隣の席の北城さんはミステリアスだけど分かりやすい?
隣の席の北城さんはミステリアスだ。
基本無口で表情は真顔。
長い黒髪に大きな瞳。
どこか猫を思わせるような愛らしい顔なのに、野良よりも愛嬌が無い。
いい意味で言えば気取っていないというか、悪い意味だとぶっきらぼう?
いつも一人で本を読んでいて、誰かと話しているところはあまり見たことが無い。
外見以外で知っていることと言えば、学校の成績は常に上位ということくらいか。
それも本人に聞いたわけでは無く、テスト返却後に廊下に貼り出される成績優秀者の一覧を見ての事だ。
そんな感じで俺は北城さんについてあまり知らない。
きっと他の生徒もそうだ。
頭脳明晰、冷静沈着。
クールで真面目でミステリアス。
北城さんを形容する言葉はせいぜいそのくらい。
そのくらいしか、みんな北城さんについて詳しく知らない。
でも俺はみんなが知らない北城さんの一面を一つだけ知っている。
知っている、というと事実見たいだけど、実際はそうかもしれない程度の俺の予想。
「渡瀬君、問題です」
「……やっぱり今日もなのね。いいよ、問題出して」
ほら来た。
さっきから隣で少しそわそわしているから、もう直ぐだと思ったんだ。
今も俺を真っ直ぐ見てくる北城さんの表情は完全なる無で何を考えているか分からない。
けれど、最近ちょっとわかって来た。
北城さんにも喜怒哀楽はちゃんと感じている。
それは表情に出ないだけ。
俺と北城さんを繋ぐ、毎日一回出される問題。
なぞなぞやクイズと言うか、何て言うんだろう。
北城さんオリジナルの問題としか形容が出来ないもの。
俺がミステリー小説を好んで読んでいるからか知らないけど、とにかく北城さんは毎日俺に問題を出してくる。
その問題を通して、俺は北城さんの事を少し、ほんの少しだけ知れた。
多分、これは俺しか知らない北城さんの一面だ。
「問題、私の消しゴムはどこに消えたでしょう」
「え……床とかに普通に落ちてるんじゃないの?」
「床には無かったし、机も鞄も全部見たわ」
「じゃあ探せるところは全部探したってこと?」
「うん。今日は移動教室も無かったから、この教室のどこかにあると思うんだけど」
「ちょっと待って、わざわざ問題にしてどこでしょうって聞くってことは、北城さんはもう消しゴムの居場所を特定してるんだよね?」
「流石、渡瀬君。その通り、私はもう答えを知っているわ」
ならそこから消しゴム取って、この話はハイお終い……とは言えない。
言ってもいいが、意味が無い。
そしてこの問題自体にもあまり意味が無い。
北城さんは問題を出して、俺が解くことに楽しみを見出している。
とは言っても、今まで一度も楽しい様子は見れていないのだけど。
きっとそうだと俺が勝手に思っている。
だから強いて言えば、この問題は俺が解くことに意味がある。
北城さんが何故俺に突然問題を出してくるのかは分からない。
当然無視してもいいし、適当にあしらってもいい。
けど、これは無口で無表情でミステリアスな北城さんと仲良くなる大チャンスだ。
ならそのチャンスを逃す手は無い。
「北城さんの身の回りには無くて、でもどこにあるかは知っている……。なら、誰かが持っているという線は?」
「どういうこと?」
「今日一日、誰かに消しゴムを貸したりした? それでそのままとか……」
「貸してないわ」
「じゃあ盗まれたとか」
「たかが消しゴムを? それに、盗まれていたら私は消しゴムの居場所を知ることが出来ないわ」
「うっ……」
相変わらず無表情で見つめてくる視線が痛い。
何を考えているか全くわからない故に、北城さんの感情は勝手に俺の想像で補うことになる。
多分今はこの程度の問題も分からないの? って顔だ。
きっとそう。
だって目が怖いもん!
「……じゃあさ、誰かが意図せず盗んでしまったってのはどうよ」
「どういうこと?」
「例えば、北城さんがうっかり落とした消しゴムを誰かが自分のだと思って拾い、そのまま筆箱に入れてしまったとか。これなら北城さんが見ていた可能性が高いし、一応成り立つんじゃないかな」
……おっ?
