友人との再会です
「なぁ久野?」
「何?」
「今僕達はケリー・ハイル達が拠点にしている大和ドームって球場に向かってるんだよな?」
「ええそうよ。何か都合の悪い事でもあった?」
「いや、向かう事自体は別に良いんだけどさ、まさかそのまま球場に到着し次第襲撃するって訳じゃないんだろう?聞いた限りだと相手もそれなりの戦力を整えているみたいだし」
「当たり前じゃない。いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないわ。一度大和ドーム周辺に着いたら内通者達の所へ向かうつもり。襲撃はその後」
内通者……?
あぁ、そう言えばアスクレピオス社に内通者が居るって言ってたっけ。
「何人くらい居るんだ?」
「そんなに多くはない。3人よ」
3人か。
3人も居ると考えるべきか、3人しか居ないと考えるべきか。
どちらにしても、向こうの内情を知っている人が協力してくれるというのはありがたい話だけども。
「どうせまた後で紹介はするけど、一応名前ぐらいは伝えておく。
背の低い赤毛の男が【ツェペシュ・ルーラン】
ガタイの良い体格の男が【レングス・ブラトニー】
金髪の女が【ヘレン・トリスト・アーマルゲイナ】
全員外国人だけど、日本に留学に来ていた時があったらしいから普通に日本語も喋れるから安心して。どうせあんた達、美桜さんはともかく男2人は日本語しか喋れないんだろうし」
失礼な。
日本語以外にもゾンビ語も話せるぞ。
……わざわざそんな事言わないけど。
「待って、今ヘレン・トリスト・アーマルゲイナって言った?」
「ええ。言ったけど?」
「その人、仲間内で《トリスタン》って呼ばれてなかったかしら?」
「そう言えばそんな風に呼ばれていたような気もする。知り合いなの?」
「やっぱり!間違いなく私の大学時代の友人よ!世界がこんな風になってからは連絡なんて取れていなかったけど、まさか生きてこっちに来てたなんて!」
珍しく美桜が興奮している。
まぁこんな世界になった上、顔見知りの人が生きてたら嬉しいよな。
いやー偶然って凄い。
世界は狭いな。
「ヘレンと知り合いなの?それならわざわざ私から紹介しなくても良さそうね。今でも元気にピンピンしてるから積もる話があるならするといい」
「ええ。言われなくてもそうさせて貰うわ」
美桜の知り合いが居ると聞いて以降、表情には出さないけどどこかウキウキしたような調子の美桜を横目に、僕達は大した問題に遭遇する事なくスムーズに目的の場所へと移動する事が出来た。
体感的には多分10数km程度。
道中普通の死還人に出会う事はあったけど、生きた人間や生体兵器に出くわす事がなくて良かった。
「ここよ。少し待ってて」
そうして久野の案内で辿り着いたのはコンクリートで作られた一階建ての飲食店だった。
シャッターが降りてて中の様子が見る事が出来ないけど、外装や掛けられた看板の雰囲気から多分バーとかそんな感じのお洒落な飲み屋だと思う。
「ルーラン、レングス、ヘレン。私よ。久野よ。私達に協力してくれる人達を連れて来た」
シャッター越しに久野がそう呼びかけると、ギギギ、と鈍い金属音を立てて降りていたシャッターが少しだけ開いた。
「狭いけどここをくぐり抜けて入って」
隙間は人がうつ伏せになってようやく入れる程度の広さだ。
死還人や助けを求めて群がる生きた人間が一気に入ってこないようにする為の処置なんだろう。
僕達は中に居る人達の意図を理解して、なるべく音を立てないようにして開いたシャッターの隙間を潜って店内に入る。
「おかえり。よく無事に帰って来てくれたね」
「ガッハハハ!思ったより早かったな!」
「ルーラン、レングス。ただいま」
僕達全員が店内に入ると、即座にシャッターが閉まる。
そして店の奥から2人の男性が久野を出迎えた。
大人しそうな口調の男がルーランで、豪快な笑い方をしていたのがレングスなのだろう。
さっき久野に聞いた容姿とも一致している。
「それで?監視カメラから外の様子を伺ってたけど、その3人が僕達に協力してくれる頼もしい戦力なのかい?」
「ええ。戦力として期待してくれていい。少なくとも、その辺にいる人間よりかは余程強い」
「ふーん……」
品定めするようにして2人は僕達の事をマジマジと見つめる。
「まぁ、そもそも人間じゃないんだけど」
「どう言う事だ?」
「美桜さん以外……女の人以外の2人はゾンビよ。だから身体能力は高いし必然的に戦闘力もある」
「えっ!?」
「おいっ!?」
久野から僕達が死還人であると告げられた途端、2人は怯えて恐れるような眼差しで僕達から距離を取ると近くに置いてあったテーブルを盾にして臨戦態勢に入ってしまった。
