第5話「堪え切れない笑い」
歪んだ笑いが収まるのを待った
右手をゆっくりと剥がし
「ちひろ お腹空いただろう なんか作るわ」
キッチンに向かった
男なのに料理は得意な方である
レシピさえあれば何でも作れる
幼い頃からまな板と包丁に触れてきたからだ
冷蔵庫から今晩の材料を取り出した
じゃがいも、人参、それに鶏肉に牛乳、
冷凍チーズ
「わぁ」
キッチンのまな板の前にちひろがいた
ちひろがじゃがいもを手にとろうとした瞬間
「ちひろ?」
隣にいるちひろの両脇に手を通して
こちらに倒れたところを
両手でお尻を持ち上げてだっこした
そのままリビングに向かった
ソファにちひろを降ろすと
「邪魔だからここにいろ」
とにかくキッチンには寄せ付けたくなかった
早速野菜を切っていると
ちひろはソファで横になり寝ていた
野菜や鶏肉を炒めながら
ふと彼女が視界に入る
嫁っていや、
恋人が部屋にいるとこんな感じなのかな
と思った
今まで恋愛に興味がなかった
たいして好きにならなかった
でも、今は違う
10分も経つとすでに鍋に水を入れ煮込んでいた
その後、牛乳と調味料を加えた
最後に冷凍チーズを混ぜた
部屋中にクリームのとてもいい香りがしてきた
ちひろが薄く目を開け
「お腹なるの」
と呟いた
器に料理を盛り付けてトレイで
リビングまで運んだ
ちひろの目の前にその器を置いた
「・・・」
「クリームシチュー食えるか?」
今晩はクリームシチューだった
ちひろの向かい側のソファに座り
スプーンを手に取った
ちひろはクリームシチューの器を両手で持ち
「ごくごく」
すごい勢いで飲み始めた
どうやらとてもお腹が空いていたようだ
「うまい?どう?」
「・・・うん」
少しこちらを伺いながら唇を噛み締めていた
「もっと食っていいよ
俺のクリームシチューやるから」
「うん!」
今度は落ち着いた様子でスプーンで
クリームシチューをすくって食べていた
中沢はちひろが食べ終わるまでの一部始終を
膝に肘をつきながら眺めていた
「おかわりは?」
「いらない」
その言葉を聞くと中沢は全ての器を
トレイにのせてキッチンまで運び
器を洗っていく
そして、
ちひろはまた横になってソファの背もたれに顔を埋めて寝ている
なんだか7つにも満たない女の子の
面倒をみているようで息苦しく感じたが
なぜか冷きった部屋に明かりが増した気がした