いつもの真顔でマジレス即答が来ないぞ。
これはもしかしていい線言ったんじゃ。
だとしたら北城さんの激レアな一面が見れるかも知れない……。
「……さあ、どうでしょう」
でた。
北城さんの「さあ、どうでしょう」。
本人としてはこれで誤魔化せてると思ってるんだろうけど、普通に目が泳いでる。
それに違うなら違うとはっきり言うのに、わざわざ言葉を濁らせるのは推理が良い線言っている何よりの証拠だ。
やっぱり北城さんはミステリアスだけど分かりやすい、と思う。
相変わらず真顔ではあるんだけど……。
「北城さんの消しゴムの特徴を教えてよ。クラスの人に持ってないか確認してみる」
「……カバーが黄色で赤色のストライプが入ってる。消しゴム本体の色は青色」
「そんなのどこで買ったんだよ」
「隣町のショッピングモール」
「何でわざわざ」
「……どうしてもそれが欲しくて」
普通、消しゴム一つの為に隣町まで赴くか?
俺が知らないだけで女子の間では流行りなのか? 消しゴムブームなのか?
問題は解けても女子の思考についてはさっぱり分からないな。
まあ、こればっかりはいくらミステリー小説を読んでも参考にならないから仕方ないけど。
今度から女の子が主人公の本にでも手を出してみるか。
……って今はそんなことどうでもいい。
もう少しで昼休みが終わってしまう。
ええっと? カバーが黄色で赤色のストライプ。消しゴムの本体の色は青色。
これだけ特徴があれば、直ぐに北城さんの消しゴムを持っている人が分かるだろう。
でも量産型ならともかく、こんな奇抜なデザインの消しゴムを間違えて拾うだろうか。
実は故意じゃないとしても、面白い消しゴムが落ちていて勝手に持って行ってしまったんじゃないか?
それか目が極端に悪くて見間違えたとか。
いや、この場合は当初の予想通り、同じ消しゴムを持っていると考える方が自然か……。
「同じ消しゴム?」
「どうしたの、渡瀬君」
「いや、もしかしてと思って」
い、一応ね?
人に聞く前に自分の筆箱を探してみないと。
ま、まあ、そんなはずは無いんだけど。
北城さんの消しゴムが俺の筆箱に入ってることなんて絶対無いんだけれども。
だって俺は今日消しゴムを拾って無いし……いや、拾ったな!
四時間目に拾った覚えがある!
でも、見間違えるはずが無い。
俺の消しゴムは黄色いカバーに赤色のストライプで、本体は青色……あっ。
「正解」
「俺が犯人だったのか……ごめん、返す」
「ん。今日も問題解かれちゃったね」
「そりゃあ、問題って言っても北城さんがある程度答えてくれるし……」
途中で大ヒントもくれるしね、とは言わないでおこう。
言ったら北城さんが意識してもっと無表情、無感情になってしまいそうだ。
そうなったら北城さんの新たな一面を見れなくなってしまう。
俺はミステリアスだけど分かりやすい北城さんを見たいんだ。
普段はほとんど喋らないのに、隣の席になった俺にいきなり問題を仕掛けてくるミステリアスな北城さんを、それでいて何だかんだ自分から答えに近づけてくれる分かりやすい北城さんを俺はこれからも見たい。
「そういやこの消しゴム、流行ってたりする?」
「別に、流行ってないよ」
「じゃ、じゃあ何で北城さんはこの消しゴムを買ったのさ。俺はたまたま見つけて買っただけだけど、わざわざ探してまで買うようなものじゃないのに……」
「……さて、どうしてでしょう?」
「えっ、これも問題!? ひ、ヒントは?」
「さあ?」
「ええっ……ノーヒントは無理だよ……」
前言撤回。
やっぱり北城さんはミステリアスで何を考えているか分からない。
Twitterで見かけた四ページ漫画を参考に短編を書いてみました。
仮に連載するとしたら、ショートショート形式で第1問、第2問って感じで進めていくんだろうな……。
そんでもって、問題数が増えていくほどミステリアスな北城さんが分かりやすくなっていくと。
うん、普通に書いてみたい()
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今のところ連載は考えていませんが、反応次第では書いてみようと思うのでよろしくお願いします。