王子様編-その4
「「「「「はうぅぅ……」」」」」
男の子の顔を見て、女の子たちがうっとりとした声を上げた。泣いていた女の子すら涙を止め、頰を赤く染めて男の子をうっとりと見つめている。
「な、なにこの……絶世の美少年……」
高田がぽかんと口を開け、呆然とつぶやいた。そんな高田の声が聞こえたのだろう、男の子はベンチに座り直して高田を見上げ、極上の笑みで「ありがとうございます」と頭を下げた。
「お姉さんみたいに綺麗な人に褒めてもらえるなんて、とても光栄です」
「い、いえっ、その……」
男の子が放つオーラにあてられてどもる高田を、十三人の女の子が憎々しげに見つめる。高田はその視線に気づき、慌てて「客観的評価、客観的評価よ! それだけだから!」と必死で言い訳をしていた。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。僕が体が弱いものですから、みんなが心配してしまって」
男の子はベンチから降りて立ち上がると、調子を確かめるように体を動かした。どこにも痛むところはないようで、「よし」とうなずくと泣いている女の子に笑いかけた。
「ほら、平気だよ。だからもう泣かないでね」
「で、でも……」
ボールをぶつけてしまった女の子は、ホッとしながらもまた泣きそうになった。そんな女の子に男の子は歩み寄り、グローブの上から女の子の手を握る。
「ねえ、今度キャッチボール、教えてよ」
「え?」
「飛んできたボールに気づいてたのに取れないなんて、男の子としては情けなくて。次はちゃんとボールを取れるようにしたいから、キャッチボール教えて」
「う……うん……」
「ごめんね、僕が下手くそだから、心配かけちゃったね」
「ち、違うの、亮二くんは悪くないの! 私がちゃんと周りを見てたら……」
「うん、そうだね、今度はもっと広いところで、一緒に練習しようね」
「うわあ」と宮城は目を丸くした。
「うまいわあ」と高田が唸った。
ボールをぶつけた女の子を責めず、さりげなく悪いのは自分だとした上で、女の子にも反省を促しひいきした印象は与えない。そして女の子が仲間外れにされないよう、一緒に練習しようと約束する。
これを小学生男子が、ごく自然にやってのけるとは。一体何者なのか?
「ん? リョウジ?」
不意に、宮城は女の子が「リョウジ」と呼んだことに気づいた。
どこかで聞いた名である。はてどこで、と数秒考え、「あっ!」と声を上げた。
「さ……斎藤くんの、弟!?」
写真と動画を見せられた事はあるが、実物ははるかにオーラがすごくて気づかなかった。
声を上げた宮城を、小学生ズが一斉に見た。あ、やばい、と口を押さえたが、そんな宮城を見た男の子が、「ああ」と納得したような顔になり、ゆっくりと宮城に近づいてきた。
「こんにちは。宮城さんですか?」
「え? あ、はい」
なんで名前を知っているのだろうと疑問に思ったが、すぐにそれどころではないことに気づいた。
「誰?」「誰なの?」「なんなのあの女?」という女の子たちの強い視線が宮城に集中し、その視線だけで刺し殺されそうである。これは怖い。高田が慌てて言い訳したのも納得だ。
ちなみにその高田は宮城と距離を取り、「私は関係ない」とアピールしていた。
「兄ちゃんがお世話になってます。僕、弟の斎藤亮二です」
キラキラとした笑顔で自己紹介すると、振り返って嫉妬の視線を向けてくる女の子たちにとんでもないことを言い放った。
「みんな、この人、兄ちゃんの彼女だよ」




