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第2話

ダルブの農地には他に一軒の仲間の家がある。

共同で農場を経営しているのだ。


そこにはダルブの昔からの馴染みのもので、オークの夫婦が住んでいた。


そちらは主に、畜産を担当していたのだ。牛、馬、鶏。ダルブは鶏の卵が大好物だ。

そいつは、ダルブのために毎日卵を持って来た。

オークの彼の名前はジャック。

彼もまた鍛えられた肉体だ。

上半身は裸でサスペンダーと革のパンツと言うスタイルだ。


「アニキ。いるかい?」


「おう。ジャック。どうした」


「卵持って来たついでに、牛のエサに小粒のジャガイモでもねぇかと思って」


「ああ。ある。用意してたんだ」


ダルブはそう言って彼がひいて来た荷馬車にそれをつけた。


「ん?」


ジャックはダルブの家の方を見た。


「どうした? ジャック」


「家の中から、姐さんの咳が聞こえるねぇ」


「ああ。最近大雨が降って今度はカンカン照りだろ? ちょっと調子を崩した」


「いやぁ。そんな風には聞こえやせん」


そう言って、ジャックは家の中に入り込んだ。

入り込むとミーゼの激しい咳だ。ジャックは叫んだ。


「姐さん!」


「おや、ジャックじゃないかえ。コン! コン! コン!」


「姐さん、その咳……」


「ああこれかい。旦那にも言ってるんだけどね。長雨が祟っただけなんだよ。お前さんの心配には及ばないよ」


「何言ってるんですかい!」


ジャックは大声を張り上げた。その意味がこの夫婦には分からなかった。


「先日、町に降りて聞いたんですよ。質が悪い“エルフ風邪”が流行ってるって」


「エルフ風邪だと……? アレは50年前になくなったんじゃねーのか?」


「それです。50年前の魔術師が魔法でエルフ風邪の元を集めて箱に封じて洞窟の中に棄てたんでやす。しかし最近、人間の冒険者が宝箱と勘違いしてそれを開けてしまったらしいいんです。それでエルフたちはバタバタと死んでるらしいんです。この領地でエルフなのは姐さんだけだ。薬も何もありゃしねぇ!」


ミーゼは、一笑してまた咳をした。


「はっはっは。ジャック。からかうでないよ。コフ! コフ! コフ! だいたいにして、証拠はあるのかえ?」


「ありやす。最初に咳の兆候が現れ……、熱が出て、目の玉が真っ赤になる……」


ダルブは慌てて彼女の額に触れた。湯が沸くほど熱い!

さらに、目の白い部分が薄赤く染まり始めていた。


「バカを……。バカをお言いでないよ……。くだらない。ちょっぴり具合が悪いだけさね。ケン! ケン! ……あたしゃちょっぴり横になるよ」


そう言って、細い体をそこら中にぶつけながら寝室に向かって行った。ダルブは頭を抱えた。


薬をどうにかしなければならない。


「ケフ。ケフ。ケフ」


今度は外から可愛らしい咳が聞こえた。ダルブは真っ青になった。


「エ、エルフは一人だけじゃねぇ!」


慌てて駆け出して一人で砂場で遊んでいる息子を抱いた。


「グルシ!」


「あ、おとーしゃん。泥だんご。見て〜」


抱きかかえてみて見ると、熱はまだ少しだ。目も赤くはなっていない。

かかりはじめだ……。


「どうしてだ! ああ! 神様なぜです! なぜ私から家族を連れ去ろうとするのです!」


魔物には魔物の信仰する神がいる。ダルブは神に祈りながら、息子を強く強く抱きしめた。


「アニキ……」


「ジャック! どうすればいい!? どうすれば!」


ジャックは無理やり声を絞り出して言った。


「……父君にお願いするほかございやせんぜ」


ダルブの動きがピタリと止まる。


「クソ!」


そう言って土を蹴り上げた。



エルフ風邪……。

通常のエルフであれば目が赤くなれば1日から7日で死んでしまうらしい。だが幸いにもミーゼはハーフエルフだ。人間の血が混じっている。病気の進行は少しばかり遅いようだった。ましてや息子はクォーターだ。こちらにはまだ猶予があるかも知れない。しかし、若い方が病状が進むのが早いかもしれない……。



つまり、時間の争いだ。一刻の猶予もない。

ダルブは短い革マントを羽織った。そして、ジャックの(まき)から商売ものの軍馬を2頭引き出した。


それにダルブとジャックは飛び乗った。


「久々ですねぇ。馬に乗るのも」


「そうだな。戦場を思い出す。」


自分の留守中はジャックの妻のミルトがドアーフを使って農地を切り盛りし、ミーゼと息子の面倒を見てくれる。

その間に父から金を借りて薬を買って家に戻る。簡単な話しだ。とダルブは自分に言い聞かせた。



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