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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
95/149

録音されていた内容です

 

『コンコン。


「どうぞ」


「よう。元気にしているかい?」


「君の顔を見るまでは、ね。君が僕に会いに来る時は決まって面倒事を報告する時しかないから既に気が滅入っているよ。それで、今日は何?」


「久野菜絵が死んだ」


「……本気で言ってる?」


「俺が今まで嘘の報告をした事があるか?」


「……誰にやられたんだ?まさか自衛隊じゃないだろう?」


「自衛隊員相手にはType-Sの名に恥じない一騎当千の力を奮っていたぜ。彼女を倒したのは3人の一般人だ」


「馬鹿な。試作型とは言え久野菜絵は《触手》の適合者だぞ?手術の副作用で身体能力は勿論、思考能力も向上しているType-Sの1人がたかだか普通の人間にやられたって言うのか?」


「まぁ落ち着けよ。俺が見たのは確かに普通の人間だったが、不自然な点がいくつかある」


「それは?」


「俺は今3人の一般人と言ったが、その内2人はそうでは無かったと思っている」


「と言うと?」


「3日前、俺と菜絵は2人で付近に潜んでいた一般人を完全に排除する為に手当たり次第に殺し回っていた。いくつかのビルを回った後、ふと窓の外を2人の男女が歩いていたのが見えたんだが、女の顔を見て驚いたぜ」


「何故?」


「お前が見かけたら教えて欲しいって言っていた内の1人、天祢美桜あまねみおだったからさ」


「!」


「最初は見間違いかと思ったが、何度写真を見比べても本人に違いなかった。だから俺と菜絵は一芝居打って、まるであたかもゾンビに襲われたかのように振る舞い、接触を図ったんだ。まんまと演技に騙されて俺達を助ける為に近寄って来てくれた時は笑いを堪えるのが難しかったってもんだ」


「それで?」


「適当にここに居たのはゾンビに襲われたのは俺達だーとか言ってみたり、菜絵に悲鳴をあげさせたからそのついでに怯えるか弱い少女を演じさせてみたりして被害者を装ったんだ。で、人の良い彼女達は俺達の事を信じ切って気遣ってくれた。甘い奴らだよ」


「天祢はそういう奴さ。その後はどうしたんだ?」


「向こうもこっちの正体が分からず戸惑っているみたいだったから()()()()()()()()()()()を話して身元が確かである事を信じさせた。菜絵にはなるべく喋らさせずに怯えてるフリを続けさせてボロが出ないようにしてな。ただ、それでもあまり喋り過ぎるとどこかで矛盾が出ないとも限らなかったから、他の自衛隊が設営した避難所の場所を伝えてそこに向かわせるように促したんだ。実際その後は2人どっかに行った訳だが」


「なるほど。当時の状況は理解した。だけど今の所君の言う不自然な所は何もないように思えるんだけど?」


「まぁそう焦るな。天祢達がどこかへ行った後、俺と菜絵は別行動をする事になったんだ。俺は天祢を発見した事を本部へ伝える為。菜絵は天祢達を殺す為に」


「……何故そんな勝手な行動を許した?僕は見つけたら教えてくれと頼んだが殺せとは言っていないぞ?いずれは殺すつもりとは言え、天祢にはアイツが研究していた《移植によって拒絶反応を無くす方法》について聞かなければならない事があるんだ。あの技術だけは何としてでも手に入れなければならない」


「俺に言うなよ。俺がType-Sの成功者に勝てる訳ないだろう?菜絵もこの世界がおかしくなった原因である神農製薬の幹部を前にして冷静では居られなくなったんだろう。俺がちょっと目を離した隙には既にもう居なくなってた。慌てて辺りを探して見つけた時には既に天祢達と交戦状態だったんだ」


「止めようとは思わなかったのか?」


「わざわざ危険を冒してまで止める必要はないと思ったからな。それに、菜絵が戦うならその戦闘データをサンプルとして入手する方が価値もありそうだったから俺は姿を現さず遠目から観察してた。で、だ。そこで妙な事が起きたんだ」


「何が起きた?」


「菜絵は天祢と藤堂って2人の人間に加え酷く血色の悪い1人の男の3人を相手にしていた。最初に攻撃を仕掛けたのは菜絵で、触手で藤堂の心臓付近を貫いたのにそいつは死んで倒れるどころか血色の悪い男に指示を出してその男の身体にも触手をわざと貫かせて、そのまま2人で掴んだ触手を力任せに引きちぎりやがったんだ」


「力任せに引きちぎった……?馬鹿な!アレは人間の力でどうこう出来るような代物じゃないぞ!火器を用いてやっと損傷をを与えられるだけの強度だと判明している!」


「だが実際アイツらはその手で引きちぎった。流石に俺も異常だと思ったよ。だからまさかとは思いつつ温度観測器サーマルスコープを使って3人の体温を見てみた。そうしたらまぁ案の定と言うか、藤堂と血色の悪い男の体温はその時の周囲の気温の20℃前後とほぼ同等。お前ならどう言う事か分かるだろう?」


「……生きた人間である以上、36℃前後の体温を保つのが普通だ。極端に冷たい水にでも浸かって体温が冷え切ったのでも無ければ、それは死冷しれいと呼ばれる恒温動物の死体の温度が外界の温度にまで低下してする現象によって引き起こされた体温の可能性が高い。つまり、そいつら2人はゾンビだったと?」


