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『酔狂』  作者: S
1/2

第一部 第一篇 「ある新聞記者の手記」

これは私がある名家の晩餐会で出会った紳士に聞いた話である。訳があり口を大にして語ることはできないが、時の流れに委ね埋めてしまうにはあまりに勿体無い話であるのでここに記したい。

《晩餐会》

 クリスマスイヴのその日、ある名家で祝賀会が開かれた。新聞記者である私がこのような場所にいるのは場違いのようで落ち着いていられないものの、華やかな会場の雰囲気は私の心を高揚させるに十分なものであった。

ただ、私の隣に立っている三十代くらいの紳士は私の心とは対照的なくらいに表情を暗くさせていた。


 パーティーの中盤になり、照明が落ちたかと思えば舞台に光が集った。壇上で挨拶を行っているのこの祝賀会の主催者であるは名家のご主人だ。

 ‎「紳士淑女のみなさん。メリークリスマス。本日は我家の祝賀会にお集まりいただきありがとうございます。皆さんの力強いご支援のお陰で我が息子たちも立派に成長し…」

 ‎ 流石この国では国王家の次に権威を持ち最も勢いがあるとされる家だけにその声も太太しく老いた身といえども威厳に溢れた姿であった。ご主人の紹介されたご子息のお二人は、国の要職に就かれたという。正に何もかも恵まれた名家である。


 ーあの家にはもう一人、息子がいたんだよー


声の主に目を向けるとそれは例の紳士であった。


《出会い》

 雑踏の中に僅かな静寂が生まれた。例の紳士に目を合わせるや彼は静かに口を開きこう述べた。

 ‎

 ‎「いきなり失礼致しました。先程のお話…、宜しければお話致しましょうか。」


 この国で最も権威ある名家に隠し子がいるのかもしれない。こんなネタ聞ける機会滅多にない。私にとっては願ったり叶ったりだった。

 ‎彼は私の二つ返事を聞くと不敵な笑みを含ませ、私の手に紙を添えながらこう述べた。

 ‎

 ‎「ここではひと目が多すぎますね。ひとまず後日私の屋敷においで下さい。お待ちしております。」


 そう言って彼は会場を後にした。私はふと我に返ったようにその紙を誰にも見られぬように鞄の中にしまい、家に帰った。

 ‎

《訪問》

 私は次の日、仕事終わりにそのまま彼の屋敷に足を運んだ。その日はひどい雨であったがそんなことは気にもならなかった。

 ‎着いた屋敷は中々立派な建物であった。私は戸を叩き、緊張のあまり裏返った声で名乗った。

 ‎しばらくすると、家政婦であろう若い女性が静かに戸を開けた。

 ‎

 ‎「お待ちしておりました。ご主人様は二階の書斎においでにございます。どうぞお上がり下さい。」


 私は言われるままに屋敷の中に入った。中のインテリアは中々洒落てはいるものの、あの名家の屋敷とは違い何とも言えない静寂さが支配した空間であった。

 ‎書斎に入ると、彼は窓を見ていた。私が声をかけようか思案していると彼はゆっくりとこちらを向きながらこう述べた。


 「本当にお越しくださったのですね。ありがとうございます。どうぞお掛けください。

 ‎今から昨日の祝賀会で溢したこと、全てお話致します。華やかなあの家によって消されてしまった悲しい我が友の話を。」

 ‎ 

 ‎私は興奮を抑えきれなかった。もう既に手にはペンと手帳を用意していたのだ。しかし、彼に私の思惑は全て見透かされていた。


 「このお話は決して記事にはしないでいただきたい。また絶対に口外もしていただかないでいただきたい。」


 私は今更このような条件を突きつけてくるこの紳士に内心腹を立てながらも、ここまで来てしまったからには聞いてみるしかないと思い、渋々首を縦に降った。

 彼は私に感謝の意を述べ、静かに語りだした。

 ‎ここからはオズワルド=レオフレックと名乗るこの紳士の語る言葉を記したものである。

この紳士が語る物語は、私の想像を遥かに超えたものであった。

 名家の隠された子供の存在は何なのか。なぜ隠さなければならなかったのか。

次の機会にこの続きを書き記し後世に残したい。

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