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変異者──menger  ヒーロー先輩と変異者後輩  作者: しゅれねこ
第一章 ヒーローと変異者
1/15

1 先輩は人気ヒーロー

 

 今まで一部の人々にとって永遠の夢とも言えた未確認生物の来訪は、全ての人々にとって思いもよらぬ形で訪れることになった。21世紀中期、何処からともなく現れた『彼ら』は想像だにしない動きを見せ始めた。


 ─ある者は、自らの能力を誇示するように暴虐の限りを尽くして天災の如き存在となった。


 ─ある者は、その蠱惑的なカリスマで国を作り替えた。


 ─ある者は、世界に蔓延るテロリストを一掃した。()()()()()()


 ─そしてある者は、………。


 三者三様の行動を見せ、世界各国を混乱に陥れていく彼らを人々は恐れ、震え、そして怒り狂った。


 だが何よりも一番最初に課題となったのはそもそも『彼ら』は一体どこから現れたのか、ということだ。やっぱり未知の事柄に惹かれるのは人間臭いというからしいなとは思う。


 初めての出現事例から1年ほど経ってその真相が明らかになる。彼らの正体は、外的要因によって突然変異を起こした人間。それも今までに明らかにされている突然変異とは全く異なる変容。一時期はこれが技術的特異点(シンギュラリティ)なんて言われたりもした。結局『変異者(メンガー)』と、彼らを呼称し、確認から大きな変革が終息するまでの五年間を変異者事変、と呼ぶことに落ち着いた。


 当初は世界規模で混乱していたものの、法整備やらが進んだ結果未確認生物…『変異者(メンガー)』と呼ばれる者達の発生から確保、護送に至るまでが一種の日常と化しているのが今という訳だ。


 元は人間といえども変異した者達は何かしらの特異性、能力を有しており、生半可な武力では返り討ちに遭うことも少なくない。故に、暴走する彼らを抑える彼らは名実ともに英雄(ヒーロー)であると。








「オオオオオオオオ!!!」


 その雄叫びは摩天楼のガラスを悉く粉砕し、人々の悲鳴と共鳴して一つの悲劇を奏でていた。

 黒色人種(ネグロイド)とも黄色人種(モンゴロイド)とも白色人種(コーカソイド)とも違う不気味な黒や赤、紫が混じった体色と膨れ上がった筋肉が異質さを際立たせる。


「もー☆ こういうのはシールメントちゃんの相手じゃないぞ☆ どうにかしろよ筋肉ダルマ☆」


「いや、意外なことにこいつ結構防御が硬くてな。対処できないことはないが相応の時間が掛かりそうだ。はっきり言って相性が悪い。 ─また来るぞ!!」


 全身武装の筋肉質な男が警告すると同時に怪物がその膨れ上がった胸をさらに膨らませ、魔法少女のようなコスチュームをした女性と、その男が耳に手を当てて塞ぐ。

 直後、今度は地面を揺らすほどのけたたましい爆音が拡散する。塞いでいてもすり抜けるその音撃は、一般人であれば鼓膜を破られ間違いなく失神していたであろう。


「はーい☆ こちら─くっそウゼエと対峙中のシールメントに何か御用で?」


「素出てるぞ魔法少女」


 取り繕っていた笑みが器用に半分ほど崩れた状態で無線に出る魔法少女と、冷静にツッコむ筋肉男。その要件を確認するや否やまるで仕事終わりのような雰囲気を出す。


「はーい☆ 了解でーす☆ ─だー……、学校帰りにこんな面倒なことをさせやがって」


「ほい。スポドリ飲んどけ。秋だからって脱水症状にならない訳じゃねえからな」


「どーもインテリゴリラ。少しは役に立てよ」


「いい加減その呼び方止めない? 俺もう30歳だよ? 学生のノリが分からなくなってきた頃だよ?」


「花の女子高生にもっと気を使えってことですよ」


 あたかも仕事終わりに愚痴を言い合っているようではあるが、あくまでここは怪人が暴れまわっている戦場である。決して安い居酒屋などではない。ファミレスでもない。


 その余裕綽々の態度に知能を極めて失っている状態とはいえ、癪に障ったのか筋肉量に頼った人知を超える速さで向かってくる。それでも尚態度を崩さなかったことに激高し、刃物のような爪を振りかざそうとする。



「──二人とも、遊びすぎ」


 その大太刀の如き爪を止めたのは所謂忍者がよく用いる苦無であった。そしてその小さな苦無を器用に扱うのは、全身を黒一色のボディースーツで包み、身体の各位に武器を携えた言い現わすなら現代のくノ一とでも呼ぶべき存在であった。


「アアアアア!!??」


「神妙にお縄につきなさい」


 淡々とお決まりの言葉を放つと、怪力無双であることが取り柄の怪物を視認困難な速さと相手の力を的確に受け流す技術で翻弄する。怪物もただでやられまいと凶悪な爆音を放とうとする。


