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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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しばしの別れです

「これで理解してもらえた?私はあいつらにとって都合の良い実験動物でしか無かったの。両親を殺されて、神農製薬と自衛隊と一般人……この世の全ての人間に対して復讐を誓った私の想いを踏みにじるようにしてあいつらは成功するかも定かではない非道な人体実験を私達に行った。……それでも私はまだいい方。こうして復讐の為に必要な力を得られたのだから。だけど、私と同じように絶望し、救いを求めてあいつらに差し伸べられた手を取った他の人達はどうなるの?あの人達だって成し遂げたい何かはあった筈。なのに、生きるか死ぬかも分からない手術の実験台にされて、何も為すことなく死んでしまった」



 大切な人を亡くし、その人達を悼む気持ちはあまり僕には分からないけど、それでも久野が強い憤りを感じているのは分かる。

 僕達と戦った時の久野は復讐心に囚われ過ぎていたと言っても過言ではないくらいに苛烈で凄まじい怒気を帯びていた。

 大切な人を守る事が出来なかった自衛隊と、そんな世界に変えてしまった神農製薬への怒りが他人である僕にも感じ取れる程に。



「私自身、復讐の為に罪なき人を殺めているから偉そうな事が言えた立場じゃないのは分かってる。でも、こんな世界になったからこそ信じた人に裏切られるのは耐え難い屈辱だし何よりも許せない。だから私もあいつらを見限る事にした。力を与えてくれたのは感謝している。でもそれだけ。私を殺そうとしたあいつらを逆に私が殺してやる。……そんな考えに至った私を頭のおかしい奴だと思う?」



 だけど、そう言いながら僕達に問い掛ける今の久野の目には以前のような怒り狂った復讐心を感じさせる程の強い感情が見られない。

 それどころか穏やかな悲しささえ感じられる。



「久野、1ついいか?」


「何?」


「お前は本当にケリー・ハイルとアスクレピオス社とやらに復讐がしたいのか?」


「どうだかね。あいつらを殺したいとは思うけど、復讐がしたいのかって聞かれたらそうでもないような気がする。……多分、私は弔いたいの。私と同じように絶望し、救いを求めながら死んでいった赤の他人を」



 久野の目に宿る悲しさはそれか。



「勿論世界を壊した神農製薬は今でも許せないし、許すつもりはない。でも、同じ神農製薬の人間でもあんたは……天祢さんは違う人種で、あのクソ餓鬼が憎むべき人種って事は分かった。だからもう誰かれ構わず殺すのはヤメ。殺すべき人間を選別し、殺す事にする。壊れた世界がより壊れない為に。少しでも早く、正常な世界に戻るようにクズ共を私は殺す」



 復讐心に囚われ、怒りのままに暴力を振るっていた人がここまで変われるものなのだろうか。

 少なくとも、僕には無理だろう。

 大事な感情そのものが欠如している僕にとって、一度やると決めた決意を放棄してまで新たな決意を結ぶ事なんて出来る気はしない。

 それも自分の為ではなく、誰かの為になんて。



「……久野さん。あなたはそれでいいの?確かにあなたは非道な実験の被験者となった。けど、あなたが望むならその触手を切除し、普通の身体に戻してあげる事が私なら出来る。勿論、ある程度の設備があればの話だけど……」


「その気持ちだけ貰っておく。今更普通の女の子に戻れるわけないでしょう?それに、こんな世界だからこそ力が必要なの。ひ弱な女の子じゃ為したい事も為せずに諦めなきゃいけない。だから私はもうこのままでいい。このままやると決めたの」


「……そう。そこまで決意が堅いのならあなたの好きにしたら良いわ。あなたは何も間違っていないし、あなたの信じる道を進めば良い。私の力が必要だと言うなら協力だってするわ」


「美桜がそう言うなら僕も何も問題はないかな。こうして刺客が送り込まれて来た以上、向こうも僕達を殺す気で居るんだろう?なら、今は少しでも戦力は欲しいし向こうの内情を知っている人が必要だと思う。僕も久野に協力するし、協力して欲しい」