「大丈夫。この人達は普通のゾンビとは全く違う。そうじゃなきゃ2人はもう襲われて食われている筈でしょう?」
「いや、まぁそうだけどさ。……でも、彼らは本当にゾンビなのかい?見た目は普通……よりかは少し血色が悪いようには見えるけど生きた人間とそう大差ないじゃないか」
「……ヘイ。ツィー。マジだ。これで見てみろ」
「Allahallah……こんな事が本当にあるんだ。やっぱり彼女の予想は当たっていたんだね」
「?」
レングスがおもむろに取り出した双眼鏡のような物で僕達を覗き見て、その後それを渡されたルーランがそれを使って僕達を見ると、何か驚いたような様子で納得をしていた。
「彼ら、殆ど体温がないね。正確には、外気温とほぼ同等の体温だ。人間が恒温動物である以上、通常時の体温は常に36℃前後を保っていなきゃおかしい。それ以上の体温でも、それ以下の体温でも人体には何らかの悪影響を及ぼす。でも、彼らにはそんな素振りは一切ない。何の苦しさを感じた様子もなく普通に立っている。それが当てはまるのは、僕は今の所ゾンビになった奴しか知らない」
「死体の体温が外気温とほぼ同等になる現象の事をAlgor mortis……日本語だと《死冷》とか言ったか?にわかには信じ難いが、そんな状態で平気そうな顔をして活動している所を見るとこいつらはゾンビで間違いなさそうだな」
今まで自分の体温なんてそこまで気にした事が無かったけど、どうやら僕達の体温は気温とほぼ同等にまで下がっているらしい。
今の季節が春を少し過ぎたくらいだから20℃を越えるか越えないかぐらいだろうか。
普通に生きている人間の体温がそこまで下がったら低体温症で死んでいるのは間違いない。
だから僕達がゾンビであると体温を見ただけで確信したのだろう。
「でも、どういう事だい?彼らはゾンビで間違いないだろうけど、生きた人間の僕達を前にして一向に襲いかかる気配がない。……もし、本当に彼女の予想が当たっているのだとしたら、彼らは自我を保ったままのゾンビって事になる。僕達の常識を覆す、とても稀有なゾンビって事に」
「それについては私から説明するわ」
僕達の存在について疑問を投げかけたルーランに対し、美桜が説明役を買ってくれた。
助かる。
「君は……?」
「私は天祢美桜。神農製薬の元幹部。色々とあなた達の役に立てると思うわ」
「神農製薬の生き残りがハイル以外にまだ居たのかい!?彼以外は死んだと聞かされていたからそんな事思っても見なかったよ」
「普通の平社員はどうかは分からないけど、幹部格の人はほぼ生き残ってると思うわ。どいつもこいつも癖のあるしぶとい奴らばっかりだから」
「癖のあるしぶとい奴ら、か。確かに彼を見てるとその通りな気がするよ。とりあえず、僕の名前はルーラン・ツェペシェだ。よろしく頼むよ。天祢さん」
簡単に自己紹介をすると、美桜とルーランは握手をする。
「それで、彼らについてだけど天祢さんは色々知っているんだろう?僕達にも教えて貰ってもいいかい?」
「ええ。元よりそのつもりよ。だから説明役を名乗り出たのだし。でも、その前に会わせて貰いたい人が居るのだけど、会わせて貰っても良いかしら?」
「それは構わないけど、ここには僕達以外には後1人しか居ないよ?」
「その1人に会いたいの。居るんでしょう?トリスタン。……と言うより隠れてないでさっさと出て来なさい!」
そう言って美桜はテーブルの上に置いてあったプラスチック製のコップを壁際に掛かっている黒いカーテンに目掛けて投げつける。
「Oh……!」
そして、何か柔らかい物に当たったような音がするのと同時に艶めかしい声で唸る声が響くとカーテンの裏から腰元まである長い金髪と碧眼の持ち主の女性がお腹をさすりながら出てくる。
「痛いデスミャオミャオ!折角の再会なのだからもっと感動的なシーンにするべきデス!」
「なにが感動的なシーンよ。私がカーテンに近づいた瞬間出てきて驚かすつもりだった癖に」
「うぅ……ミャオミャオはつれないデス。いつも私のサプライズに引っかかってくれません」
「バレバレなのよ。いつも。……でも、こんな世界になってもあなたが変わらないでいてくれて嬉しいわ。トリスタン」
「ミャオミャオも変わらないみたいで良かったデス!」
「君達、知り合いなのかい?」
「お前、日本人に知り合いなんか居たんだな」
久しぶりの友人との再会を懐かしむ美桜達。
僕達が取り残されてる感は否めないけど、折角の再会なんだから大人しく傍観しているとしよう。
「な?」
「だな」
錬治も僕の思いを汲み取ってくれたみたいで、特に会話に割って入る事なく僕達はしばらく店内をうろうろと見学する事にした。