 その事前動作を確認すると暗器のように取り出したワイヤーを、その神速を以って巧みに扱い顎を強引に閉じさせた。自らの音撃を口内で直撃させられた怪物は悶え、動きが目に見える程鈍る。


 その隙を見逃さず、手錠に似た拘束具を取り出すと両手両足に装着させる。

 変異者用に特注されるその拘束具には通常のそれを超える堅固さと対変異者に特化した神経伝達を遮断する物質が装填されている。その両方によって打つ手のなくなった怪物の沈黙を確認すると一呼吸置く。


「予想通り。顎の力は大したことない」


 決して彼女は力自慢というわけではない。勿論、対変異者用強化スーツの補正によって常人を超える運動能力を得てはいるが、彼女の真骨頂は天才的な直感力と特化された速度を最大限に生かす技術だ。少なくとも対人…一対一では世界屈指の強さを誇る。


「相変わらず先輩の神懸かり的な速さ、惚れ惚れしちゃいますねー☆」


「─はぁ、……急いで来たから疲れた」


 口元を覆いかぶさるようにしていた布をずらして、艶めかしい声と共にため息を吐く。

 暴走した変異者の確保後に大抵見せるこの何気ない仕草が一部界隈では女神の吐息だとかカルトチックな人気を博している。本人はその書き込みがされたスレを見て意識が朦朧としたが。


「警察への連絡も済ませたし引き渡しが終われば今日はおしまいだよ。あとの事務作業は俺に任せてくれ。二人は先に帰っていてもいいけど……」


 怪人の撃退及び拘束が完了し、瓦礫の山にはそれまでヒーローと怪人しかいなかったのが次第にマスコミや野次馬が集まりかけていた。所属企業の看板的存在である三人だが、紅一点ならぬ黒一点とでも言うべき男を除いた二人はそういった対応が嫌いである。


 特に、くノ一姿の彼女は筋金入りであり目にも止まらぬ速さで周囲の人だかりを抜けると姿を消した。

 それ故、彼女の声だけでも中々にレアな資料になるのだ。そしてマスコミは彼女が出ると声だけでもと群がってくる。


「……あの速さ、私も欲しいな。特に逃げ足に」


「全部押し付けられるのは毎回俺か……」







「先輩ってどうしてそこまでメディアに露出するの嫌うんですか? 性格的にそういうのが苦手なのは知ってるんでそれ以外で」


「……だって、休める時間減るじゃん」


 テレビで毎週のように報道されている産巣(むすひ)と呼ばれているヒーローの映像を眺めながら、目の前で大量のハンバーガーをリスのように頬張っている本人相手に尋ねる。


 画面の向こうでは謎多きクールビューティーとして一躍時の人となっているが、その内情は食い意地の張った自堕落な女性であることを自分以外ではほとんど知らないだろう。他にいるとすれば彼女が所属している企業の一部人員ってとこぐらいだ。間違いなく一般人では唯一と言っていい。


 業務中はそのセミロングの髪はポニーテールに纏められ、全身黒の意匠と調和する黒髪が美しいとか言われてるが実際はぼさぼさの髪を常時放置し、ボディースーツによって強調された豊満な胸やらも普段はパーカーやジャージで目立たないように隠されている。


 そしておっとりとした態度や如何にもオタクといった眼鏡を着用している姿を見れば、まさかその正体が現代のくノ一であると誰が考えようか。


 一端のしがない大学生に過ぎない自分が幼馴染──とはいっても5歳ほど年上なのだが、そんな彼女と交際関係にあるとは人生というものは複雑怪奇である。


「……それも性格的なやつでは?」


「黙ってお前もハンバーガー食え」


 むぐっ、と強引に大量購入されたハンバーガーを口に詰め込まれ詰問の口を封じられる。

 職業柄な部分と本人の元来のものと相まって彼女が一日に摂取する食事量はかなりのものになる。並大抵の家庭ではそのエンゲル係数に白目剥くくらいには。


 しかし反対に高給取りでもある彼女の懐は食費を差し引いても余りある。お陰で大学生でありながら食事には困らない事には感謝している。基本的にはバイトで賄っているが。


 なので彼女の預金からして中心部にあるような高層マンションの最上階を借りることも容易なのだが、わざわざ借りるのが面倒なのと近くにいるなら気が休まるそっちが良いということで共同生活中だ。念のために言っておくがヒモではない。むしろ労働者で無ければ俺の方が養っているようなものだ。


「まあ、別に仕事のことは良いですけど少しは健康に気を遣ったらどうです? いつもファストフードばかりで偶に違うと思ったらコンビニ……。野菜を食え野菜を」


「先輩に向かってなんという口の利き方……あ、違うから…ちゃんと考えてるから……」


 少し不機嫌そうな顔を見せると懐いた猫のようにおとなしくなった。怒ったら怖いらしいが慣れてないので自分ではそうは思わない。人が変わるのか? 何にせよ一先ず自分の意見を通したいときに有用なのでモーションだけ見せるのが俺にとって伝家の宝刀になっている。


「……先輩、スマホ。着信来てます」


「ん、ありがと。…はい、何でしょうか」



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