王子様編-その3
高田が、宮城早苗をからかいつつ家路を歩くこと、およそ十分。
「ん?」
通りがかった公園で、児童十数名がなにやら騒いでいた。
一見、遊んでいるように見えるが、どうにも雰囲気がおかしい。そう言って宮城が立ち止まるので、高田もやむなく立ち止まった。
宮城は表情を引き締め、真剣な顔で様子を伺う。
「ちょっといいかな?」
「おっけー」
何か事故が起こっているようだと高田も感じ、宮城に続いて公園に足を踏み入れた。
騒ぎの中心は手洗い場近くにあるベンチ。顔にタオルをかけた男の子がランドセルを枕に横になっており、すぐそばにグローブを持った女の子が泣きべそをかきながら立っていた。
「どうかしたの?」
宮城が声をかけると、子供たちが一斉に振り向いた。全部で十四人。全員が小学生のようで、ベンチで寝ている男の子以外は女の子だった。
「あ、あの、私が投げたボールが当たっちゃって……それで……」
泣きべそをかいていた女の子が、唇を震わせながら説明してくれた。なるほど、それで泣いていたのか、と宮城は女の子を刺激しないよう、なるべく優しい声をかけた。
「どこに当たったの?」
「あ、頭……」
「どんなボール?」
「こ、これ……私、思い切り投げちゃって……それで、それで……」
宮城はボールを見て「ふむ」と安堵した。軟式ボールで空気もかなり抜けている。頭と聞いて心配したが、これなら大したケガはしていないだろう。
というか、これが当たったところで倒れるようなことはないはず。投げた女の子は高学年のようだが、それでも小学生女子が投げる球なら大した衝撃はないだろう。
「君、大丈夫?」
宮城が首を傾げていると、高田がベンチで寝ている男の子に声をかけた。
「ええと……すいません、全然平気なんですけど……」
「起きれる?」
「はい」
高田の呼びかけに、男の子はしっかりした声で返事をし、顔のタオルを取って起き上がろうとした。
その瞬間。
「「「「「だめーっ!」」」」」
彼を取り囲む女の子が一斉に声を上げた。
「無理しちゃダメ!」
「そうだよ、何かあったらどうするの!」
「もう少し様子見て!」
「そうだよ、頭なんだから!」
「体が弱いんだから! 無理は絶対ダメ!」
女の子たちが口々に男の子の体調を気遣い、起き上がろうとした男の子を再び寝かせようとする。
「あはは……まいったなあ……でも、もうだいぶ時間たってるし」
しかし男の子は困ったように笑うと、女の子たちの制止をやんわりと断って体を起こした。
「そろそろ帰らないと、みんなの家族が心配しちゃうよ」
ぱさり、と顔にかかっていたタオルが落ち、男の子の顔があらわになると。
キラキラとした光が放たれた……ような気がした。




