねーちゃんは、とってもかわいいよ?」
「そんなこと言われたの初めてだよ」
中学二年生までは、本当に男の子と変わらない見た目だった。むしろそうあろうとしていたから当然だ。自分はどうして女に生まれたのか、男ならよかったのに、と何度思ったことだろう。
そんな自分だったのに、男の子相手に初めて恋をした。結果は無残なものだったが、それ以来、男ならよかったのに、とは思わなくなった。
「お世辞でも嬉しいよ。ありがと」
「お世辞じゃないのにー」
蘭は、ぷう、と頬を膨らませた。そして、ぴょん、とベンチから立ち上がると、ふわふわの髪を束ねている水色のリボンをほどいた。
「じっとしててね?」
蘭はポシェットから小さな櫛を取り出すと、宮城の髪を梳いた。それから宮城の髪を編み、先ほどほどいた水色のリボンで結んだ。
「ほら、かわいい!」
蘭が差し出した小さな鏡を見て、宮城は驚いた。
確かに、かわいくなっていた。
髪型とリボンだけでこうも変わるのか、と自分でも驚いた。いやこれは蘭のセンスゆえか。自分でやったらこうはならないだろう。
「すごい……上手だね」
「えー、これぐらい女の子の基本だよ?」
うぐ、と言葉を詰まらせた宮城を見て、蘭はクスクスと笑った。
「宮城のおねーちゃんは、とってもかわいいよ。自信持って!」
「でも……」
「でもじゃないの。自分のかわいさに自信を持つのは、女の子の基本中の基本!」
「はあ……」
「大丈夫、宮城のおねーちゃん、素材はいいから。基本をちょっと身につけたら、ガイコツにーちゃんなんてイチコロだよ!」
「イチコロって……」
「ガイコツにーちゃんは女の子にモテないでしょ? だから、ちょっとおしゃれして迫っちゃえば、すぐ宮城のおねーちゃんのこと意識しちゃうって」
あんたは本当に小学生か? と突っ込みたいのを、宮城はかろうじて我慢した。
「それに、宮城のおねーちゃんは、すごい武器を持ってるし」
「武器?」
首を傾げた宮城に、蘭は楽しそうに笑いながら、そっと耳打ちした。
「ム・ネ」
「……は?」
「宮城のおねーちゃんは、うーんと……Dカップでしょ?」
「な、な、なんでわかるの!?」
「男の子は、女の子の胸って、すごーく気になるんだって。だから……思いっきりアピールしたら、一発だよ!」
「う、うえぇぇっ!? アピールって……ええっ!?」
たちまち顔を赤くした宮城を見て、蘭は「おねーちゃん、かーわいい」とまたクスクス笑った。




