大人の貴女と煙草と子供の僕。
貴女の煙草を一本貰い煙を肺に入れ僕は咳き込んだ。
初めて吸ったその煙草の味は、
思っていた以上に喉と肺にきて、
到底美味しいと言えるものではなかった。
咳き込んだ僕を見て貴女は、
「だからやめときなさいって言ったでしょ」
そう言って少し眉を困らせながら微笑んだ。
その笑顔がまた悔しくて、でも好きだった。
25歳の貴女は15歳の僕を子供に見ている。
まあ当然の話なのだろうが、
僕はそれが悔しくて色んな事をしてみせた。
すると貴女はいつも決まって、
少し眉を困らせながら綺麗な顔で微笑む。
いつもの喫茶店で貴女は、
いつものように常連客であるハットを被った、
クールそうな30代前半くらいの男性を見つめている。
そして僕はいつものように、
男性を見つめる貴女の顔を見つめている。
やっぱり貴女は年上の男性が好みなのだろうか。
また僕は悔しくなり、
苦いブラックコーヒーを飲み干して、
あまりの苦さに顔をしかめた。
それに気づいた貴女は、
顔をしかめた僕を見ていつものようにまた、
眉を困らせ心配そうに綺麗な顔で微笑む。
その貴女の笑顔がまたあまりにも綺麗で、
僕は思わず目をそらした。
次に貴女に目をやった頃また貴女は、
その男性を見つめていた。
こんな日がもう何日も続いている。
僕は勇気を出して貴女に訊いた。
「あの人の事好きなの?」
急な質問に少し驚きながらも貴女は、
「ちょっと見てただけだよ。」そう言った。
でも実際はちょっとどころかずっと見つめていた。
悔しくて悔しくてでも何もできなくて、
筆箱から出したシャープペンシルを握り、
感情を少し抑えながら学校の宿題を進める。
今日もまた貴女に振られた。
もう少なくとも10回以上は振られている。
毎回毎回悔しくてそれでも好きで、
明日のデートに誘う。
貴女は少し困りながらもいつも、
しょうがなくデートをしてくれる。
まあデートと言っても喫茶店でコーヒーを飲んだり、
図書館に行ったろするだけなのだが。
でもそれが僕には一番楽しかった。
今日は図書館に行った。
でも僕は普段から本なんて読まないし、
いつも適当な本を手に取り、
貴女の隣か正面の椅子に座り、
本を読む貴女の顔をチラチラと覗く。
貴女は夕方までずっと同じ本を読んでいた。
会話は特になかったがたまに、
チラチラと顔を覗く僕と目が合い、
貴女はまた綺麗な顔で微笑んでくれる。
帰りに自動販売機でカフェオレを買い、
公園のベンチに隣同士で腰掛けた。
カフェオレを飲み終えた貴女は、
いつものように煙草を手に取り、
ライターで火をつけ肺に煙を入れる。
もう長く見ているから気にしていなかったが、
煙草と貴女のイメージが結構正反対で、
初めて貴女が煙草を吸っているのを見たときは、
少しばかり驚いた。
煙草を吸う貴女の顔もまた綺麗で僕のお気に入りだ。
貴女の煙草を吸う横顔を見て僕は貴女に訊いた。
「なんで煙草吸うようになったの?」
貴女は少し間を置いてもう一度、
煙を肺に入れて出してから話してくれた。
「好きな人が吸ってたから。」
僕と同じだ。まあ僕はまだ吸うこともできないが。
そして続けて訊いた。
「どんな人だった?」
「うーん。大人な人かな。」
その答えに僕と正反対じゃんと言うと、
貴女はまた綺麗な顔で微笑んでくれた。
「別れたの?」
「うん。」
「なんで別れたの?」
「浮気してたの、モテる人だったから。」
その答えに次に発する言葉が見つからず、
ふーんとだけ僕は言った。
一本ちょうだいと僕が言うと、
だめだよ前も咳き込んだでしょとまた微笑む。
しつこくねだるとしょうがなく、
煙草を一本出し僕に渡した。
ライターで火をつけて勢いよく煙を肺に入れた。
そしてまた僕は咳き込む。
僕の背中をさすって心配そうに見つめる、
貴女の顔を見て僕は平気なふりをして見せたが、
その僕を見て貴女はやっぱりいつものように、
少し眉を困らせながら綺麗な顔で微笑む。
煙草を吸える貴女と、吸えない僕。