「そうなるな。少なくともそうじゃなきゃ身体のあちこちを菜絵の触手で貫かれているのにピンピンしながら暴れていた説明がつかん。……で、だ。ここでようやく奴らの不自然な点が出てくる訳だ」


「教えてくれ」


「まず、ゾンビってのは生きた人間を見かけたら見境いなく襲ってくるもんなんだろう?なのに、俺と菜絵が天祢と藤堂に出会った時、藤堂は俺達に襲いかかる事無く平然としていた。アイツらと別れてから殆ど時間が経っていないまま菜絵との戦闘になったんだ。その間にゾンビに襲われて藤堂がゾンビになったとは考えにくい」


「じゃあ君はその藤堂という男は君達に出会った時点でゾンビだったにも関わらずゾンビ特有の食人作用が発動せず大人しくしていたと、そう考えるのか?」


「そう考える方が妥当だ。で、2つ目だが、藤堂がゾンビだったとして、何故生きた人間である天祢に付き従うように行動していたのかが分からねぇ。ゾンビの行動を支配する強制洗脳装置ってのはここにあるの以外にも存在するのか?」


「いや、アレは僕が蒼矢の報告書レポートを元に改良したものだから他には存在しない筈だ。そもそも、こんな荒廃した日本であんなに精密な機器が作れる場所がそうあるとは思えない」


「だったらやっぱり謎は解決しない、か。まぁ今はとりあえずその問題は置いておこう。最後の3つ目の不自然な点だ。俺はさっき、天祢と藤堂と血色の悪い男が共闘して菜絵と戦ったって言ったよな?」


「そう言っていたな」


「だが、3人が全員普通の人間なら別に何とも思わないが、内2人がゾンビだとするとおかしいだろう?ゾンビの知能は低く、こちらの言う事なんてロクに理解しない。加えて普段は生前の習慣を繰り返すだけの浮浪者みたいなもんだ。なのに奴らは見事な連携を持って菜絵を倒した。藤堂に至っては血色の悪い男に何かしらの指示を出してたぐらいだ。今まで考えていたゾンビのソレとは随分と違うだろう?」


「……低いながらもゾンビにも一定の知能がある事は分かっている。そして、もしかしたら生前と変わらないだけの知能を維持したゾンビも居るのではないかって話も出ている。未だにそんな個体は確認されていないが、天祢に従うそいつらがソレなら……」


「難しい事は俺には分からねぇけどよ、とりあえず俺が持ち帰った情報はそれだけだ」


「分かった。……そう言えば久野菜絵と天祢達は最終的にどうなったんだ?」


「天祢達に敗れて菜絵は捕縛されちまったが、背中に隠し持っていた触手を使って脱出。天祢と少し話をした後はそのままどこかへ消えちまった。まぁ、あの傷じゃ生きては居ないだろう。それ故の死亡報告だ」


「そうか」


「天祢達は倒れて動かなくなった藤堂を連れてどこかへ走り去っていったぜ。方角的に鏑木かぶらぎ病院にでも向かったんじゃないか?治療の為に病院に残された施設を求めて行ったのなら可能性は高いだろうよ」


「……分かった。状況は理解した。何はともあれご苦労だったな」


「おう。でも良かったのか?Type-Sの成功者ってのは結構貴重だったんだろう?こんな所で失ったら色々と支障が出るんじゃないか?」


「《触手》に限っては安定して移植手術が出来る目処が立ったから問題ない。それに、いずれにしても久野菜絵は廃棄処分にする予定だったんだ。そのまま死んでくれたのなら手間が省けて助かるよ」


「廃棄処分?戦闘能力は申し分なかっただろう?」


「申し分が無いどころか、本来予想されていた数値を大きく上回る性能を出してくれたよ。それだけなら優秀な一言で済ませられたけど、アイツは強制洗脳装置が効かない体質の持ち主のようでね。万が一にもアイツが僕達を裏切った時に、成長を続けるアイツの戦闘能力を前に僕達の兵力では抑えきれない可能性が出てきた。だから近々処分をする予定を組んでいた」


「……はっ!菜絵も可愛そうな奴だな。両親や友達を殺されて、その復讐の為に武器を手にしたってのにその武器を手渡した張本人から殺される未来が待っていたなんてよ。菜絵はお前の事を【大恩あるあの人】って慕っていたってのに」


「久野菜絵が特別だった訳じゃない。生体兵器の移植が適合するなら誰でも良かったし、たまたまアイツが適合しただけ。アイツが僕の事をどう思おうと、僕はアイツらType-Sの事を本番前の使い捨ての駒としか思っていない。たかだか使い捨ての駒に一々感情移入なんてしていられないさ」


「……ったく、お前が味方で良かったとつくづく思うよ」


「僕としては君と敵対して君の身体を調べたいとこだけどね。その特異な体質、実に興味深い」


「ふざけろ。冗談じゃねぇ。そういうのは生きてる価値のない雑魚共相手にやってくれ」


「ふっ。残念だ」


「ま、とりあえず言うべき事は伝えたぜ。後はどうするかお前の好きにしな。俺の力が必要なら今度はアスクレピオス社を通してくれ。今はもう自衛隊に所属してないからな」


「あぁ。そうさせて貰うよ。しばらくは死ぬなよ。()()


「お前もな。()()()

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― 新着の感想 ―
[一言] ハード(科学技術)的な完全洗脳無理でもソフト(精神)的な洗脳施せばよかったのに、と思ったけど、よく考えたらものによっては暴力的なのが必要だから戦闘能力優越な菜絵相手にゃ無理っぽい?
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