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女の子編-その1

 宮城早苗みやぎさなえ、十七歳、女、中間テストは赤点一個、は下駄箱で靴に履き替えると、憂鬱な気持ちで学校を後にした。


 「……しんど」


 六月に入ると急に蒸し暑くなり、暑さが苦手な宮城は少々バテ気味だった。加えて今日は四時限目の途中からお腹が痛くなり、お昼休みが終わる頃には保健室に駆け込んで午後の授業を丸々欠席してしまった。

 原因は生理痛。いわゆる「女の子の日」というやつだ。


 「あーもー、なんでかなー」


 宮城はこれまで生理痛はあまりなかった。だから最初は何か悪いものでも食べたのかと思ったが、下痢はしていない。ならカゼでも引いたかと思ったが、それらしい症状もない。保健室の先生に「生理痛ね」と言われ、「それがあったか」と驚いてしまったぐらいだ。


 「まあ、十代は色々不安定だからね。そういうこともあるよ」


 早退してもいいと言われたが、起き上がるのも億劫だった。迎えに来てもらおうにも今日は家に誰もいない。「タクシー呼ぼうか?」と言われたが、変に目立つのが嫌だったし、歩けば十五分のところをタクシーで帰るなんてもったいなくて嫌だった。

 とりえあず痛み止めをもらって飲んだが、あまり効かなかった。

 五時間目の後の休憩時間に、同じクラスの高田沙奈江たかださなえ、まだ十六歳、女、中間テストはぎりぎり赤点回避、が荷物を持って来てくれ、「しんどいなら一緒に帰るから放課後まで待ってなさい」と言ってくれた。しかし、今や恋のライバルとなりつつある高田と帰るのはなんとなくシャクで、さっさと下校してしまった。


 あー、これまずいかな。


 朝、あんぱんと牛乳の朝食を食べたきりのせいか、空腹でフラフラしてきた。貧血もあるのかもしれない。つまんない意地張らず高田さんと帰ればよかった、と後悔したが、後の祭りである。

 早く帰ろう、と急ぎ足になったのもマズかったのかもしれない。

 学校と家のほぼ中間、大きな広場と遊具のある公園まできたとき、宮城はブラックアウトしかけ、慌てて公園のベンチに腰を下ろした。


 「あちゃー……空か」


 喉が渇いたからお茶を飲もうと水筒を取り出したが、もうとっくに空だった。少し離れたところに自販機が見えるが、立って買いに行くのもしんどい。


 「まいった」


 薬のせいだろう、痛みは引かないくせに、やたらと眠い。

 同じクラスの斎藤和一さいとうかずいち、十七歳、男、中間テストは余裕の平均越え、のように物心ついてから一度もカゼをひいていない、とまではいかないが、宮城も体は丈夫な方だ。薬なんか滅多に飲まないから効きがいいのだろう。

 眠気に勝てず、宮城は目を閉じた。このまま寝てしまったら五分や十分では起きないような気がする。さすがにここで寝るのはマズイと思うのだが、眠気に勝てそうにない。


 そういえば。


 うつらうつらとしながら、宮城は半月ほど前のことを思い出す。

 迷い犬を探している途中、土手で昼寝しようかと言った宮城に、斎藤はこう言ってくれたのだ。


 「お前めちゃくちゃ強いけど、けっこうカワイイんだぞ。自覚持てよ」


 全くあの無自覚やろうが、と腹が立ったら、少しだけ痛みが紛れた。


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