そろそろ行きます。
「待て待て待て待て!!?落ーちー着ーけー!!!」
「ガー(嫌だ)」
ガシッと遠藤の首を掴む。
「クソ!結局はお前もゾンビってことかよ!許せ!」
遠藤が手に持った拳銃で僕の額を狙う。
これ、マジで発砲されると確実に活動停止パターンだな。
僕が首の骨をへし折る為に両手にグッと力を入れようとした瞬間、
バン!と乾いた破裂音が部屋の中に響き渡る。
遠藤が僕の額を狙って引き金を引いたのだ。
……だが、その銃身から弾丸が出る事はなく、火を吹いただけで僕の額を撃ち抜くことは無かった。
「は……?も、もう一発!」
バン!
「もう一発!」
バン!!
「もう一発!もう一発……」
結果、遠藤が持つ拳銃から弾が発射されることは無かった。
こうやって見ていて分かった。
これはあれだ。
遠藤が持ってるこの拳銃、百均でよく売ってる玩具の類いのやつだ。
リボルバー式で専用の火薬を入れたら音が鳴るやつ。
陸上競技のスタートとかで使われる雷管?のようなものだ。
本物そっくりだから焦ったじゃないか。
「ウガー (勘違いさせるなよ)」
「そう……思うのなら……首、手、離し……」
「ガ (あ)」
「ゲホッゲホッ!ウェーホ!ゲホッゴハーッ!」
ごめんごめん。
考え事してて気づかなかった。
よく考えれば当たり前だよな。
一般人がそんな当たり前のように銃なんか持ってられたら敵わないって。
銃を持ってるのは自衛隊とか一部のチート連中だけで充分。
漫画じゃ無いんだからさ。
「……あーもう!今日は厄日だなクソ!後から食べようと思ってたオニギリは腐ってるしゴキブリ(メス)は踏んづけるし高い金使って買った拳銃はモデルガンだし!」
「ウーガ? (全部自業自得だよね?厄日関係無くね?)」
「煩い!放っておけ!」
「ガガー (未然に防げた出来事。これだから人間は)」
「なんか腹立つな!」
……さて、この残念な人間は置いといて、そろそろこの家を出ていこうかな?
遠藤は特に驚異の無い引きこもりだし、むしろ戦闘力が無い人間だから放っておいても問題無いし。
適当に遊んでたらやる気も出てきたから行くなら今だな。
うん。
「ガーー (よし。僕もう行くわ)」
「は!?もう行くのか!?」
「ウー (うん。だってこの家に来たの偶々だし。用事があったわけじゃないし)」
「俺の対戦相手は!?」
「ガーウー (他を探せ)」
「そんな……!」
遠藤がびしょ濡れの捨て犬がすれ違う人に向けるようなうるうるした目を僕に向けるが、気持ち悪いだけなのでガン無視だ。
遠藤を放っておいて僕は一階に降りる。
……あぁそうだ。
行きはよいよい帰りは怖い。
僕の駄目になった三半規管が悲鳴を上げながら階段を降りる。
登り以上にふらついてしまい、何時転げ落ちてしまってもおかしくは無い。
ヤバいヤバい。本気で落ちそう。
……ゾンビの特徴追加。
急な段差は降りれません。
降りれるにしてもかなり時間がかかります。
大体十数段の階段を20分近く費やしてやっとの思いで降り切る。
手すりがあったらまだ楽だっただろうなー
僕は玄関の扉に手をかけ、見送りに来た名残惜しそうな表情の遠藤を見る。
「本当に……行くのか?」
「ガガー (当たり前だ。てかそもそも僕はゾンビだぞ?人類の敵だ。引き留めてどうする)」
「そりゃお前……ゲームの対戦相手が居るなら人間でもゾンビでも構わねぇからな!さっきはちょっと取り乱して殺しかけたけど!まぁ許せ!」
「ガー…… (お前はなんという……)」
「でも行っちまうのならしょうがねぇ!ゾンビにもゾンビなりの活動があるんだろうよ。だが、それでも1つだけ覚えておいてくれ。他の人間に殺されそうになったり、居場所が無くなったら何時でも俺の所に来い!随時対戦相手を募集中だからな!」
「ウーガーガー (お前、筋金入りのゲーマーだよ。普通ゾンビを対戦相手にしようとは思わない。真っ先に襲われるのは目に見えてるし。多分お前みたいな奴が死なないんだろうな」
「俺は死なねーよ!なんとか逃げ切るさ!」
「……ウー? (……一応言っておくが、相手が僕がじゃなかったらお前絶対に喰い殺されてたからな?勘違いするなよ?)」
「死んだら死んだでお前みたいになってるだろうからそれはそれでありさ!」
「……ガーウ (……お前、間違いなくゾンニートの素質あるよ)」
「ん?そうか!そりゃ嬉しいな!」
「ガー…… (喜んでどうする……。まぁ、また機会があれば立ち寄らせてもらうとするよ)」
「おう!何時でも来い!それじゃあな!」
「ガ (じゃーな)」
遠藤に見送られ、僕は遠藤の家を後にした。
何故か最後は居心地がいいように感じたが、気のせいだろう。
あんなキテレツな人間相手に居心地がいいとか感じる筈がない。
遠藤。無いとは思うが次に僕が来るようなことがあったらそれまでに階段に手すりを付けておけよ。
それか一階にゲームを配備しておけ。
そんなことを考えながら僕はまた目的地に向かってノロノロフラフラ歩き始めた。