僕にとってこれが年以上の、
貴女と僕の一番の差に感じていた。
いつも貴女は僕が家に行きたいと言うと、
ごめんねと言いながら断ってくる。
でも今日に限っては渋々了解してくれ、
貴女の家に初めて行く事になった。
ウキウキしながら貴女の住む、
アパートのチャイムを鳴らす。
ドアを開けて出迎えてくれた、
部屋着姿の貴女と目が合い僕はまた目をそらす。
「お茶でいい?」
と訊いてきた貴女に返事をして、
部屋を見渡したり僕は常にそわそわしていた。
しばらくそれからいつものように話したり、
テレビを観ながらくつろいだりしていた。
本当に楽しかった。
人生で一番と言っても全然大袈裟じゃないくらいに。
貴女はベランダの窓を開けて、
煙草を吸い出した。
その煙草の匂いはいつのまにか、
僕にも馴染みができてきて、
僕の好きな匂いにもなっていた。
そしてまた僕は貴女にしつこくねだって、
一本煙草を貰って煙を肺に入れ咳き込む。
それを見て貴女はまた心配そうに、
眉を困らせながら綺麗な顔で微笑む。
お互い煙草を吸い終わり貴女は僕に話し始めた。
「私ね、引っ越すの。」
僕は急な事に胸が締め付けれて何か苦しくなった。
震え始めた声の震えを抑えながら僕は訊く。
「何処に」
「言わない。」
「なんで。」
「言っちゃうと来ちゃうでしょ。」
声の震えはもう隠しきることはできずに、
震えたままの声で僕は言う。
「行ったら駄目なの?来ないで欲しいの。」
「違うよ。君にはもっと合う人がいるから。」
「居ないって。貴女しか居ないよ。」
「もっと同じ年くらいの可愛い女の子とかさ。」
「嫌だ。貴女じゃないと僕は嫌だ。」
「だから。ね。今日で最後。」
「最後」という言葉に僕は、
堪えきれず声だけは抑えて涙を零す。
それを見て貴女は言う。
「ごめんね。」
もう我慢できず僕は情けなく声を出して泣く。
寄り添って来た貴女は僕を抱きしめる。
そして僕は更に声と涙を出して泣き続ける。
またごめんね。と言う貴女の震えた声が聞こえた。
しばらく泣いた。
今まであった貴女との色んな事を思い出しながら。
僕が涙を拭き貴女の顔を見ると。
泣きそうで、でも綺麗な顔で微笑んでくれた。
その笑顔でまた泣きそうになりなって、
もう一度貴女を抱きしめた。
最後に貴女はいつも貴女が吸っている煙草と、
貴女の使っているライターを僕に差し出して、
「あんまり吸いすぎないでね。」
と言って僕にその煙草とライターをくれた。
貴女に貰った煙草を手に持って、
貴女の家の玄関でもう一度貴女の顔を見つめた。
そしてまた貴女は、
眉を少し困りながら綺麗な顔で微笑んでくれた。
涙を堪えてる顔にも見えた。
貴女のその笑顔を見て、
これで最後かと思うと寂しくて寂しくて、
泣きそうででも堪えながら、
貴女に笑って見せかけた。
この時僕はちゃんと笑えていただろうか。
そして貴女の家を出て、
いつか貴女と行った公園のベンチに腰掛け、
堪えきれずまた泣いた。
そこからまた思い出に浸り、
貴女のくれた煙草を一本手に取り、
貴女のくれたライターで火をつけた。
煙を肺に入れたが、
いつものように咳き込みはしなかった。
泣き疲れて味が分からなかったのもあるが、
その時初めて煙草を美味しく感じた気がした。
家に帰り鼻をかむとまだ少しあの煙草の匂いがした。
それから5年程が経ち、
あの喫茶店であの煙草を吸っている、
僕と貴女が再会するのはまた別のお話。
最後まで読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今回の作品は僕の理想であり、
妄想が存分に詰められております。
とりあえずなんとなくすみません。
最近では持病の回復もみられてきておりますので、
今まで通り少なくとも月一で、
更新できればと思っております。
評価感想などお待ちしております。
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