「鈴と美桜さんが賛成だって言うなら勿論俺も手を貸させて貰うぜ」


「……お人好しな人達。一度は本気であんた達を殺しかかったって言うのに」



 実際僕はガチで死にかけたしかなりヤバい状態だったけどな。

 まぁ結果として生きている(?)んだから過去の事は水に流そう。

 うじうじ昔の事を考える方が面倒だ。



「綺麗に話がまとまりかけている所、割って入って申し訳ないが俺達の話も聞いてもらえないか?」



 これまで特に会話に入る事なく静観していたあずまが久野に話しかける。



「お前と天祢さん達の間に過去に何らかの関わりがあった事は分かったし、俺達としてもこれからあんな化け物がぞろぞろと出てくるようなら強力な戦力が加わってくれるなら歓迎すべき事だ。それは、俺達全員の総意でもある。ただ、その前に1つだけ聞かせて貰いたい」


「何?」


「お前はさっき俺達を観察していたと言ったよな?なら、俺達が触手之巨人ギガンテスに襲われていた時もどこからか眺めていたのか?あれだけの数を1人で殲滅出来る力がありながら、俺達を見殺すようにして」


「あんた達の事はずっと見ていたわ。ここから遠く離れた場所で3つのグループに分かれた時から。初めはどこのグループを追いかけて協力を求めようかと思ってたけど、あんた達のグループに見知った顔が……天祢さん達が偶然にも居たからそのまま追いかけて来たのよ。だからあんた達がType-Mを発見して近くのビルに逃げ込んだのも知っているし、Type-GFに一部の人が苦戦していたのも知っている」


「……それだけ見ていたのなら何故助けてくれなかった!お前なら俺達を助ける為に動く事なんて容易い事だっただろう!」



 言われてみればそうか。

 大量の触手之巨人ギガンテスを瞬時に殲滅した久野の戦闘能力は僕達の誰よりも秀でている事は火を見るより明らかだ。

 久野がその気になれば僕達を助ける事なんて赤子の手を捻るより簡単だった筈だ。



「私の話を本当に聞いていたの?私の目的はケリー・ハイルとそれに協力するアスクレピオス社の連中を殺す事。そして、あいつらの周りにはType-MやType-GFなどの強力な生体兵器がうじゃうじゃしている。しかも、あんた達が遭遇したType-MとType-GFはアイツらの主力とも言える戦力よ。そんな奴らに苦戦し、あまつさえ殺されるような奴ならそもそも要らない。だから見極めていたの。あんた達が私の目的達成に足り得る存在かを」


「……!」



 東の言いたい事は分かるが、久野の言い分も理解出来る。

 もしこれからケリー・ハイル達の本拠地に攻め込むのなら、中途半端な戦力は予め削ぎ落として選り抜いた少数精鋭で攻め込んだ方が隠密性は高く奇襲も掛けやすい。

 たった1人で突然現れた久野が大量の触手之巨人ギガンテスを殲滅した事からその戦略の有用性は既に実証されていると言ってもいい。



「で、結果だけど案の定天祢さん達3人は合格。その他はあんたとあんた。それにその2人と一緒に戦っていた人達は合格。後は全員不合格。別について来てもいいけど、何かあっても守ってやれる保証は無いから無理してついてくるのはあまりオススメしないわ」



 久野が合格を出したのは東と花木のグループのみで、その他の僕達3人が加勢に入ったグループは久野的には不合格らしい。



「ちょっと!そんな言い方ないんじゃないかな!他の皆んなだって必死に戦っていたんだよ!」



 久野の言い方に頭にきたのか、花木が声を荒げながら反論する。



「必死に戦っていた、じゃあ駄目。余裕で戦って勝てるくらいの強さが無ければ奴らに瞬殺されるのがオチ。それに、私は別にあんた達にもついてこいと強制をしている訳じゃない。私の言い方とやり方に不満があるなら別についてくる必要はないし、天祢さん達の協力が確約された以上あんた達が欲しがってる自衛隊の装備の場所は教えてあげる。勿論、一部は私達が持って行くけどね」


