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変異者──menger  ヒーロー先輩と変異者後輩  作者: しゅれねこ
第一章 ヒーローと変異者
10/15

10 先輩と犯人と俺

 

「……寒い。しかし、何でこんな時間に…」


 天地さんからのメールで日付も変わろうかというそんな時間に呼び出しを食らった。明後日から俺大学だぞ。場所と時間だけ指定されそんな簡素な呼び出しに応じた自分も自分だが、これはいくら何でも酷いと思うぞ。


「というか明日だっけ、先輩の退院。ちゃんと準備したから大丈夫だろう」


 手持ち無沙汰なのでスマホをいじりながら待っていると時刻は日付が変わる時間を過ぎていた。そろそろ来て欲しいがこれで来なかったらさっさと帰って今度会ったときに糾弾してやろうと思う。


「しかし何故病院前の交差点で待ち合わせなんだ? 何かあるのか」


 大通りだからかこの時間でもまばらながら車や人の往来がある。

 その中で特に特徴があるという訳でもないが一人の男性に目が行った。理由らしい理由があるわけではないがパッと見たときどこか雰囲気が違うというか、何か没頭しているように見受けられた。


 そういえば変異者になってから時折人の纏ってる雰囲気とか感情の機微がぼんやりとだが感じるようになってきた。あの趣味悪い肉塊装甲以外は精神面で働きかけるような能力だからなのだろうか。最近は身体の調子も良いし変異者になるとそういう変化もあるのだろうか。


「……んん? え? おいおい…何やってるんだ?」


 その目を向けた男は仰々しいアタッシュケースを持ちながら塀を飛び越えて病院内に侵入した。身体能力からして間違いなく変異者だとすぐに分かったがそれ以上に誰も男の存在に気付いていないことから隠密行動が可能な能力を使っていることに意識が行った。


「どうするか…? 通報する……いや、待てよ。何で俺だけ気付いてるんだ。それに周りが気づいていないことをどうやって説明する…?」


 ただの一般人であれば奇妙ではあるが変異者の存在に気付いたので通報しましたと簡単に言えるだろう。しかしながら今の俺は変異者としていろいろとイレギュラーの塊だ。先日はうまくいってバレることは無かったが、あくまで偶々。それに頼るような真似は愚の骨頂だ。


 だからと言ってこのまま放置するのは不味い。病院に不審者が侵入する事態は看過できなのは当然だしよりによって先輩が入院中の病院とか何か狙ってあるとしか思えない。


「まさか…、例の犯人…? いや、そんな都合よく…」


「いくって言ったらどうする由乃クン?」


 恐る恐る後ろを向いてみると居酒屋でひっかけてきたのかというくたくたのスーツを着た天地さんが満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。やはり悪役か……。いや黒幕だな……。


「そんな不審者を見る目で俺を見ないでくれよ。恥ずかしいじゃないか」


「一体どこに恥ずかしがる部分があったんですかね。それより呼び出した理由があの光学迷彩不審者って言いませんよね」


「君なら目視できると信じてたよ。流石期待の金の卵(スーパールーキー)だ」


 でしょうね!! そうじゃないかとは思っていたよ畜生。あれか、実際に戦わせてみて俺がチマチマ送ってる情報との齟齬とかを確かめておこうって算段だろ。やっぱり信用ならねえかあ……。


「……あの、今侵入していったの誰なんですか。それだけ教えて下さい」


「えーっと、つい最近出所した奴で(本部)の方で強制的に覚醒させられて産巣を襲撃した奴だね。知ってるよね産巣?」


「ええ、──よく知ってます」


 どうやら俺と先輩─産巣の関係には気付いていないようだ。だからこそ確認をしているとも言える。

 それより表向きには出していない情報をさらっと漏らすのはどうなのか。それともこれも罠か何かか?


