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第5話

もう一度、魔物の城下町に戻った。

薬屋がある。人間しか調合できないのでは?と思ったが、方法だけは伝わっていたようだった。

材料が乏しかったが、どうにか二人分のエルフ風邪の特効薬ができた。

これを飲めばピタリと治るというものだった。


ダルブは喜んで、大事そうに腰の道具袋に入れた。


「やりやしたね! アニキ!」


「おう! ジャック。恩に着るぞ!」


後は我が家に帰るだけだ。そして妻のミーゼと息子のグルシに薬を飲ませるだけ。

それで万事解決だ。全て元通りだ!


ダルブとジャックの農園までは都から一日かかる。大きな馬車が通れるほどの安全な道だ。


だがもう一つの道がある。人通り少なく馬が一頭ずつ駆けられる幅しかない。降りて馬を引かなくてはいけない難所もある。こちらの方が早いのだ。


行きもそちらだった。

帰りだって当然そっちを選ぶ。


二人は馬の腹を蹴って道を急いだ。


草が生い茂る草原、蔦がカーテンのように垂れ下がる森、それを越えると赤い山肌が見える獣道だ。それを越えて少しの砂漠を抜ければダルブの農園に入れる。


二人は赤い土の山に入った。少しばかり高い山。右は切り立った山壁があり、左側は崖になっている。その下は激流の川だ。

だが二人にとってはいつもの道。

何十回もこの道を駆け抜けている。


ハズだった。


ダルブの前にパラパラと小石が山壁の上から振ってきた。


(なに……!?)


山崩れの兆候だ。


「ジャック! 気を付けろ! 山崩れが来る!」


「分かってまさぁ!」


二人は大きく馬の腹を蹴って急がせた。

ジャックの後ろにドドウと音を立てて土煙が上がり始めている。


「アニキ! 急いでくだせぇ!」


「分かってる!」


二人は馬の首にすがりついて、ただただ馬任せに走らせた。やがて激しい崩れる音がフェイドアウトしてゆく。

山崩れが落ち着いた……?


と思った矢先、前方の道にドドウ!と音を立てて第二波が襲ってきたのだ。

二人は駆け抜けようとしたがダルブの馬が滑り来る大木に足を取られてつんのめった。

前がその調子だ。ジャックの馬もそれにつまずいてジャックを空に投げ出して崖下に落ちてしまった。


ダルブが落ちたところは山崩れのおきていない少しばかり先のところ。すぐに体勢を立て直した。

ジャックがこちらに飛んでくるが危ない!そこには地面がない!下は奈落だ!崖下には激流が流れている。


ダルブは崖に生えている木をつかみそこから片手を伸ばしてジャックの手をつかんだ!


物凄い反動だ。つかんでいた木がミシリ!と音を鳴らした。ダルブはジャックを崖下にぶら下げた形だった。


「待ってろ。今引き上げてやる」


そう言ってダルブはもう片方の手をジャックの手に伸ばし引き上げようとした。だがジャックが叫んだ。


「ダメでやす!」


ダルブは訳が分からない。笑って、


「はは。何がダメなんだ。恐れるな。オレを信じろ」


そう言ってまた手を伸ばそうとした。


「ああ! ダメでやす!」


「どうして?」


「薬が! 落ちてしまいやす!」


見ると腰の道具袋から特効薬の瓶が大きくその体を覗かせていた。

ジャックに手を伸ばせばその反動で落ちてしまう。


薬を落とさないためにはジャックの手を放さなくてはいけない。


そんな状況だった。


「……いけやせん。アニキ。手を放して下さい。」


「バカを言うな」


薬瓶がフラフラと徐々にその体を外に覗かせる。

ジャックは摑んでいたダルブの手首を放した。

だがダルブがジャックの手首を摑んでいる状態だ。


「バカヤロウ! ジャック! 手を摑め!」


「アニキ! 何しにここに来やした! 姐さんと坊ちゃんを救いに来たんでしょう!」


「うるせえ! さっさと手を摑め!」


ジャックはもう片方の手を伸ばしてダルブの指を一本ずつはがしていく。


「あっしはねぇ。実はアンタを大嫌いでしたよ。勝手気ままに城を棄てて身分を棄てるアンタが。そして、この融通の利かなさ。バカですよ。ホントウに。」


そう言って指を完全にはがした。



落ちてゆく



落ちてゆく



激流の川に小さく音を立てて



流れてゆく



流れてゆく



特効薬の薬瓶が……。



ダルブは両手でジャックの腕を摑んでいた。そして、ジャックに向かってニィと笑った。


「もう放すなよ?」


「アニキ……!」


ダルブは両手でジャックを引き上げた。二人は大きくハァハァとあえいでいたが、やがてゆっくりと立ち上がった。


「アニキ……」


「もう何も言うな。せめて急いで帰って二人の死に目に会いたい」



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