「でも……!」



 花木にも色々と思う事はあるのだろう。

 だけど、実際花木達の本来の目的は自衛隊の物資を確保する事。

 それ以上の事は誰にも求められていないし、花木達のリーダーである水先もそんな指示は出していない。

 危険を冒さずここで引いた方が賢明なのは間違いない。



「天祢さん。あんたはそいつと一緒に行くのか?」


「ええ。この子と行かないにしても、結局いつまでも命を狙われるのなら予めそんな脅威を排除しておくに越した事はないから。」


「鈴は?」


「僕は美桜の決定に従うだけ。別に異論はないしな」


砂垣すながきもか?」


「美桜さんと鈴が行くってんならそれが俺の選ぶ道だからな」


「……そうか」


「東、どうするの?」



 僕達が久野に協力するという意思を明確に示したら、東の顔は険しく変わって俯いて何かを考え始めてしまった。

 そして、花木や他の人達を集めて水先グループのみで集まって何やら相談を開始する。

 そして十数分程話し合いを続けると、東を代表にしてまとまったであろう意見を久野に伝え始める。



「水先さんの立てた計画の目標は自衛隊が残した物資の回収、及び全員の帰還だ。お前の話が本当ならお前について行く事で少なからず犠牲が出る事になるのは間違いなさそうだ。だから、俺達はここで一度引いて水先さん達に合流する。そして事の顛末を話した上でどうするかを決めて貰う事にした」


「そう。まぁそれがいいでしょうね。足手まといになるくらいなら居ない方がマシ。居たとしても肉壁になるだけだからその判断は賢明よ」



 そう吐き捨てる久野の言葉に場の空気が少しヒリつくが、僕の知った事じゃ無い。

 好きにやってくれ。



「あぁ。俺達は全員戻らせて貰う」


「ならこれをあげるわ。そのメモの場所に隠してあるから好きに持っていけばいい」


「……助かる」



 久野はズボンのポケットから出した紙の切れ端を東に手渡し、紙の切れ端を手渡された東はその内容がどんなものかを確認して間違いがない事を確かめる。



「……実際に行ってみて確認しない事には何とも言えないが、ここで嘘を吐く理由もないだろう。ありがたくこのメモは有効利用させて貰う」


「ええ。弱いなりにも精々頑張りなさい」



 久野はそれだけ伝えると、後は大して興味がないような眼差しで東達を見据えて何も言わなくなってしまった。



「天祢さん、悪いな。折角今まで協力して貰ってたのにこんな別れ方になってしまって」


「別に気にしなくてもいいわ。水先の決定次第ではあなた達も大和ドームに来てハイル達を倒すかも知れないのでしょう?それなら、今生の別れって訳でもないしいつかの日に会える事を期待しているわ」


「ありがとう。鈴と砂垣も世話になったな」


「東、頑張れよ」


「お前達なら大丈夫だと思うが、それでも生き残れよ」


「あぁ!またいつか、会える日が来たらその時はよろしくな」



 そうして東達水先グループ17人は僕達と別れ、水先が居るであろう場所を目指してどこかへ行ってしまった。

 また会える日があればいいけど。

 生き残れるよう頑張れ。



「さて、と。別れの挨拶は終わった?それじゃとりあえずまずは自衛隊の残した武器を取りに行くよ。私についてきて」


「ええ」


 東達が視界から消えたのを確認すると久野は変わらない調子でこれからの行動を僕達に指示を出した。

 この調子だとしばらくは久野に主導権を握られそうだけど、僕が何かを考えずとも話が進むならそれに越した事はない。

 僕達は久野に従い自衛隊の武器を隠したという場所に向かって移動を開始した。


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[一言] 何で助けてくれなかったと言われてもそんな義理はねえ、で終了ですわな 気持ちはわかるけど、それこそ現代社会でだって誰も彼も困った人、危難に会ってる人を助けてくれるわけでもないんだし、いわんやポ…
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