「それで、自分は何をすればいいんですか?」


「別に、何かをしてもらう訳じゃないさ。ただ、病院の警備システムは今切ってあるし、()()()()()動き回っても逃げる時間くらいはあるってだけだよ?」


 いけしゃあしゃあと。的はあげたから自由にボコっていいよ、逃げ道は作っておくから、の間違いだろう。つーか末端組織の長程度でもこのくらいのお膳立てができるのかMandelbrotは。それとも天地さんが自らの経歴を詐称しているとかか? どちらにしても厄介な事だ。


 まあ、用意された展開とはいえ願ってもいないいい機会だ。そちら側はそこまでのことは想定していないにしろその舞台に上がってやろうじゃないか。過信しているわけではないが、姿を見たとき本能として捻り潰せそうだと感じたのは事実だ。


 って不味いな。完全に頭が戦うことを前提に思考してしまっている。もしかしてこれも変異者になったことによる変化か? 好戦的というか凶暴になるという。まさか妙に出やすい変異者による犯罪ってこういうことも…。


「で、どうする?」


「…分かりましたよ。でも、どういうことになっても責任はそっちも持ってもらいますからね」


「それは勿論」


 全く、事あるごとにこの人の思惑通りに動かされているように感じる。一体何を狙っているんだろうか。一番あり得るのは戦力として使えるようにしてゆくゆくは幹部に仕立て上げて裏から操り人形にする、とかな。そろそろ思惑から外すような動きの一つや二つもしたいところだ。


 ──例えば、この場で襲うとか。


「……」


 ……今、一瞬だが天地さんの方から今まで感じた事の無いような威圧感を感じた。例えるなら極寒の、強い冷気か? いつもはあれだけ弱腰な態度の人がほんの刹那だがこんな雰囲気を出すとは。……いや、こっちが()()か。


 これ以上は止めておこう。まだ確信があるわけでもないし、それより件の犯人を早く追いかける方が先決だ。


「正直気乗りはしませんけど、仕方ないですよね。それなりご期待に応えられれば」


「こっちはそういうことは期待していないさ。ただ、どうなるかを見たいんだ」


 これ以上のやり取りは無駄だと思い、犯人がやったのと()()()()()()()()()()()()病院内に侵入する。まあ、そうなんだろうとは思っていた。体調が妙にいいことはこのことの兆候と考えれば納得はできる。

 だが、身体能力が向上するのは動物型だけの筈では? 何か裏がありそうだ。これもまた変異者に対する情報統制なのだろうか。だが、これはそこまで不都合な情報なのだろうか?


「どちらにしても、まだ自分が知れるようなものじゃないってことかな」


 先を行った犯人がご丁寧に道を作ってくれているお陰で侵入はしやすかった。念のため装甲を展開しておいて自分だと特定される情報を極力減らしておく。仮に誰かに出くわしてもこの状態なら如何様にも対処できるだろう。


 そういえば、天地さんたちがどうして俺が変異者であると気づいたのだろうか。接点があるとするなら先輩を襲撃したというあの夜に取った俺の行動が考えられるがその記憶が俺にはない。一体、あの夜に何があったのか、俺はそこで何をしたのか。


 ……少なくとも、先輩や襲った犯人以上に関心が行くだけのことを俺はやったんだろうな。

 もしかしたら、いや間違いなくこの変異者としての俺は秘密裏に共有されているのだろう。あの視認困難になる能力からすると俺が先輩を襲った犯人扱いされている可能性もなくはない。不本意だがその可能性は高い。


「……あれ、この状況ひょっとしたら不味い?」


 自分の首を自分で絞める流れになりつつあることに気付いたのとその音が鳴り響いたのは同時だった。


「おらあ!! さっさと出て来いよぉ!! 産巣さんとやらよぉ!!!」


「短気な馬鹿が…!」


 犯人が銃を撃って先輩を誘い出そうと大声を上げる。病院内がにわかに騒がしくなり、至る所で喧騒が鳴り響く。その喧しさに耐えきれなくなったのか再び銃を発砲して威嚇する。このままだと死人が出るのも時間の問題だ。


 そういう切羽詰まった場面で颯爽と現れるのがヒーローと呼ばれる所以なのだろう。その姿を見てそう思った。


「──姿が、見当たらない?」


「……先輩」


 とりあえず見つからないように柱の陰から様子を見ていたが、流石の先輩でも今回の相手は一筋縄ではいかないようだ。声はしているのに肝心の姿が見当たらないことに脅威を感じているのか周囲へ忙しなく注意を払っている。


 その焦りを感じる姿に犯人の顔は歪んでいた。淡々と近づき蟀谷(こめかみ)に向けて銃口を構える。それでも尚姿を捉えられないことに愉悦を感じたか、ゆっくりとその引き金に手を掛けていく。

 その余裕から来る油断が俺にとっては値千金の時間を作り出した。


「──うわっ!? え!? 何で!?」


「てめえ……!!!!」


 あー……、これはどちらも俺の事知っている感じですね……。


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