女の子編-その2
「宮城のおねーちゃん」
優しく肩を叩かれて、宮城ははっと目を覚ました。
顔を上げると、小学生の女の子が心配そうに宮城の顔をのぞき込んでいた。色白で少しタレた黒目がちの目、水色のリボンで束ねたふわっとした長い髪、清楚なデザインのワンピース姿で、白いポシェットを斜めがけ。
はっきり言おう、高田沙奈江なんぞ目ではない、真の美少女がそこにいた。
「だいじょうぶ?」
「え、ええと、あなた確か……」
つい先日、高田とともに下校中、たまたま斎藤の弟、亮二に会ったことがある。そのとき斎藤の弟と一緒に公園で遊んでいた女の子のうちの一人だった。
「蘭ちゃん、よね?」
「あー、覚えててくれたんだー。うれしーい」
こんな美少女、忘れる方が難しいでしょ、と宮城は思う。確かまだ小学四年生のはずだが、嬉しそうな顔には女らしい色気のようなものすら感じる。この子と亮二が並ぶと、まさに王子様とお姫様なのだ。
「こんなところで寝てたら、危ないよ?」
「あー、うん、ごめん、ちょっとしんどくて」
蘭は「ふーん」と少し考えると、宮城の隣に座り、内緒話をするように耳打ちした。
「宮城おねーちゃん、女の子の日?」
「あ、うん……まあ、そうだけど。よくわかったね」
「うん。おねーちゃんと同じだな、と思ったから」
蘭には五つ年上の姉がいて、毎月しんどそうにしているのだと言う。
「おねーちゃん、痛くて学校休んだりするの。とってもしんどいんだって。私もそうなっちゃうのかな?」
「あー、どうだろうね。人によって違うみたいだし」
そして突然痛くなったりもするし、と宮城は心の中でだけ付け加えた。
「しんどいなら、私の家に来る?」
「いや、それはちょっとね」
宮城と蘭は亮二を介した知り合いではあるが、蘭の保護者にしてみれば見知らぬ女子高生である。さすがにお邪魔する気にはなれなかった。
「でも、ここで寝てたら危ないよ?」
「あー、うん、そうね。薬のせいでちょっと眠くて。でも大丈夫だよ」
「えー、だいじょうぶじゃないよぉ。宮城のおねーちゃん、女の子だもん」
「……ありがと」
これだけの美少女に女の子扱いしてもらえると、嬉しいものである。
「でも大丈夫、私、これでも結構強いんだよ」
「うん、知ってる。ガイコツにーちゃんが自慢してたもん」
ガイコツにーちゃん。斎藤は弟の友達である小学生ズにそう呼ばれている。改めて聞くとすごい呼ばれ方だ。
「同じクラスに宮城って女の子がいて、とっても強いんだぞ、すげー友達なんだぞ、てよく言ってるの。だから、この前会えたのうれしかったんだー」
「そっか……」
自慢の友達かあ、と宮城はため息をついた。話題にしてくれているのは嬉しいが、斎藤にとっては男友達と変わらぬカテゴリらしい。
じわっ、と宮城の目頭が熱くなった。
いまだ友達扱いというのはグサッと来た。暑さと生理痛と貧血で弱っているからか、いつものように「コノヤロウ」とふてくされる気力も出ない。
「おねーちゃん?」
いきなり涙ぐんだからだろう、蘭が心配そうに宮城の顔をのぞき込んだ。
「ん、なんでもない。ごめんね」
宮城は慌てて涙をぬぐい、へらへらと力なく笑った。




