王子様編-その2
「普通さあ」
高田は不満に満ちた声でつぶやいた。
「私みたいな美少女に誘われたら、ホイホイついてくるのが男子高校生じゃない?」
「自分で言うか」
呆れた声で答えたのは宮城である。しかし宮城も、高田が美少女であることは否定できない。
結局、斎藤は高田の頼みを断った。
理由は「弟と約束がある」とのことである。高田には想定外の回答だったのだろう、「ではさらばだ!」と斎藤が大急ぎで帰宅していくのを見送った後、ぶつぶつと文句を言い続けていた。
「斎藤くんの人生は、弟くんを中心に回ってるからね」
「なに、宮城さんも弟くんが理由でふられたわけ?」
「ふられてない」
「ふーん」
なにやら言いたげな目で宮城を見る高田。身長155 vs 170、どうしても宮城は高田を見上げる形になってしまう。
「なに?」
「ふられてはいないけど、告ってもいない、かなあ、と」
ぐぬぬ、と唸る宮城を見て、高田はくすっと笑った。
「ま、いいか。女同士、ここは腹を割って話そうか」
「なにを?」
「恋バナ」
高田がニンマリと笑うと、宮城はうっと声を詰まらせた。
「家まで護衛、よろしくね」
「な、なんで私が……」
「あっれー、私も連れてけ、てさっき言ってたよね? ご招待させていただきますとも、ぜひどうぞ」
くぅっ、しまった、と歯噛みする宮城。
そんな宮城を見てまた笑うと、高田はその手を取り歩き出した。
「ちょっと、手、離してよ!」
「逃げないなら離す」
「あーもー、わかった、わかったから! 護衛させていただきます!」
「うん、よろしくね」
「だから、手、離して!」
「えー、じゃ、質問に答えてくれたら離してあげる」
「逃げないなら離す、て言ってたでしょ!?」
「気が変わった」
あんたねえ、と宮城は口を尖らせたが、高田は気にせず手を繋いだまま歩き続けた。
「あーもー……なに、質問って」
「宮城さん、いつ斎藤くんに惚れちゃったの?」
「……なんのこと?」
「私はこの前、情熱的に抱き締めてもらったときかなー」
「あ、あれは、そういうんじゃないでしょっ!?」
「あんな風に男の人にギューッて抱き締められたことってなかったから、ちょっとドキドキしちゃった。ひょろっとしたイメージだったけど、結構体つきがっしりしてたんだよね」
「ねえ、人の話聞いてる?」
「宮城さんもそう言う感じ? ギュッてされて意識しちゃった?」
「ち・が・う!」
「じゃ、何がきっかけ?」
「わ、私は、去年の夏休みに……」
と言いかけて、ハッとなる宮城。
「な、な、なに言わせるの!」
「うーん、おしい、もうちょいだったのに」
「ないからね、私、斎藤くんと、そういうんじゃないからね!」
「うそつけ。ベタ惚れでしょ?」
「ち・が・う!」
「じゃあ私が付き合ってもいいんだね? 応援してくれる?」
高田の問いに絶句する宮城。なんだかちょっぴり涙ぐんでいるのは気のせいだろうか。
そんな宮城を見て、高田はくすくす笑った。
「宮城さんってさあ」
「……何よ」
「思ってた以上に、カワイイ女の子なんだね」
絶句していた宮城が目をパチクリさせ、顔を真っ赤にして目を泳がせる。
その顔を見た高田は、「ああもう」と思う。
その顔で告白したら、一発で斎藤くんは落ちるでしょうに、と。




